23話:甘味中毒を起こしそうなんでいらだち紛れに俺に与えるのヤメテください。
しんどい。
鼻をつまんで口に放り込む。
「柚琉? 手が止まってますよ? 感想は如何です?」
甘ったる匂いが鼻の中にまで染みついてそう。そう言う問題じゃないよね。結城くんや。柚琉はもぐもぐと必死に口を動かして口の中の物を咀嚼して飲み込み、そして喫茶店のカウンターで一生懸命に作業を続ける結城に怒鳴りつけた。
「いくらなんでも甘味ばっか味見させられて正直キツイんすけど結城さん!!」
「ウーロン茶与えてるでしょ。大学受験までもう少しの沙織にあげるお菓子の試作をさせてあげてるんですから感謝してください」
「舌が…もう死ぬ」
「生かして沙織の為に役立てて下さい」
ニッコリとそれはそれは良い笑顔で答えやがったアイツ。儚い系の清楚な顔で笑うからお前余計にイケメン度増してるだろうが羨ましい。そうじゃねえよさおたん早く受験終わらせて俺を助けて。そんな柚琉の願いも空しく、キッチンから出てきた結城は小さなトレイを抱えたまま楽しそうにこちらにやってきてテーブルの上に皿を置いた。
可愛らしい、それこそ女の子が好きそうなお菓子の数々を先程から試作と称して与えられ続けている訳だが、如何せん男子というもの特別人種でない限り甘味はバクバク食えるもんでもなく、もう体内が砂糖に埋め尽くされているんじゃないかっていうくらいクソ甘い。嫌だななんかしばらく身体中匂いそう。それでも素直に食べてる自分も自分ですけども。
「で? そちらのチョコレートケーキのお味は?」
「甘い」
「チョコですからね、見た目は?」
「イイノデハナイデショウカ…」
「他にないんですか?」
「もう勘弁して下さいよ…結城さん…何食だと…さおたんに会えないからってむやみやたらとお菓子作りには励むの止めてください」
もう限界です、と机に突っ伏せば、ものすごい呆れたため息を上から吐かれました。オイ今までの仕打ちを考えろホントにこの常識から2歩3歩ずれた文学青年め。
「だって考えてるのつらいんです…会えないのも、向こうが頑張ってるのに何も出来ないのも。だから…ついむしゃくしゃしちゃって…」
おい、今までのいら立ちだったのかよ。そんな顔で拗ねてもお兄さん許しませんよ、口に出さないけど。
「電話くらいしたら。向こうだって待ってるでしょ」
「…そうします」
カフェエプロンで手を拭きながらショボンとする結城に、柚琉はムクリと机から起き上がって仕方ないなぁと笑って背中を叩いた。
「結城くん、春は必ず来るんだよ。ね」
「柚琉に慰みを受けるとは思いませんでした。取りあえずありがたく受け取っておきます」
そう言って笑った結城くんは、キッチンに向かうと更にもう一つの皿を持ってきてニコリとそれはそれは暗黒面から生まれい出たような素晴らしい笑顔で微笑まれました。
「じゃあこれで最後にしますから、残さず食べて感想聞かせて下さいね、柚琉」
腹の虫は中々すぐには収まってくれないものらしい。途端に全身からサーッと血の気が引くのを、柚琉は感じながら心の中で必死に叫んだ。
(さおたあああん、早く来てええええええ!!!)
大変遅くなりまして申し訳ございません。そして遅くなったクセに短いという。
甘味まみれになり苦しむ柚琉。恋の病に苦しみ結城。
男二人の現状でございます。
あと長くて1.2回で終わりにしようと思います。もしくは次くらいで。
苛々したら甘味作り出す系男子いいなって思っての結城くんの性格です(笑)