8 エンディングリスト
もしも様々な終わりがあるとしたら。IFエンド4種類です。
■エンディングリスト
End1 「そして2人で」(ミチカ・リパー・エンド両生存)
End2 「悪夢と喪失と」(ミチカのみ生存)
End3 「君のいない世界」(リパー・エンドのみ生存)
End4 「終焉」(2人とも死亡)
■1 「そして2人で」(ミチカ・リパー・エンド両生存)
「……あんたって、本当に最悪よね」
私が渋々ながらも契約に応じると、彼はさっさとフィリップの契約を切って私の死霊となった。その瞬間、許容量オーバーで私はぶっ倒れた。
何しろエミリオだけでも許容量ギリギリだったというのに、馬鹿みたいな魔力の持ち主であるリパー・エンドとの契約は残った魔力をこそぎ取るようなものだった。そりゃあ倒れもする。
「そう? よく言われるけど」
けらけらと笑うのはリパー・エンドである。
先ほど、寝台の上で目が覚めたらいつの間にかエミリオはいなかった。隣の椅子にリパー・エンドが暇そうに座っていた。どうやら彼が勝手に私とエミリオの契約を切ったらしい。何でもありかこの人外が。本当に死ねばいいのに。
……まぁエミリオは、リパー・エンドのされるのならばどんなことでも喜びそうな気がする。
「だって死霊が二人もいたらミチカが大変でしょ?」
「いやいや、あんたがあの世に戻ればいいんじゃないかな!」
まるで私を気遣っているかのような台詞を吐いてはいるが、原因は目の前のこの男である。
「えー、だって僕まだ遊びたいしさ」
「……」
ああ。本当に失敗である。こんな奴と契約なんてするものかと思ったのに。
嫌だと言った場合、本当に殺される気がしたのである。脅迫だ。最悪だ。
私は痛む頭を抑えつつ、リパー・エンドを睨んだ。
「……言っておくけど、無節操に殺さないでよ」
契約自体は以前と同じ、主の殺害はできず、私の制止をほどほどに聞くというような感じである。このほどほど、がミソだ。
「うんうん、ミチカのことを殺しに来た人だけにするって」
彼は舌なめずりするようにちらりと赤い舌で唇を舐める。契約の拡大解釈をする気満々である。そのうち「風が吹くからあいつを殺してくる」とか言い出すんじゃないかと思っている。
……はぁ、と私が大きなため息を吐くと、彼は笑う。
「ダメだよ、ミチカ」
「分かってるわよ、幸せが逃げるんでしょ」
ため息をつく度に幸せが逃げるというのならば、ため息をつかねば幸せになれるのだろうか。いや、幸せな人間はそもそもため息などつかないのだろう。
「あんたがいなくなれば、もっと幸せになれるわよ」
「うーん、それは僕が幸せじゃないから嫌だな」
殺人鬼の幸せなど知ったことか。
睨む私の視線に、彼は笑うと立ち上がった。
「じゃあ、行こうかミチカ」
そうして差し出された手を、嫌々ながら私は手に取ったのだった。
■2 「悪夢と喪失と」(ミチカのみ生存)
本編のエンディングになります。
■3 「君のいない世界」(リパー・エンドのみ生存)
自分を縛る鎖は無くなった。
昔と変わらず、何をするのも自由。そんなどろりと血なまぐさい世界に戻って来たのだ。
そう思う彼の口の端が上がる。くく、と声が漏れた。
窓の外を見ていたリパー・エンドの背に、声がかかる。
「リパー・エンド」
「ん?」
フィリップの呼びかけに彼が振り向くと、フィリップは一瞬だけ息を呑んだ。
「……次に殺す人のリストを、置いておきますね」
「はいはい」
適当に返事をしたリパー・エンドに、彼はしばらく躊躇ったあとに言った。
「……あまり殺気溢れた態度を取られると、臆病な私には恐ろしいのですが」
「あはは、そう? ごめんごめん」
何の誠意もない謝罪を口に出したその殺人鬼は、フィリップの言葉に笑う。
本当に臆病な人間なら、そもそも彼と契約をしようなんてしないだろう。死ぬ可能性もあるのに。彼女のように。
「……ミチカ・アイゼンのように殺されてしまってはたまりませんからね」
フィリップの口にした言葉に、リパー・エンドはゆっくりと笑みを漏らす。
「後悔しているよ? ちょっとは」
「ちょっとですか」
「もう少し遊べば良かった、ってね」
彼の手であっさりと。本当にあっさりと彼女は死んでしまった。人の命は本当に脆い。
何とも言えない苦い表情でフィリップが去った。
その後、リパー・エンドが部屋の中に一人佇んでいるとどこかから何か聞こえた気がした。
それは泣き声のようでも、呆れた声のようでもあった。
「……ミチカ?」
少しだけ気になって、彼は窓を開けて外を見た。まばゆい月の光が目に映る。夜の闇の中、誰の気配も感じられなかった。
「……」
