Alice
“Alice”。それは、ネットアイドルの一人だ。
誰も会ったことが無い、と言うか、見たことが無い。『彼女』を誰か、まるで知らない。
まぁ、ネットアイドルなんてそんなモンだし、当たり前にそんな感じだろう。
まさにインターネットと言う名の不思議の世界を闊歩する、ネットアイドル“Alice”。
『彼女』に会いたければ、とある二つのホームページに行けば良い。
───あぁ、だけど気を付けて?
そのホームページは両方ともかなり濃い内容なんだ。
え? 「ホームページなんてそんなモンだろう」?
いや、普通の自己紹介ページじゃないんだよ。
何せ。
────一つは自殺推奨専門サイトでこちらは『彼女』の管理してるほう。もう一つは自傷癖常習者の精神系サイトらしいからね────。
「在寿ー!!」
呼ばれて振り返ったのは、多分呼んだのが『私』だったから。……そう、信じたい。
在寿逸は、当時私と同じ十六だった。
勿論今の年齢だって同じだ。どんなサバ読んだって変わるはずはない。
でも逸は違った。きっと年より上を言えば通ったし、下を言っても通った。誰も疑わずに、その読まれたサバを信じた。
普通に落ち着いた雰囲気。しかし童顔。背も、低くはないが高くもない。
これが、十六の頃から変わらない逸だった。
「今、幾つだっけ?」
大学の同窓会。どこかの私立学校の保健医となったらしい逸に、私は訊いた。
「今年で二十七。恋人の年ぐらい把握してよ。つか同い年……」
「『元』でしょう」
昔、私たちは付き合っていた。高校と大学時代、お互いが同じ学生だった頃。今は私はOL、逸は教員だ。
「キャリアウーマンは大変デスカ?」
わざと片言に喋る逸。何だか腹が立った。
私の現状況が、敵だらけなのを知ってるくせに。
「大変デスヨ」
私も、負けじと返す。が、逸の笑顔を見てる毎に、どうでも良くなって溜め息を吐いた。
「どしたー? らしくないねぇ?」
どこぞのおばちゃん風に言われ、私は更に深く息をついた。
この男は昔からこうなんだ。
「……逸、髪伸ばした?」
後ろ手に結わえてある髪に、私は手を伸ばす。それは、男にしてはさらさらとする手触りの良さだった。
「まぁ、伸ばしたっつか、伸びちゃったって感じだけどね」
あぁ、逸って長髪似合ってたんだー……。
そんな他愛ないコトを思う。
顔立ちは……まぁ綺麗なんだよね、整ってる部類で。
──昔も、そんなコト考えた。あの頃、逸は何か綺麗な雰囲気を持っていた。それは今も変わらないみたいで。
「どうした? マナ」
逸が呼んで、微笑んだ。逸に呼ばれて、微笑んだ。『マナ』は『学美』の“マナ”だ。私の名前。
「マナ、無事か? もう酔いが回ったとか」
「有る訳無いでしょ? 私が大学時代『酒豪』だったの忘れたの?」
「忘れないよ。マナは強いけど、だからって負けない保障は無いだろう?」
「なぁに? それ」
逸の変わらない笑みの間に吐かれた、意図の掴めない台詞に絡められて意図を問う。
それでも逸は笑ってる。
「さぁ? どんな意味だと思う?」
笑ってる。
「……酒に強いって言ってもね、急性アルコール中毒にならないとは限らないよ……?」
───ああ。
「そんな意味……?」
私の、酔いで舌足らずな言葉を肯定するような否定するような、柔らかい微笑のまま。
逸はノートパソコンを出した。
モバイルの用途が強いそれは、小さいながらに画面は見易い結構新しいタイプの機種だった。
「……? 仕事でもするの?」
パソコンの電源を入れている逸に再び訊く。
「うーん? うん……。“ライフワーク”、かな?」
「“ライフワーク”?」
「うん、そう。“ライフワーク”」
逸は、表情を変えない。
常に変わらない笑顔。逸は笑い続けてる。
笑みを絶やさない。
だって。
だってそれは、“仮面”だもんね?
パソコンのキーを打つ指、ピアニストがピアノを奏でるようだ。
不意に、私は画面を覗き込んだ。
新しめの綺麗な液晶に映し出されていたのは、真っ黒な背景に白文字、または銀か灰か───血を連想させるくすんだ緋色の文字。
「何、そこ」
文章から察するに、どこかのサイトへアクセスしたみたいだった。壁紙には見えない。
雰囲気は独特って言うより、ダークなモノがテーマのホームページの一般例みたいな。
私は酔って浸った微妙な頭で質問した。
「僕のサイト」
返ったのは簡潔な一言。さらりと、変わらない様子で。
「逸の?」
「そう、ぼくの」
『自殺』ってね、本当は死なないんだよ?
だって。
みんないつだって、真実の自分は“自ら殺す”じゃない。
笑って。
嗤って。
だからね、物質の《檻》や周囲と言う《世界》から逃げ出すのは『旅立ち』だって思うの。
だから。
イきましょう?
開放の旅路に。
【Next go to the story.】




