A Will? I Will?
“自殺してしまえば良い”、と、思ったんだ。それは本気で。こんな俺でも思ったんだよ。
それは、『復讐』を企む友達を止められなかった時。
それは、愛しい少女が、あの友達の真意を知らずに恋人になってしまった時。
……そう、それから。────きみを、見付けたときだ。
きみに焦がれた俺が笑ってしまうかもしれないが。あの時々は本当に真剣に、“消えてしまえ”と降って沸いたんだ。じわじわ浮くのとは違って、それは一瞬で灼く、硫酸。
ジュッと音を立ててはそこに跡を付け焼け跡みたいに。
でも古傷になってしまうんだ。見えない痕は、たまに疼くだけで終わってしまう。
それは、この大雑把な性格の御蔭かな、と感じるけど。
そんな鈍感な俺も、そうなるんだよ。
死にたくなるんだ。何もかもに刹那、失望しては消え入りたくなる。
「……晴夜でも在るんだ」
「まぁね」
きみが、まるで初めて見たような表情で肩を竦めた。
「意外?」
「うん、まぁ」
鮮烈に苛烈を潜めるきみは、驚いているようで。
俺を名字から名前に変えて呼ぶようになってから、随分親しくなった訳だけど。
わかってるんだ。
それが『上辺』だと。
「晴夜がねぇ……」
「そこまで考え込まなくても」
「いやいや、ごめん。だってさ、何か結び付かなくて。晴夜と死にたがる感覚」
「そう、かな?」
「うん」
きっぱり頷いて、きみは笑う。大学の一室。一角、列の前後で話す俺らは、手を伸ばせば届く距離。
時が経って和らいだとは言え、きみを見付けた当初の強烈な憧憬は、今も根深く残っている。
それでも欲求が増すことはなく、雑談して笑い合うだけの余裕は在る。
あれは穢れない憧れだから。恋慕とは違う。
人間は二面性のイキモノで、だから穢い部分も綺麗な部分も在ると思う。
俺が不意の一瞬間、死にたくなるように。
きみを欲しがる想いは綺麗な部分だ。
あの友達も、[それ]を信じてくれたら良かったのに。
きっと、そうしたら。
「ねぇ、」
「え?」
「こっちに来てるかもしれない“友達”ってまだ会ってないの?」
「……うん……」
死にたくなった時。
思い出したのは、浮かんだのは、電話のせい。
「久し振りやね……」
友達。止められなかった。
「元気にしとった? 全然連絡くれへんからさぁ……」
同じ金沢出身のくせになぜ関西方言なのか。未だ謎だが訊けば好きだからと言われる。
「ま、ええわ。今度俺も東京行くんよ。よろしゅうな」
切れた電話。結局俺は何も言えなかった。
いつも、肝心なときに言葉が出ない。情けない。情けないけど。
仕方ない、とは思ってない。
「その内、会うよ」
「そうだね。会いたくなくても会っちゃうよねぇ……」
「はは。それは岬くんのコト」
「……他に誰がいると?」
少しだけ、棘が見えた。きみの、本性が垣間見える。
「俺は羨ましいよ? 岬くん」
「はぁ?」
「だってそれだけ小鳥遊くんに認めてもらってるじゃない。そばにいるの、当たり前なんでしょ?」
「……」
聞きたくなかったとばかりに、頭を押さえるきみを楽しく眺めてそうでも馳せるは昔の『友達』。
「“よろしゅうな”、か」
昔は、そばにいるのが当たり前。
まさに岬くんと小鳥遊くんみたいに。
寄れば触ればの距離。
壊れた時期。ゆったりとした侵蝕。
その前の、“当たり前”。
また戻れるだろうか。
戻れたら、良いけれど。
ゆっくり話がしたい。あれから話してないことがたくさん在り過ぎて。
俺らの間に存在するのは『溝』じゃない。『誤差』だ。
それは[認識]だったり[常識]だったり[感覚]だったり。
そんな“モノ”。
「戻れたら、良いんだけど、ね」
きっと簡単には行かない。
時間が掛かるのだ。そう言う“モノ”は。
非常にもどかしい、コトだけど。
【Fin.】




