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星に託した想い  作者: SHIRANE
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人の夢と書いて儚いと読む

◆7:15◆

耳元で大きな音を放つ物体が、今の時刻を自己主張している。

「ここは……どこだ」

桔梗は目を覚ますと、どこかの部屋に眠っていた。

「どこか見覚えがあるけど……」

記憶の奥底を辿っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

「もう、いつまで寝ているの!」

いきなり怒られ、声のする方を見ると桔梗は驚いて飛び起きた。

「どうしたの?」

桔梗がその声の主を再び見てから、ようやく口を開いた。

「どうして……千早が……」

「私がなに? 早いから今日は来るって言っていたでしょ」

「そうじゃなくて! 千早死んだんじゃ……」

「何で私が死ぬのよ。こんなに元気なのに」

そう言って、桔梗の前で元気そうにくるくると回っている。

「 (しかし、千早は確かに5年前に……。どうして――) 」

そう考えていて、ふと姫島の言葉を思い出した。

「なぁ千早。今日って何年の何月何日?」

「えっ? 今日は2019年の7月18日だけど……」

やっぱり、意識を失う前に姫島が言っていた通りだ。

千早が交通事故で亡くなったのは20日だった。

ということは、今日を入れて3日後。

「どうすればいいんだろう」

「何でもいいから、早く着替えなさいよ!」

そう言って、目の前に制服が飛んできた。

突然の事に対応できず、手で防ぐと足元に制服が落ちる。

「5分あげるから、早く着替えてよね」

そう言って、千早は部屋の扉に出て行った。

状況をイマイチ呑み込めないまま部屋に取り残された桔梗は……。

「取りあえず――着替えるか」

足元の制服を拾って着替えると、机に置いていた鞄を持って廊下へ。

先程まで怒っていたのが嘘の様に、千早はニコニコしていた。

お弁当を鞄に詰めて、千早に続いて家を出る。

表に出てみると、確かに5年前まで住んでいた家がそこにあった。

通学路の景色も何一つ変わりはなく、何事もなく学校の正門を抜けた。


◆2024年7月18日 7:50◆

まさか、高校時代を過ごした教室にまた入ることになるとは。

こうした状況じゃなければ懐かしんだかもしれないけど……。

この時間の教室は閑散としていて、部活生の荷物が置いてあるくらいだ。

机に荷物を置くと、聞き慣れた放送のチャイムが流れ放送が始まる。

『3年2組の結崎君、至急職員室まで来なさい。繰り返します……』

「桔梗呼ばれてるよ」

千早の顔を見るとニヤニヤしている。

「この前のテスト悪かったから、呼び出しじゃないの」

「うるせぇ……取りあえず、行ってくる」

そう言って部屋を出て、階を一つ下って職員室を目指した。


◆同日 8:00◆

職員室に入ろうとすると、横から呼び止められた。

「おい、結崎こっちに来い」

そう言って桔梗を呼んでいるのは、ここに送りつけた張本人。

部屋の中はシンプルなデザインで、中央に長机と椅子がある。

部屋の鍵を閉めると、手近の椅子に座り桔梗にも座る様に促す。

「いや――びっくりしたでしょ?」

「びっくりじゃなくて、一体どうなっている!」

怒鳴る気はなかったが、声量的には怒鳴っていると言えるだろう。

「5年前に送るって言ってなかったと?」

「いや……言っていたけど」

歯切れが悪くなった桔梗の前に、1枚の紙が差し出される。

何かの報告書の様だが、桔梗には見覚えがなかった。

「それな、貝塚の事故調査報告書のコピーや」

そう聞いて、桔梗はその紙を食い入る様に見始める。

事故の事は桔梗もあまり詳しく知らない。

『被害者は、国道○○号線の□×交差点にて信号待ちをしていた所、

 左方から進行していた被疑者運転の車が中央線を大きく割り込み、

 横断歩道にそのまま直進した。被害者は車の直撃により全身を強打、

 ほぼ即死状態であった……』

報告書の事故概要の欄にそう記されていた。

