表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番外編置き場  作者: かなん
死霊術士の殺人鬼
7/15

7 姉弟子の独白

本編10話 大貴族ネロ・ドミトリーのあたりです。

(カトール武術大会後、建物二階廊下にて)


「うるさい、ついて来ないで!」


 叫び声に私が振り向くと、そこには一人の死霊術士と死霊がいた。

 怒ったように言うのは死霊術士ミチカ・アイゼン。やれやれと肩をすくめているのが彼女の死霊であり、殺人鬼のリパー・エンドだった。

 噂では聞いたことがあるが、見るのは初めてだ。

 思わず私が耳をすますと、彼が反論しているのが聞こえる。


「だからさ、ミチカ。僕は事実を言っただけだよ?」

「あんたは口の中にオブラート突っ込んで話しなさいよ!」

「うーん、じゃあ今度から『太った』って言わずに『重くなった?』って言うよ」

「変わらないでしょうが! 死ね!」

「あっはは、もう死んでるし」


 喧噪とともに彼女達が去ったあと、一人残された私はぽつりと呟いた。


「……噂と随分違うじゃないの」


 聞く限りでは史上最悪と呼ばれる快楽殺人鬼と、その哀れな操り人形という話だったはずだが、今の光景とはまるで合致しない。

 少しだけ興味にかられて窓の外を見下ろすと、ちょうど玄関口からミチカ・アイゼンが外に出て行くところであった。その後ろを追いかけるように、鼻歌交じりで歩く青年が姿を現す。

 ――そして。


「……っ!」


 一瞬だけ、黒衣の青年の視線が二階のこちらに向いた。その赤い目は私の視線と絡まると、少しだけ細められた。

 背筋が粟立つような恐ろしい殺気を感じて、私は反射的にしゃがみこんだ。窓の下の壁に隠れるように背中をつけたまま、ばくばくと跳ねる心臓を抑えるようにして息をひそめる。

 ――どれくらいそうしていただろうか。気がついたときには目を丸くしている巨漢の男が目の前に立っていた。


「サーラ、どうした?」

「ベイル師匠!」


 私の先輩門士であり師匠でもあるベイル・デイタに声をかけられて、やっと私は硬直から逃れることができた。立ち上がろうとして、震える足に気付く。

 ベイル師匠は首を傾げるようにして、私に手をかしてくれた。


「顔色が真っ白だぞ」

「師匠、あの、さっき、あの、あれが」


 言おうとして頭も舌も回らない。あの男が、殺人鬼の視線がいまだに私に絡まっているかのようであった。

 ――殺されるかと、思った。


「さっき、いたんです。死霊で、あの」

「ああ、リパー・エンドが?」


 こくこくと頷く私に、彼は自分の髪の毛をがしがしとかくようにして言った。


「今日はミチカと奴と武術大会を見に来ていたんだけどよ。あいつ、俺の給料数ヶ月分吹っ飛ばしやがった」


 まったくはた迷惑な、とため息をつくベイル師匠ではあるが、彼はミチカ・アイゼンを指導している。あんな死霊と一緒の死霊術士を。


「だ、大丈夫なんですか? 師匠は」


 私の震える声に、彼はきょとんとした後に私を上から下まで見て、理解したように笑った。


「ああ、何だ。あいつらにちょっかいでもかけたのか?」

「かけてませんよ! 見ただけです!」


 本当に見ただけで、何をしようという訳でもなかったというのに、もし一欠片でも殺気を込めていたら――どうなったかなんて想像したくもない。

 ベイル師匠は肩をすくめて言った。


「まぁ見世物になるのを許容するような奴じゃないからな。あんまりジロジロ見ると殺されるから、やめとけ」


 ……その忠告はぜひ、もうちょっと早く頂きたかったです、師匠。




 * * * * * * * * * *




(その後、馬小屋にてベイルとミチカとリパー・エンドの会話)


「で、何で喧嘩してたんだ? お前ら」

「聞いてくださいよベイルさん! こいつ私を持ち上げて『あれ、太った?』って言いやがったんですよ!」

「えー、だって前抱き上げたときより重かったし」

「死ね!」


 ミチカに筋肉が多少なりともついたからだろうなぁと思ったベイルだが、面倒くさいので放っておくことにしたのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