損害
人間が、命を造れる地球を変えてしまった。
なら、地球の損害は幾らだろう?
「速見さーん」
「悪いねぇ」
「有り難ねー」
人を何だと思ってんのか。知ったことじゃないが、はっきり言ってウザい。
みっちゃんが死んでから一箇月経った。クラスは、何にも変わらなかった。変わったのは。
「何だ? 速見。日直今日は古賀だろう?」 日誌を持って職員室に来た私に、担任の先生が驚いた声を上げた。
「はい、古賀さんが用事が在るらしくて……」
「何だって? まったく。人に日誌押し付けて、自分は悠々と遊びに行ったのか? アイツは内申書下げなきゃな」
先生は苦虫を潰したような顔でぼやく。
「先生、それはヒドいかと……」
古賀さんの内申書と成績はどうでも良いけど、私が原因なのはマズい。私は笑いながら、そっと進言する。
と、先生は向き直って私を見た。その目は若干、私を心配してるかのような。私はきょとんと見返す。
「……速見もな、あんまり他人の言うこと聞いちゃ駄目だぞ? 甘やかすのは本人のためにもならないし」
「はい、すみません」
「別に謝らなくて良いさ。悪いことじゃないからな。ただ、あまりにも速見はやってあげ過ぎだ。最近特に多いだろう? ……まさかいじめられてたり…」
「してません」
それは大きな誤解だったので、きっぱり否定して置いた。いじめられてはいないから。まだ、さすがに。
けれど今古賀さんの内申書が落ちたら、そうなり兼ねないかもしれない。
「なら良いが。駄目だぞ? 漬け込まれちゃ。まぁ、……“今のお前”がそう、あやふやなのは何となくわかるが……」
言葉を濁し呟く先生。───あぁ。
「別にみっちゃ……八木原さんのことなら、平気です」
八木原南海。私のクラスで仲の良い風を装っていた女子だ。
“仲の良い風を装っていた”
この言葉は微妙なラインの上にいた。が、最近になってそれが『微妙』でなく『確実』で在ったのを知った。
みっちゃんも私と仲の良い振りを演じていただけだったのだ。
それが露呈したのも、みっちゃんが死んだから。
みっちゃんは夕暮れの染まり時。ホームから身を投げた。一グラム何百円に姿を変えてしまったのだ。
[何]が彼女を自決させたか知らない。そう、アレは『自殺』や『自滅』でなく『自決』だった。
自らを決したのだ。まるで主演女優のように。潔くこの《世の中》と言う舞台を去った。
みっちゃんが影響を及ぼさなかったとは言わない。けれど私がそれを気に病んだりはするはず無い。だってそんな[死]では無かったからだ。あのみっちゃんの[死]は。
先生は上辺の私たちを知っていた。だからこそ私たちがたとえ先生の知らない根底では“違う”のであっても────気付かないのだろう。
でなければ、そんな台詞は出てこない。
「速見。俺は心配してるんだ。お前が八木原のようになるとは思ってないが…」
「大丈夫です、先生」
私は、他人が騙されてくれる笑いを張り付かせて言った。
それはとても簡単なお面だった。誰も追及してこない。牽制だった。
「何か在ったら相談しろよ」
「はい、失礼します」
私はお辞儀してから職員室を後にした。
何も古賀さんたちに漬け込まれている訳ではない。
けど、どうでも良いのだ。要は適当に、首尾良く動けば文句は無い。何も、私だって黙って損害を増やしたりはしない。
「古賀さんさー、最近生意気じゃない?」
「だよねー。あいつら調子乗り過ぎって感じ」
「絞めちゃう?」
「嫌っだー。怖ーい」
「そう言えばさぁ、」
「何々?」
「面白いサイト見付けたんだー」
「何それ」
「あのねー」
私だって、別に損害増やしてる訳じゃない。
「“憂さ晴らしサイト”?」
「そっ。ここに憂さを晴らしたいヤツの名前書き込むと……」
「復襲してくれんの?」
自傷癖常習者の『Parody DRUGs』 。
自殺推奨サイトの『ワンダーランド』。
そして、
恨みを精算するための『損害勘定』。
今は便利になったモンね。欲しいモノは何でも手に入る。
ボランティアで何でもやってくれる時代か。
まず周囲の人間への憂さを払いに『損害勘定』。
それが終わったら『Parody DRUGs』で傷を慰め合い。
気が済んだらAliceに薦められるがまま『ワンダーランド』に行く訳ね。
本当、便利な世の中。
【Fin.】




