Go to see cherry blossoms’see cherry blossoms.
俺は読書がしたいんだが。
「颯稀ちゃあん! 卵焼き要る? 自信作なんだけどー」
「“自信作”言う割りには大したこと無いな。普通の醤油味やん」
「うっさい黙れこの似非関西人! テメーなんざ金沢帰れ!」
「ああ? 何やねん、お前なんか似非チンピラの似非カマやないか! お前のほうこそホンモンの方々に武者修行させてもらえや!」
「ふ、二人ともやめなよー……。岬くん卵焼きおいしいよ! あっさりしてて僕は好きだな。……ほら、八好謝って!」
「何で俺が謝らなあかんの!」
……。
「ちょ、もー! 颯稀ちゃん何とか言ってやって!」
「上等やないか! こうなったら小鳥遊に白黒はっきり決めてもら……」
────バタン!
荒々しく、本が閉められた。
「……」
「……」
溜め息。沈黙。そして一言。
「……────お前ら、黙れ」
「「……はい」」
晴夜一人心中で喝采。と、同時に颯稀にひたすら詫びる。
四人で花見に来たのは、はっきり言ってなぜだかわかっていない。ただ朝の四時くらいに遠矢から電話が掛り、切りたい衝動を堪え無駄話に付き合い、その間唐突に言われたのだ。
“今日、七時ね”
“は……?”
突然の提案、もとい約束に寝呆け眼の目が点になる。
“颯稀ちゃん家の近くの公園、綺麗な桜咲いてたから。場所取りよろしくね?”
“はぁあっ!?”
“じゃっ”
語尾に音符だかハートだか星だか付くような感じで一方的に、尚且つ颯稀が反論することをゆるさない早さで通話は終了された。
その何とも理不尽な所行に、結局文句一つ言わず従うのは決して愛などでは無い。決して。
「……しっかしだぁれもおらんなー。こんな満開やのに」
「……普段はただの児童公園だからな。っつってもあそこのアスレチックを模したんだか何だかわからん遊具しか無いからあんま子供も来ないけどな」
きょろきょろ周りを見回しながら喋る八好に、遠矢から皿を受け取った颯稀は律義に説明する。このうるささに本は封印した。
「広いのにね」
「確か、近くにもうちょっと遊具の多い公園在ったよね?」
「ああ、最近出来たヤツな」
颯稀の家は都内近郊でも結構な住宅地にその所在を置いていた。閑静なベッドタウンとして有名で、名前を上げれば皆が「ああ、」と頷く場所なのだ。
少子高齢化とは言うが、この街の子供の数は増えたらしかった。そんな住宅街のど真ん中、よくよく考えれば幾ら桜が綺麗だからって名所でもない児童公園で大の男がそれも四人も弁当を広げたりはしないだろう。颯稀だって見掛けたら少し考える。
だが幸か不幸か今日は休日だ。しかも未だ時計の針がお昼を指すにはあと二周しなければならない時間帯。
こんな早くから動く人間など皆無に等しく、精々犬の散歩に来た人を見掛けたくらいか。まぁ、早いとこ昼前に済ませてしまえば近所の人に見付かることもきっと在るまい、これだけ静かにしてれば……。
希望を抱き達観して付き合う颯稀だが、希望とは打ち砕くために在るのであって。特にこの二人には。
「───さーけ持って来ーいっ!」
……!
「おい何やって、」
「あー……八好が、」
「っぎゃっはははは!!」「うわぁ。ピッチ早過ぎ量飲み過ぎ! せっかく四人分見越して買って来たのにもう無いじゃん」
言いながら空の軽いビニール袋を振る遠矢。颯稀はその様を目を剥いて訊き返す。
「お前、酒なんて持って来てたの!?」
「え、だって花見って言ったら酒でしょ? にしても仄束酔っ払ってない? いつも日本酒一瓶空けても平気なのに」
「あー。八好、発泡酒には弱いんだよね。体質みたいなんだけど」
「へー」
「酒無いでぇ! 早く持って来ぉい!!」
完全に出来上がってしまい騒ぐ八好にお手上げの晴夜とやっぱり他人事な遠矢の中、何とか静かにさせたい颯稀は目を合わせてしまった。
こんな早くから買い物帰りらしき隣りの家のおばさんと。
血の気が引く。これまで颯稀は品行方正でやって来たのだ。両親はおろか、近所でも評判の優等生で。
ただ目が合って苦笑し合うなら救われたのに。選りにも選っておばさんはそそくさと立ち去ってしまった。
あからさまに目を逸らして。
「どうしたの? 颯稀ちゃん」
「……せろ」
「え?」
「早く静かにさせろー!!!!」
その後おばさんには適当に物を、言うなれば口封じの賄賂的な菓子を持って言い訳しに行きましたとさ。……別にそこまでしなくて良いと思うのだけれど。
【Fin】




