人殺しは犯罪です
人殺しは犯罪です
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「俺は正義だ。放火に強盗に傷害を犯したあいつらはこの世に生きていたらいけない人間なんだ。そうだろう。罪を犯している者は裁かれるんだ。犯罪者はこの世から根絶やしにしなければ成らない。そう思うだろう」
「・・・・そうですね、そう思います」
けれど。
・・・・・・・貴方がやったことは、殺人となんら変わらないです。
1
「殺人?」
「はい、殺人です」
体育館。
僕は小型ナイフを右手で所持している彼を見続ける。
彼の引きつった顔面の表情から見て取れるのは、俺が殺人? という疑問だった。
「・・・・貴方は人を殺しました。貴方は人殺しです。しかも彼らのやった罪より重たい、罪、です」
彼ら。
体育館で屍と化した五名の人間達、すなわち死体。彼が所持しているナイフによって、致命傷、を負わされ殺された彼ら。距離三十メートル。僕の外靴は遠くから来た彼らの血液によって赤く染まる。
「貴方が今、両足で踏んづけてる人間は死体です。ようは、殺されたのです。誰かによって、誰かの手によって。貴方のナイフで殺されたのです。五人。これは、殺戮です。悲惨です」
・・・・だ・・・まれ。
「貴方は正義だと思ってるかもしれない。でも、実際。世論は、これを殺人と呼ぶのです」
・・・・・だまれ。
「貴方はとんでもない悪党です」
黙れ!
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ」
黙れ黙れ黙れ黙れ。
「黙れ!! ・・・・・お前、コロスぞ」
「・・・・・・馬鹿~殺人鬼」
コロス。
2
彼は死体を踏んづけ走りだした。
蛍光灯に照らされている深夜の体育館。彼が所持しているナイフは体育館に照らされている光によって、反射で微妙に輝く。
おお、カオス。
「くっく」
僕は笑う。
「・・・・・殺す殺す。殺す。俺は正義でお前が悪だ!」
体育館を駆け抜ける彼・・・・いや、殺人鬼は我を忘れナイフを振り回す姿は、まるで。遭ったことが無いけれど、口裂け女が刃物を持って追いかけるみたいだった。
いや、彼は男だったか。
なら、口裂け男だな。
「くっく」
「笑うんじゃねえ!!!」
僕の真正面まで来た殺人鬼はそのままナイフを振り回し、致命傷、である頭を狙う。僕はもちろん、このまま殺されるつもりはないので一歩下がった。
けれど、甘かったようでナイフの刃がオデコを切る。
「血がタラタラ」
僕は言う。真正面にいる殺人鬼を挑発するように笑みを零しオデコから出た血液を右手で拭き取り、僕が下げた一歩に追いつこうと一歩を上げた殺人鬼の顔面に僕はそのまま右手で拭き取った血をかけた。
「な」
むろん、眼球目掛けてやったので、相手は両手で目を押さえる。
「ち、ちくしょう」
見えねえ。どこだ。どこだああああああああ!!
彼は叫ぶ。
「痛てえ」
カランカラン。
目潰しを食らっている間、僕は殺人鬼の右手首に手とうを加えた。
右手に所持していたナイフは落ちる。
「ど、どこだ。くそ、くそくそ」
まだ、開けられない眼球を必死に開けて床に落ちたナイフを探す殺人鬼、けれどそんなナイフはすでに僕の右手に納まっている。
「ねえ」
僕の問いかけに殺人鬼は探すのをやめた。
ナイフが僕の手にあることに殺人鬼は感付き、あーあ。と呟き、そのまま五人の血が垂れ流れている体育館床に倒れこむ。
「みえねえ。・・・・気色悪いな、お前の血。まだ、ベットリだ」
「諦めるの?」
「・・・・そうだな。お前がナイフを返してくれるのなら、俺の正義が貫き通せるのだが、どうだ? 返してくれるか?」
「ヤだね」
3
「・・・・言っておくが、俺は殺人鬼じゃない」
「貴方は殺人鬼です」
「お前の結論だろ」
「いや、きっと世論もそういう結論です」
「・・・・そっか」
「そうです」
「けれど、俺は正義だ」
「うーん。分からないですね。どうして、五人殺して、それでも正義だと言えるのか・・・・貴方、頭おかしい人ですか?」
「・・・・・・」
「ダンマリですか」
「・・・・やれ」
「はい?」
「そのナイフで俺を殺すんだろう」
「貴方を殺す? くッく、面白い冗談ですね」
「・・・・殺せ」
「ヤです」
殺さないのか?
「・・・・貴方を殺したら、僕。犯罪者になりますから」
やめておきます。