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a wink

 



 瞬きする間に世界は変わる。


 今、目を閉じた瞬間にも世界は変わるのだ。


 瞼の向こうがどんな世界で在るかはわからない。


 だって自分には見えないから。




 暗い。

 目を開いて見た世界は、開ける前とそんなに変わらない暗闇だった。

 ───眠い……。

 ついさっきまで眠っていた、しかも夢を忘れてるくらいだから相当な深い眠りだったに違いない。にも関わらず、まだ、眠い。


 こうして目を閉じている間にも世界は変わるのだ。

 私が嫌いな世界。

 私が死にたくなる世界。

 そして。


 ……~~♪♪。

 黒ずんだ沈黙の中、夜の帳に反するように、明るい着メロ。私の趣味じゃない、私じゃない誰かに勝手にダウンロードされて設定された。

 緩慢になりながら、のっそり起き上がり私は携帯を手に取る。

 メール。

“今から電話して良い?”

 内容。

 思わず、は? とか言いたくなるメールの送り主は、ヒトの携帯に着メロを勝手に落として付けた張本人。

 そして私の『恋人』。

 仮初めじゃなく。

 正真正銘の。


 私は自分に無頓着で、長い髪もただ伸ばしっ放しになっているだけの女で。

 しかしなぜかそれが周りには良いようにウケる。別にウケ狙った訳でも、一部の小煩い女共の言う“良い女振ってる”訳でもなく。

 本当に私は無頓着なだけ。


『大和撫子』って何よ?

 頭が良いのは『才色兼備』なんじゃなくて単に親しい人間も無く本とかネットで知識に埋もれてばっかりだからで。

 なのにみんな都合の良いフィルターしか着けずに観てる。


 やっぱ世界なんて嫌いだ。


 ぽちぽち。プッシュ音は消してるから、鳴るのはそんな感じの音。

“良いよ。掛けてくれば?”

 恋人に送信。手紙のアニメーションはこれまた勝手な登録された相手の犬の写真。

 まぁ、これは、可愛いから良いんだけどね。

 着メロはどうにかしたいな。

 あんまり好きじゃないアーティストだし。もともとJ-POP好きじゃないから。 そう考えながら目の前に放った。座るベッドの上だから、壊れもしないし。


 ……──~~……。

 着メロと同じ音程の、今度は歌声も入った、いわゆる着うたが流れてきた。

 連動バイブが発動して連動ライトも光る。

 恋人からとわかる、恋人からの着信を示すそれ。

 メール返信してからほぼすぐの電話に、私は通話ボタンを押した。

「もしもし?」

「もっしもーしっ! 俺、俺俺」

「詐欺?」

「ひどっ! っがーうよっ。たがやですっっ」

 耳からきーんと来て、脳が騒ぐ。

「うんなん着メロだの着うただのでわかるわよ」

「あ、俺愛されてる?」

「……あんた馬鹿?」

 呆れた。

「非道いっ」

「非道くない。あんた以外に誰があんな着信音登録するのよ? あんな「馬鹿みたいに明るい曲?」」


「……へへ」

 止まって、間を空けてしまった私に、丸きり子供みたいな声が聞こえる。

 うれしそうに照れ笑う、子供のような。

「憶えちゃってるよ、紗途子さとこのコト」




 …ああ…。




 目を閉じる。

「紗途子のコトね、いろいろ知ってるのちょっと自慢なんだぁ」

 真っ暗。開けてるときも大差無い。

「ほら、俺物覚え悪いじゃん? だからさ、紗途子のコト憶えていられんのかなり自慢なんだ」

 それだとしても。目を閉じたら何も見えない。

「だけど思うんだよ、最近俺が物忘れひどいのはきっとこのためだったんだって」

 目を開けていたら暗くたって“何か”見付ける。

「紗途子のコトさ、何でも、……きっと全部? 憶えておけるようにだったんだよ」

 目を閉じていたら。

「────と、俺はね、思う訳です。どう? 俺の考えなんですが」

 何の変化も見逃して、一秒でも変貌を遂げる世界は変わってしまう。

 それは悔しい。

「耕」

「はい?」

「あんたやっぱり馬鹿だわ」

「えぇっっ!!??」




 目を閉じ開けるだけで。

 じゃあ目を開けていよう。




 そして世界は変わるのです。







    【Fin.】



 

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