桔梗が唖然とする中、姫島は報告書を自分のファイルにしまう。

改めて桔梗に向き直り、再び話し始める。

「それで結崎には……貝塚が死なん様にして欲しい」

「えっ……」

「これは、私だけじゃなくて結崎の願いでもあると思うが……」

どうやら、姫島には桔梗の考えていることはお見通しの様だ。

「わかった。それで、何をすればいい?」

「そうだね……結崎が学生時代に貝塚にできなかったことをやればいい」

「わかった。やるだけやってみるよ」

あれこれ考えても仕方ない。

姫島と別れて部屋から出ようとすると、姫島に呼び止められた。

「後、この学校で私は夙川だから、言い間違えないようにしろよ」

そう言うと、姫島も廊下の向こう側へ消えて行った。


◆同日 12:55◆

午前の授業は、得意な科目ばかりだったのでのんびりできた。

千早の影響で、勉強を一緒によくやっていたので、

成績で心配する事はあまりなかった。

「桔梗、みんなでご飯食べよ!」

そう言って集まってきたのも、見慣れた顔ぶれだった。

「お前、今日は随分元気がないじゃないか」

そう言ってきたのは蒲田 恩。

高校から知り合い、気が合うのでよく話をしていた。

「うんうん。何か元気ないよね」

そして、それに相槌を打っているのが七和 若桜だ。

こっちは千早の親友で、千早繋がりでよく話をしている。

「いや――少し考え事をしていた」

桔梗がそう返すと、ひとまず安心したのか各々弁当を開き始める。

「それにしても、千早と結崎って本当に仲良いね」

若桜がそう言うと、照れたのか千早が黙り込んでしまう。

「おい桔梗。あれ見て、何か言うことは?」

ほのかに顔を赤らめたまま、千早がこちらを見ている。

「千早……土曜日どこか出掛けようか」

「「「えっ……」」」

珍しく、桔梗を除いた3人の声が見事に重なった。

「桔梗、お前本気か?」

恩が桔梗の本心を探る様に聞いてくる。

「えっ、うん」

「「「……」」」

暫しの間3人が沈黙し……ふとした時に若桜が叫んだ。

「結崎君がついにデレた!」

若桜が叫んだのに反応して、クラスメートが桔梗の周りに集まる。

「みんな集まって何!」

するとクラスメート多数に代わって、若桜が話し始める。

「いや、結崎がいつ千早をデートに誘うか……賭けをしていて」

そう言いながら、ノートを桔梗の前に差し出した。

ノートには、クラスメートの名前が「誘わない」に集中していた。

「本当、何で誘っちゃうんだよ」

「まさか、結崎君に誘う勇気があるなんて……」

「で――貝塚さんは受けるの、受けないの?」

クラスメートは口々に不満や、気付けば矛先は千早の方に向いていた。

「……うん、予定もないし大丈夫」

先程よりも赤さが増しているのは、気のせいではないだろう。

そんなやり取りをしながら、千早を土曜日連れ出すのに成功した。

後は、どうやってあの出来事を回避するか。

桔梗の頭の中は土曜日の行動を考え始めていた。

一方の千早は、どんな服装にしようか人知れず考えていたりする。

それぞれの思いを余所に、時間は足早に過ぎて行った。


◆2024年7月19日 16:00◆

授業も終わり明日に備えて帰宅しようとした矢先、

恩と若桜に呼び止められた。

「桔梗は、明日のプランとか考えてんのか?」

「そうそう、千早と初めてのお出かけなんだから……」

2人にそう詰め寄られると、素直に白状するしかなかった。

すると、恩がおもむろにポケットから小さな紙を取り出した。

紙には市内のスポットやおススメが事細かに書かれている。

「助かるよ、ぜひ活用させてもらう」

素直にお礼を言うと、2人とも足早に立ち去ってしまった。

教室には桔梗以外居らず、部屋の鍵を施錠する。

職員室に寄って鍵を直し、家に続く道をゆっくりと歩く。

「ここまでしてもらったら……成功させないと」

人知れず心を決め、運命の明日を待つのみとなった。

しかし、運命の歯車はただで止まってくれる筈もないのだが。

その事をこの時、まだ誰も知る由もなかった。


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