死との境目
早い話が、こんなにも簡単なコトなのだ。
たとえば、このホームが『生きる世界の端』ならば。
この黄色い線を軽々と、白い線を無視して、この今ホームからはみ出ている爪先を更に踏み出したなら。
私はたちまちホームの下に落ち、下手すれば感電死、巧くそれを逃れても電車に轢き殺されてぐちゃぐちゃになる。
だったらこの先は『死の世界の入り口』へとなりはしないだろうか?
ほら、またヒトリ。
黄色い線も白い線も気に留めず、ホームの端に立つ私。
それよりは後ろの───だけど白い線を跨いでるところにいるオジサンは、物凄く挙動不振だ。
きょろきょろと周りの様子を伺っている。鈍いヤツなら人捜しと勘違いをしてくれるだろうがきっと違う。
“───まもなく電車が参ります。ご乗車される方は、そのまま白線の後ろに下がってお待ちください”
今だ落ち着きの無いオジサンに注意して観てると、ホームのアナウンスが流れた。
もうすぐ電車が来る。そんな時。
あ。
飛び込む。
キキィ─────ッッ!!
……やっぱりな。
途端無関心だった周囲が騒がしくなった。
挙動不審も甚だしいあのオジサンの慣れの果てを観に集まってくる。
だけど所詮はその程度。
一旦の好奇心が満たされればあとはただの世間話になるんだろう。
私にとっても。
一旦の探求心が満たされればあとはただの出来事だ。予測通りの結果にもう興味は無い。
さよならオジサン。
オジサンが悩んでたことも何にも知らない。
それは当事者で有ろうオジサンの家族が知れば良いコトだ。
私が知ってるのはオジサンがここで“一線”を越えるだろうってコトだけだった。
それで充分だった。
だって私は[無関係]だから。
だってあのオジサンだけじゃないもの。
この先も同じように 一線 越えるヒトが大勢いるんでしょう。
私からも見えるこの 場所 とか。
ここじゃない駅のホーム、どこかの屋上、ベランダ、他にも。
要するに『死の境目』なんて、つまりはこんな、簡単な場所に在るってコト。
【Fin.】