幻聴か、とどこか少しだけがっかりして窓を閉じる。
残念なことではあるが、彼女が生きているはずがないのだ。後悔はしている。だけど。
「もう僕を止める人はいないからね」
くく、と小さく零れる声は、酷く陰鬱で、歪んだ狂喜に彩られていた。
「――さて、僕が大陸中を殺すのが先か、フィリップが殺されるのが先か」
数年後。
大陸中を恐怖と混乱に陥れたその死霊、リパー・エンドは土に還った。
彼はミチカ・アイゼンという死霊術士により蘇った殺人鬼である。途中から契約主をフィリップ・ノベルに変更し、前の主であるミチカ・アイゼンを殺害したのだ。
ところがその後、フィリップの制止も受けつけず、彼は思うまま自由に人を殺すようになってしまった。焦ったフィリップは契約の解除を試みたが思うようにいかなかった。国は甚大な被害を出しながらも抵抗するフィリップを捕獲。その後処刑した。
捕獲されたフィリップは、リパー・エンドに守られていなかった。フィリップの処刑を見物に来たリパー・エンドにその理由を尋ねると、「彼が掴まったら終わりにしようと思っていたからね」と血にまみれた笑顔で応えたと言う。
これがこの大陸で死霊術が禁呪になるまでの経緯であった。
■4 「終焉」(2人とも死亡)
解放された。そのはずだった。
「フィリップ」
リパー・エンドがフィリップの部屋に入ってきた。めずらしいこともあるものだと彼は手にしていた書類を机に置いた。
「どうしました? リパー・エンド」
先日、フィリップにとって邪魔な存在であったミチカ・アイゼン、ベイル・デイタを共に殺害し、憂いもなくなった。今後は国に貴族位の保証や手出しをさせないように手配をしなければならないだろう。
時間がどれだけあっても足りないほど忙しかったが、フィリップにとってリパー・エンドは大事な駒である。用事があるというのならば聞かねばなるまい。
そんな気持ちで彼に尋ねたフィリップは、リパー・エンドの言葉に目をむくこととなった。
「もういいや。飽きた。死んで欲しいんだけど」
あっさりと告げられたその言葉は冗談でも何でもない。彼の冷えたような目がフィリップを捉えた。
「……な、え……、え?」
何事を言っているのか。どういう意味なのか。
彼が尋ねるよりも早く、フィリップの周囲に居た護衛が彼を守るようにその前に出た。
5人ほどの護衛は、ほんの数分ほどで地に伏せることになった。リパー・エンドが無表情のまま彼らを殺害すると同時に、やっとフィリップは状況が飲み込めた。
カラカラになった喉で、喘ぐように首を振る。
「主人、は……殺せませんよ」
リパー・エンドは薄く笑うと、大型のナイフを手にとった。
「うん。殺意や害意を持っての攻撃は防がれるね」
ひゅっ、と投げられたそれは、彼の頭上の重厚な飾りを破壊し、そのまま落下してきた鋭い鉄の棒に彼の身体は貫かれた。殺意や害意を持っての攻撃は防がれる。直接的ならば、だ。
「……っ!?」
「でも、殺すだけならいくらでも、方法はあるんだよね」
ごふ、とフィリップの喉と口から血が溢れた。おそらく何かを言おうとしてか、唇が動いたがそれだけであった。そのまま絨毯の上に倒れ込む。
その唇が「なぜ」といったように動いたのを見てか、リパー・エンドは低く笑った。
彼がミチカ・アイゼンを殺したのは、数日前のことであった。
1年待とうと思った気持ちは嘘ではない。それでも殺したいという欲求に抗えなかった。
リパー・エンドに刃物を突き立てられた彼女はあっさりと旅だった。彼女の涙を拭おうと手を当てたら、彼女の頬に赤い血がついてしまった。
――ああ、血塗れの手だと彼女が嫌がる。
不意にそんなことが思い浮かんで手を服で拭ったあと、彼は思い出したように笑った。肩を震わせて笑った。
そうだ、彼女は死んだ。嫌がらない。怒らないし、もう二度と泣きもしない。
そんな当たり前のことに、殺した後に気付いてしまった。
「つまらない状況で生きるくらいなら、死んだ方がましなんだ」
リパー・エンドの返事はフィリップに届いただろうか。分からないが、届こうが届かなかろうがどうでもよかった。
「まあ、死んだところで二度と会えないだろうけど」
くく、と笑った殺人鬼は、かき消えるようにその場から消えた。
その日、フィリップの死亡が報じられた。
稀代の殺人鬼と呼ばれた彼を蘇らせたミチカ・アイゼン。契約を引き継いだフィリップ・ノベル。二人の主の死は恐らく、殺人鬼の手によるものであっただろうと当時の新聞は伝えている。
二人を殺した理由も恐らく快楽殺人鬼だからの一言で書かれていた。
よって、ミチカとフィリップを殺した理由の違いに関して知るものは、リパー・エンドのみであっただろう。