人生ってこんなに儚いものか
▼主要登場人物
◆結崎 桔梗 主人公。23歳
◆貝塚 千早 幼馴染
◆姫島 御影 同級生
◆夙川 蛍 高校教諭
◆蒲田 恩 同級生
◆七和 若桜 同級生
◆2024年7月31日 14:27◆
『間もなく3番線を電車が通過致します。危険ですので……』
いつもと同じ、聞き慣れたアナウンスがホーム上に流れる。
結崎桔梗はホーム上で、通過列車の監視を行っていた。
時計で時刻を確認してから、再度ホームに放送を行う。
「間もなく3番線を電車通過致します。黄色の線までお下がり下さい」
放送を終えると、線路上に落下物がないか端から指差しで辿る。
すると、目の前の男性がホームの縁に近づき過ぎていることに気が付いた。
通過まで時間もなかったので、桔梗は直接声を掛けることにした。
「お客様、恐れ入りますが黄色の線までお下がり頂けますか」
男性は桔梗を一瞥すると、ホームの縁から離れていく。
離れたのを確認してから立ち位置に戻ろうと背を向けた刹那――
体に“ドン“という音と衝撃を感じた。
その正体に気付く前に、桔梗は思い出してしまった。
鳴り響く警笛の音、悲鳴を上げる乗客。
「 (通過電車が駅に近づいていたんだった……) 」
右から先程より強い衝撃を感じると、目の前の景色がゆっくり流れる。
少しして左に強い衝撃を感じたのを最後に、桔梗の意識は途切れた。
◆……◆
「おい、そろそろ起きんね」
頬に痛みを感じ、閉じていた目をゆっくりと開いた。
周りは白で囲まれ、どこを見渡しても同じ色。
そして目の前の人物に焦点を合わせる。
「やっと起きたか。いつまで寝とるつもりや」
桔梗は会ったことのある人物を前に、どこか思い出せずいた。
「 (このあっちこっちの方言が混じった話し方……どこで聞いたんだ) 」
返事をしない桔梗にしびれを切らし、顔すれすれまで近づいてきた。
「あんた、私のこと覚えてなかとか」
顔前まで近づいた顔を見て、桔梗はようやく思い出した。
「お前――姫島か?」
目の前の”姫島”と呼ばれた女性は、仏教面からやっと笑顔を見せる。
「やっと思い出したとか。さっさとせんね」
そして、桔梗は我に返って今の状況を聞くことにした。
「それで、姫島。ここは……」
記憶の中を探っても思い出せない。
しかしどこか懐かしい感じがする。
「あんたは死んだんよ」
「えっ……」
姫島の発した言葉の意味が、直ぐには理解できなかった。
「急行列車に撥ねられて即死や。残念やったね」
姫島の言葉は淡々として、どこか楽しそうな雰囲気も感じる。
「もうどうしようもないからな……」
その言葉を待っていました、と言わんばかりに姫島が食いついてくる。
「ところが、どうしようもないことないんよ。興味ある?」
無言で頷くと、姫島は上を見るようにと言ってきた。
桔梗が上を見ると、先程まで真っ白だった天井に無数の星が光っている。
小さい頃にプラネタリウムで星を見た時を思い出す。
「結崎は星を見て何か感じないかな?」
「どういうことだ……」
姫島の問いかけはひどく抽象的だった。
「私達が生きていく中で、星にはよく関わり合っているの。
占星術がいい例かな……結崎は死ぬとどうなると思う?」
桔梗は少し考えて、ありきたりな答えを出す。
「天国に行く……とか」
「そう、そのイメージ」
姫島は諭すように、更に話を紡いでいく。
「死んだ人は、生まれ持っている星にそれぞれ帰っていくの。
そして、その管理を任されているのが私達という訳。
そう言えば――ちゃんと自己紹介してなかったね」
胸ポケットから名刺を1枚取り出すと、それを桔梗に差し出す。
二面刷りになっている名刺の表と裏には別々の役職が書かれている。
【警察庁 生活安全局 精神活動調査課 警部補】
【霊界庁 天文管理局 保安管理課 課長】
スマートな字体で、どこにでもありそうなありふれた名刺だ。
姫島御影を何と読むのか、桔梗が目を引かれたのはそこではない。
「霊界……庁って」
そう、日本には複数の省庁があるが ”霊界庁” なるものは聞いたことがない。
「私達の中で ”星” のことを ”霊界” と呼んでいるの。
所謂死んだ人が行く世界と今の現代を行き来しているの。
その霊界で、日本で言う所の行政府を担っているのが霊界庁。
霊界に行けなかった人……それが ”悪霊” という感じかしら。
その人たちを祓うのも、私の仕事の一つかな」
桔梗はその話を聞いて一抹の不安を覚えた。
しかし、姫島はその考えすらも見通しているかのようだ。
「それで、結崎にはちょっと仕事をしてもらいたいんよ」
「仕事……」
「まぁ、とりあえず今から過去に飛んでもらうから」
姫島が何を言っているのかさっぱりわからなかった。
「じゃあ五年前に飛んでもらうから……詳しい話は向こうで聞いて」
「ちょっと姫島……お前は何を――」
問いただそうと口を開くが、その先の言葉を紡げなかった。
意識がだんだんと薄れ、そして真っ暗になった。




