4話:お兄さん、爆弾発言の意図を説明して下さい!
しばらくの間私は硬直し、そのまま言葉を無くしていた。目の前で桜井さんはニコニコとしたまま変わらずにこちらを見つめていて、一瞬今聞こえたセリフが夢だったのではないかとも思った。そうか、夢か…ぼんやりと現実から目を逸らしていると桜井さんは私の様子に気がついたのか、次第にきょとんとし始めた。
「沙織? どうしました?」
「…桜井さん…い…今なんて…」
「やだなあ聞いてなかったんですか? 流石の僕も心が痛みますよー…もう一回言いますからちゃんと聞いて下さいね」
カタン、と桜井さんが席を立つ音がしてゆっくりとこちらにやってくると、座っている私の目の前に膝をつきこちらをもう一度見上げて私の手を取った。見上げても爽やかな笑みが作られ、そして手の甲に柔らかな感触が当たる。
「僕と恋人ごっこ、しませんか」
手の甲に当たった感触が桜井さんの唇だと理解するのにそれから気が付くと、全身がかあ、と熱くなったのが分かった。ええええええええええ!桜井さんは私の様子をみて花のようにうっすら頬を染めて微笑むと、もう一方の手で私の頬をちょん、と面白そうにこづいた。
「な、…なんでごっこなんですかね!」
「ああ、そうくるんですね」
「普通はそうです!」
「恋人じゃないって聞かないんですか?」
「それはそれであれですけどっ!」
「んー…そうは言ってもなー」
「桜井さん!」
ああもう出会った時から何か変な人だなあとは思ってたけど! 二の句が告げずに口をパクパクさせていると、桜井さんはだってぇ、と駄々をこねる子供の様に唇を尖らせて拗ねていた。だってじゃないです! それはこっちのセリフです!んーと間延びした声がのんびりと告げる。
「僕、沙織の事気に入っちゃったんです。でも唯の関係じゃもう沙織が来てくれなくなっちゃうかもしれないでしょ? でも出会ったばかりの沙織にそんな深い関係求められないじゃないですか。だから、ごっこで」
「普通に来てくださいでいいじゃないですか!」
「そんな霞のような関係僕は求めてませーん」
「ませーんて桜井さん!」
なんだこの人子供か! 子供なのか! もう怒りでなのか照れでなのか分からない火照った頬を両手で包みながら落ち着け落ち着けと心の中で唱えていると、桜井さんは少し困った様に私の顔を下から覗きこんだ。う、そんなしょぼーんとしないで!その濡れた子犬の瞳で見つめて来ないで下さいよ! 垂れ耳が見える!見えるんですよおおお! 心の中で始終叫んでいる私を余所に、桜井さんはそのピュアな瞳を私に向けて問いかけた。
「…沙織は僕の事嫌い?」
「き、嫌いじゃない…てか、まだ二度目でっ!」
「嫌い?」
「う……嫌いじゃない…」
すると桜井さんは頬を包んだ私の手にその手を重ねて、まるで夏の日の青空みたいな爽やかさで笑った。ぐっ!! その笑顔は凄い嬉しそうで、私にとって今まで以上な破壊力だった。
「じゃあ決まりですね!」
途端に白い肌がうっすらと染まって、恍惚に細くなった瞳がこちらを見つめながらきゅ、と私の手を優しく握りしめた。少し冷たい指先が余計に桜井さんを意識してしまうので凄い困った。
「嬉しいなぁ……ああ、とても嬉しいです…」
こうして私は、桜井さんと「恋人ごっこ」の関係になった…のだった。
何か短くなったすみません。