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サイト管理人。─ 仮称伝達 ─ 作者:aza/あざ(筒示明日香)
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happy and birthday to S!

 


 誕生日を、祝いたいなんて実は有り難迷惑だ。
 小さいころから両親に似た、けれど両親と違う顔に悩まされた。年追う毎になぜか自分の顔を誉める人間が増えて行った。
 最初は親戚。次に友達。次にクラスメイト。

 増える称賛。……吐き気がした。

 それでも怖くて表には一切出さなかった。温厚な面の皮が厚くなるたび、内面はひどく冷え段々不感症になって行った。……自分がおぞましかった。

 構いませんよ。そう口にして心はフザけるな、と吐き捨て。
 大丈夫です。笑って見せながら裏ではよく見ろよ、なんて苛立った。



 最低な人間だと気付き思いながら何も変えられないまま月日はやって来て流れて去って。

「“サチ”」

 同族に絡まれた。



「……会長。仕事してください」
「してるじゃないか。ほら、サイン。ちゃんとやってるぞ?」
 六月のまだ梅雨明けしない末日、彼女は晴れ切らない空の下会議室のすぐ下の芝生で────寝っ転がって書類を整理していた。
 整理中とは言っても読んではサインした書類はそこらに放られ今やどれがいつの何の書類かなんてわからない。
 ……これ、どうせ全部俺がやるんだろ? そう思うと頭が痛かった。
 しかも今朝方大雨に見舞われた今日現在放課後。この曇り空の下じゃ絶対芝生は湿気ってるに違いない。
 頼むから濡らさないでくれよ? そう考えながらそうでもはっきり抗議しないのは────しても無駄だと身に染みているから。

 ああ、まったく。俺が溜め息に視線を外した隙にだった。

「……ああっ! 何してるんですか会長!」

 このイカれた会長様ったら落書きしてやがった。それも予算委員会の資料に。

 明日行う予算委員会で、各部活の希望金額と実際の支出を纏めたデータを比較しながら決めなくちゃいけない。
 その資料が、今、落書きの危機に。ついでに言えば、それはただの資料でなく提出用だった。……学校に。
「……ったく、莫迦じゃないんですか? どうすんですかしかもボールペン!」
「ただのボールペンじゃない。ゲルインクの書き味素晴らしい〇.三ボールペンだ」
「んなこと聞いてません! ……あーあー」
 暗澹たる気持ちで俺は書類を拾い始める。
 この書類、また印刷すりゃ良いと言うものじゃない。各部活の部長もしくは代表者から直に書かれた希望額とサインがされている。その下に前年度の支出額と結果算出されるだろう予算額の空欄。更に下に承認したときに書かれるだろう生徒会長の記名欄。……メンバーはコピーで協議だが会長は原本なんだ。

「どうしようかな」
「あまり考えるな。禿げるぞ」
「責任取ってくださるんですか」
「婿養子しか受け付けんが」
「そっちじゃなくて」

 この会長様は本当に頭が痛い。こんな人が会長なのは偏に、『表舞台』ではまったく変わるからだ。
 まるで二重人格と言っても良い。俺がそうであるように。

 見事なまでの仮面。その下はこんな偏屈で変人で意味不明で、自分以外を見下した人なのに。

 表面では才色兼備、高嶺の花、温厚篤実な孤高の麗人。
 それが、我が中学校の生徒会長様だった。

 高校も行かず、すでに大検の準備をしてるらしい。まぁ窮屈で仕方ないんだろうな、この[箱]の中は。本性を知ってるのはこの人には幸で俺には不幸なことに、俺だけだし。
 自由な人だから。俺はまた地に届くんじゃないかと思えるくらいの溜め息を吐いた。

「老ける上に不幸になるぞ」
「途轍も無く不遜な態度を取る前に自分がされた責任を取ってください」
「綺麗な顔して辛辣な」
 にやりと、表じゃ絶対しないいやらしい笑みを浮かべた。お互い様なくせにどこまでも偉そうだ。
「───……まぁ、良いです。仕方有りませんしね」
 睨み合いを数瞬続け結局折れたのは俺だった。

 そもそも、勝てる訳が無いのだ。



“あなたが小鳥遊くんね”
 まだ表層人格の喋り方で、彼女は言った。
 俺と言えばその当時は中学に入ってようやく一年。二年生になったばかりのころだ。
 そのときはまだ噂の生徒会長様が何で俺をと思っていた。優等生であり続けていたから、何かにつけ先生に勧誘されていたのは確かだが。
 それでも会長が直々に出て来る意味を探した。そのときの俺は彼女を、本当に評判でしか知らなかったからだ。
 彼女の評判は悪いものが一つ、ミリ単位にも無いものだった。

