In the room.
手首を掻っ切れば楽になれるモンかなと思ってみたけど、実際は赤い筋と痛みが在るだけで、予想内の結果に笑いが出た。
「……何やってんの」
遠矢が、いつもへらへらしているこいつらしくなく、顔を顰めてる。
「いや、切ったらさ、少しは楽になるんかなと。……サイト連中の気持ちになって考えてみた」
何でもないように傷を拭く。まだちりちり痛むけど、転んで出来る擦り傷よりは痛くない。
血は、浅いせいか止まっていた。
「下んないことやらないの」
遠矢が、いつもどうでも良さそうに当たり障り無くしてるこいつらしくなく、真面目に俺を咎めてる。
「別に……大して出血もしてなきゃ深くもないじゃん。つか、管理人がそれ言っちゃ駄目なんじゃん?」
そう。俺を責めるように叱り付けるこいつこそ、今朝新しい傷を造っていたのだ。
真新しい丸い火傷。円状のそれは、煙草を押し付けて造られる。
「せっかくキレイな肌してんのに、わざわざ傷付けなくてイーっしょ? 俺はもう手遅れだから」
真剣な顔付きで、俺の手首に触れる。傷には触らないように、注意してるようだ。
「消毒……しなくちゃな」
ぼそりと言ってくれた。
いや、待て。
「いいよ、大した傷じゃないから」
俺が腕を振り払うと。
「莫迦。破傷風にでもなったらどうする」
と、自分の腕なのに取り返された。そうして、洗面所を出た。
「痛いんだよ、まだ」
「そりゃ好都合。良いんじゃないか? 体験したかったんだろ? “ヤツら”の気持ち」
「……」
「痛みを感じて、自己の存在を確認するんだ。見失って、見えなくなったモノを探すんだよ。───これが、その『代償』だ」
俺の手首は持ったままで、消毒液を探しながらそう言い募る遠矢。らしくない感傷的な物言いに、俺は問わずにはいられなかったらしい。
「お前もなのか?」
「……多分ね」
器用に、探り当てた消毒液とガーゼに包帯。
「ほい。手ぇ出して?」
そんなの言わなくたって掴まれたままだから意味は無い。なされるがまま、俺は現状を放置した。
「……っ……」
数瞬後、染みる感覚に思わず口を閉じ目を伏せた。
赤い筋はすぐ消えた。
痛みは更にもっと早くに消えていた。
長袖の季節、俺は包帯を見咎められもせず。
包帯はその用途を失った。
【Fin.】




