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移転騒動~コト~

 




 俺の前に鎮座するパソコンの画面には『Not Find』の、文字。


 ───また移転しやがったな、あの野郎。


 思い舌打ちしたと同時に携帯を取り出す。大して見ないでも操作出来る携帯に、俺はさっさと発信をさせた。

 相手は言わずと知れた遠矢、岬遠矢である。


 あんの莫迦サイト管理人は、予兆も予告も無くサイトを消す。しかもキレイさっぱり。そして違う先で作り直す。どんな早さだかデザインも色構成もすべてが違うモノ。

 しかし、それとわかる台詞回し。


──此度はこんなサイトへようこそ。

[傷]を持った者同士、ここでその痛みを晴らし合いましょう。

 些細な苛立ちで良いんです。それを抱えるコト無く曝けましょう。

 たとえ周囲に軽蔑されるような理由でも。


 それは“異常”なんかじゃないんだから──



 と、なっている。

 文学部の人間から言わせてもらえば、この文章に魅力は無い。いやマジで。

 それなのにどんな“魔法”なのか中毒者が後を絶たない。



 …まぁ、そんなコトはどうでも良く。




 三回コールの末繋がった。ら。


「んっ、あ」

 ────ちょっと待て。

「あぁ、颯稀かぁー、どうした?」

 電話口には掠れた声と、時折遠く入り込む女の喘ぎ声。

「お前……電話出るなよ」

「何…、それぇ。電話してきたの、そっちじゃあなぁい」

 フザけた台詞は息継ぎで霞んでる。


 ────情事コトの最中に電話に出るんじゃねぇよ。


 俺は、慎ましく電話を切った。


 間。



 ……~♪♪~~♪



 本日俺以外誰もいない家に鳴り響く、あまり俺好みでない着信音。


「……終わったかよ?」

「お前ねぇっ! どうしてそうなのぉっ!? 自分勝手過ぎよ、アタシを『何』だと思ってるのよぉ!!」

「“莫迦”」

 的確に、迷うこと無く答えてやった。

 遠矢の、のた打ち回るのが聞こえてくる。

「それで? 終わったのかよ」

「終わったよ、終わらしたよ。そしてもう帰らせたよ」

「それは早かったな」

 確か、電話を切ってから一時間くらいしか経ってない。

 ちなみに俺はその間適当にネットサーフィンしていたが。

「そりゃあ、行きずり女子高生より愛しの颯稀を取りますよ、僕は」

「ほう。寒い」

 軽く往なすと、遠矢はやはりのた打ち回っているようだ。

「……颯稀の莫迦」

「俺が莫迦ならお前は何だろな」

 息を吐くように囁くと、遠矢はやはりがたりがたりと暴れているようで、俺は特に気にもしなかった。

「お前、」

 取り敢えず非常識マナー人を放置し本題を振る。

「サイト、また移転したのか?」

「うん」

 こちらも、先程うがうが唸っていたのが演技のように(実際どちらか知れないが)平静に即答なさった。

「あ、そう」

「うん」

 波風立たずままに、二人して黙った。

 確認は取れたので、用は済んだとばかりに通話を切ろうとして───遠矢が問うてきた。

「新しいアド、要らないの?」

「ん。勝手に探す」

 いつもの事態コトだ。気にもしない。だから。


「じゃあな」


 電話はオフになった。


 切れた携帯を持ったまま、片手は垂れ下がった。別に怪我とかそんな不可抗力と言うんでなく、わざと力を入れないで。

 利きのもう片方でキーを操作する。幾つかブックマークに落としてある携帯無料サーバの中から選んでアクセス、その中の検索を使う。

 引っ掛からなければ、探せば良いだけだ。暇潰しだ。いや、暇潰しでしかない。




 とにかく荒らしでなければ良いのだ。

 それ以外は管理人が何をしようと何ら関係がない。


 たとえば、管理人が誰かを嬲ろうと愛そうとやさしくしようと冷たくしようとどっかの行きずり女と関係を持とうがそれを殺そうが。




 所詮そんな“騒動”は、一過性でしか無いそんなモノなんだから。







   【Fin.】



 

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