 先生からの信頼厚く、その手腕や堂々とした立ち居振る舞いから生徒会を一手に任されているとか。成績は常にトップとか。体育競技も十位以内は確実とか。
 何かの論文が海外で高い評価を得た────なんてのも在ったな。

 そんな『ザ・完璧人間』たり得る彼女が、どうしてわざわざ自分の前にと。
 未だこの瞬間は知らなかった。

 そう。

 このあとなんだ。

“綺麗な顔ね。成績も優秀。生徒間先生間共に評判は上々。素晴らしいわ”
“はぁ……有り難うございます”
“でも、疲れない? ────歪んだあなたの内側は”



 ……バレてたもんなぁ。

 初対面、あの瞬間、会長様ったら化けの皮がずるりと剥けていた。
 俺は動揺した。あのとき、笑って誤魔化せば済んだのに。
 気付いたら生徒会に入る羽目になっていた。まさかの副会長で。

 後に填められたのだと教えられた。二年から会長に収まっていたこの会長様は新しいメンバーの選出を先生から訊かれていたそうだ。
 言うなればあの何かしらしつこくされた勧誘も実は差し金だったと。
 当時の俺を捕まえられるなら必ず殴って心構えをさせてやる。だけど仕方ないじゃないか。

 マセていようが賢しかろうが歪んでようが、俺は十三なんだ。その分しか生きていない。

 さすが二箇月。正確には一箇月半。この会長様との二重な扱いにも慣れて来た。
 けれど、だからって太刀打ち出来るようにはまだなっていない。繰り返す。まだ一箇月半だから。

 ……。一箇月半なのに、この数年は付き合わされてるような気分は何なんだろう。

 それだけ濃密と言うことか。……考えたくも無い。
 俺が鬱な気分に浸って掻き集めた書類を抱くと、ぐいぐい学ランの裾を引っ張られる。そちらに向けば生徒会長様が、起こした上体を伸ばして俺の服を引っ張っていた。……器用なんだか横着なんだか何なんだか。
「サチっ、サチっ」
「何ですかもう……」

 訊いた瞬間。

「───ぶっ!」
 紙が顔面を直撃した。

 残念至極な話、生徒会長様の仕業だ。
 何だこの無体なやり方!俺が何したよ!

 ちょっと腹が立った俺はすかさず投げ付けられた紙を引き剥がし、抗議に出た。
「会長! いい加減、」
 でも引き剥がした紙を見て黙らざるを得なくなる。

「サチ、

 お誕生日おめでとう」

 それははっきり言って学校の書類で、やっぱり提出用で。
 だからそれは落書きでしかないからすぐ消してほしいんだけど。
 怒るには、怒れなかった。
 無邪気に笑う生徒会長様の効果か。
 忘れていたところの不意打ちだったか。

 内緒だが。

 嫌じゃなかったのは覚えてる。

 まったく。

「うれしいだろう?」

 確信犯め。

「……会長でも苦手なものが在ったんですね」
「?」
「だってこのバースデーケーキ、明らかに潰れてますよ」
「うるさいっ!!」
 だって俺、美術五だもん。
「……」
 まったく。

「……会長、この提出用ですが、」
「何だ。やっぱり取って置きたいんだろう?」
「確か予備が職員室の顧問の机に在ったと思います。明日までなのでその書類の部活に再記入してもらってください。よろしくお願いします」
「待て! もう下校時刻だぞ?」
 会長が慌てて上を指差す。耳を澄ませば、会長が示す通り空気に乗って下校を知らせる音楽が流れている。アナウンスも。

 だけど俺には知ったことじゃない。

「まだ、残っている可能性も在ると思いますので。では、よろしくお願い致します」
「なっ、おい、サチ!!」
 焦る会長様を放置して俺は素早く散らばっていた書類や資料を集めると、校舎に戻った。
 当然、職員室ではなく生徒会議室。
 このバラけた束は明日仕分けるからこのままで良い。
 後ろで喚く会長様を物ともせず、俺は足早にその場を立ち去った。



 あとで、会長がすでに予備を提出していたことは顧問に訊いたが予想通りと言ったとこ。何て言って再記入してもらったんだか。

 まぁ、あの人を出し抜く気なんてさらっさら無いけれどね。

 思えばこの会長とのやり取りはまだ可愛らしいものだったと思う。



 まさかこの数年後、『アイツ』と出会って。

 もっとも濃くて、もっとも痛くて、

 もっとも手酷い、重く濁った世界に引き摺り込まれるなんて。

 誰が思う?






   【Fin.】


 
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