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小鳥遊颯稀の事情

 

 事情と言う程、俺は何も持っていない。ただ、隠し事は在る。……言い訳だな。自嘲を自重する、なんて寒いギャグめいた一文を思い付くくらいには俺はこの隠し事の重みに押し潰されている。

 ああ、何から話そうか。うん。そうだな。まず、要子との出会いについて。


 要子と出会ったのは、偶然じゃなかった。要子が仕組んでいたんだ。要子は合コン帰りの俺を待ち伏せしてた。高校生のいる時間帯じゃないが、周りにはお付のボディガードもいたし拉致られて連れて行かれた先で顔を見せた要子の父親も驚かなかったから、多分岬家では何も彼も織り込み済みのものだったんだ。……蛇足だけど、後日合コンでいっしょだった面子から「アレは誰だ」「彼女か」と責め立てられた。いい迷惑だ。

 要子の父親、つまりアイツの義父、異母兄は冷たい目をした男だった。年若くして要子の母親と結婚したんだ。容姿は、聞いていた役職からは想像も付かない程若く精悍だったよ。でも線は細かったかな。あの目が無ければ、『優男』、そう言うイメージを抱きそうな感じだった。

 血の繋がりは莫迦に出来ないな。アイツによく似ていたよ。ああでなければ、と付くところまで。俺のところは血の繋がりなんか疑わしいくらい似ていないけど。

 要子は表情こそ父親にもアイツにも似ていたけれど、だいたいの造作は母親寄りだった。夜分遅くに娘が伴って来た初対面の男を、迎え入れるやわらかな微笑は、アイツが時折見せる笑顔に似ていた。この人とは確か血が一ミリも繋がっていないのにな。

 夜中もいいところの時間に、娘の連れて来た男と面談する両親。この構図はともすればお見合いか何かみたいだった。現実はまったく違うところに在ると言うのに。

 突然現れて「遠矢お兄様のことでお話が在るの」と連れ出され、連れられて来たら親と面談。訳のわからない現状に、俺が状況把握に努める傍らで要子が言った。「この人、私の家庭教師にしたいの」って。さすがに驚愕したよ。

 更に驚かされたのは両親の反応だった。父親は「学力にも身辺にも問題は無いみたいだし良いんじゃないかな」やっぱり個人情報は調べ上げられていたらしく頷き母親は「遠矢くんのお友達なんでしょう? だったら問題無いわね」こちらは遠矢から直に訊いたのかうれしそうに笑った。突発的な出来事に俺だけが置いて行かれたんだ。

 我に返った俺は勿論すぐ断ろうと思った。意味がわからないからだ。岬家が何を考えて俺を引き込もうとしているのか知らないが、俺からすれば迷惑以外の何物でも無い。第一、アイツのことで岬の家に良い印象なんて一切持ってないんだ。冗談でも関わりたくない。だけど。

「あなたには、私といてもらわないと駄目なの。お兄様のために」

 要子が囁いた。俺は要子を見た。要子の目は真剣だった。────ここで疑問が浮かんだ。

 何が、どう、“遠矢のため”なんだ、と。

 複雑怪奇な岬家。だけれど要子の兄はアイツだけだ。要子の父親はアイツにとっては父でありながら兄であるけれども、要子にとっては間違い無く父親だ。他にお兄様は有り得ない。遠矢のため。何が?

 わからなかった。気持ち悪かった。

 この引っ掛かりのせいで俺はつい岬要子の家庭教師になってしまう。

 そして出された絶対厳守の制約は。

「絶対、お兄様に言っちゃ駄目よ」

 アイツには秘密。そう人差し指を立てて笑った要子は、先まで父母の前で見せていた態度を一変させた。父母の前とは異なった要子が俺に打ち明ける秘密の意図。要子の計画。最後まで言明しなかったけど、容易に察したよ。

 だからアイツには話していない。義理を果たそうとかそう言うモンじゃないけどね。面倒だから勝手にしてくれ、と思って。


 コレがいけなかった。


 クリスマスイブ。

「遠矢」

 屋上で、柵に寄り掛かって、右手には。

「どこで手に入れたんだ、それ」

 鈍く光る拳銃を握って。


 喧しく輝くイルミネーションを背にアイツ─────遠矢は




 笑ったんだ。






   【Fin.】

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