11話:戻ってみたら案の定、アイツは落ち込んでました。
「てぇ訳でぇ、さおたんは俺がちゃあんとお家の近くまで送ってきましたよー」
「……」
ユーキの喫茶店に戻り、死んだようにうつぶせていたユーキにそう言ってやれば、ユーキはむくりと机に埋めていた顔を上げた。その清楚な顔は青白いが、まだ表情がある内は元気な証拠だ。沈黙を続ける奴に、俺は髪を掻き上げながら深くため息をついた。
「…いい加減何か言え」
「……………送ってくれたの、ありがとう。……それと……殴ったの悪かった。あとそのさおたんてなんだ」
突っ込むトコそこかよ。相変わらず不機嫌そうだがまあ深くまで突っ込む事は止めにしよう。案の定今は落ち込みまくってるみたいだしなぁ。つくづくバカで純粋な男だよ、全く。
「…もう落ち着いたんなら、俺に冷やすもんくれねぇかなぁ。お前に殴られた所が熱を持ってきたんでー」
「……キッチンで布でも冷やせ」
ホント動く気ねえなコイツ。チッと舌打ちしてキッチンに向かい、水道を捻ってそこら辺にあった布巾を水に浸して軽く絞り、頬に当てる。ああ、これで少しはマシになるかな、あの子の手前ああは言ったけど、これで少し安心できた。
頬を冷やしながらうつぶせてるアイツの元に戻ると、まああんまり変わらなかった。そいやこいつは落ち込むととことん落ち込むんだったわ、忘れてた。取りあえず目の前の席に座り、開いている手を拳に固めうりうりとそれで小突く。反応ねえな、やっぱ。
「…待っててやれよ」
「……嫌われたよ…」
「…嫌ってねえよアホが。あの子がそんなに信用出来ねえのか。ずっと一緒に居たんだろ」
「……」
「好きなんだろ」
ガタガタガターン!
「…何やってんだ」
「な……な…なん…で」
イスから転げ落ちたユーキはその体制のまま真っ赤になった顔でこちらを見つめて口をパクパクしていた。おお、華麗におっこったなあ。少し呆れもしたが、何より回りに知られて無かったと思ってたってのがすごいなあ。俺初対面で分かっちゃったぞ。ほんと純粋君だなあ。折角なのでそのまま頬づえをつきながら机の上からニヤニヤと見下ろしてやる事にしてみました。
「…ほんとお前バカ正直だよなあ、昔から。嘘がつけないというか」
「ハ…おま…」
「…そこがいいんだけどな。まっすぐでな、曲がらないというか」
よっこいしょとイスから立ち上がってホレホレ、とユーキに手を差し伸べてやる。おおい、いい加減戻ってこいよー。ユーキは固まったまま真っ赤な顔を隠せないのか、そのままふぃ、とそっぽを向いてしまう。お前、ガキか。やっと動き出したかと思えば、そのままもそもそと両手で膝を抱えてうずくまった。やがてそのまま恥ずかしそうにブツブツと呟き始めた。
「…すき、だよ。好きだって分かってたから、クソ可愛くて仕方ないんだ。だから子供みたいな理由で彼女を縛って、そんで、子供みたいに拒絶した…」
「なら謝れ、そんで全部吐き出せ。あの子はお前から聞くって言ってたぞ、言っとくが俺は肝心な事はな―んも言ってませんからねー」
惚気は俺聞きたくないのよ、まったくね。もう一度手を差し出したらやっと伸ばして来て、俺はそのまま力いっぱい奴を引っ張り上げて立たせた。されるがまま立ち上がり、よろよろとイスに座り直すとまたうつぶせる。ダメだこりゃ、これはしばらく戻って来ない気がするわ。
「…ま、待ってやる事だな。頑張れ」
「うう…」
「お前が振られたらさおたんは俺が貰ってやるわ。年の差良いなあ萌えるわ」
「それはダメだ!!」
「じゃあ頑張れ」
「ううううう…」
閑話です。次で桜井君がゲロります。すみません。