空虚たる空虚ゆえの失明。
僕は事故に遭い目が見えなかった。僕が望むのは『光』だったけれど、それが僕に視覚を与えてくれることなどなかった。
理亜。きみは『光』ではなく『闇』の名を持つ人だった。
「観名。今日は何て書き込む?」
理亜が伺うのは、サイトへの書き込みだった。よくは知らないけれど、パロディー何とかってサイトだ。僕に代わって理亜が書き込む。僕が口にしたまま、理亜が。
「可愛いよねぇ、『Yukari』。書くことが“世間知らず”って感じ」
理亜が、笑いながら言う。
理亜の説明によると、『Yukari』は“綺麗事ばかりのお嬢様”なイメージらしい。
「『Sayu』だ。ああ、また『Yukari』の援護ぉ。つまんないなぁ。友情ごっこは外でやれっての」
頬を膨らます理亜が、見たこと無いのに浮かぶ。おかしくて、僕は笑った。
「……あ。何? 何かおかしな文章でも浮かんだぁ?」
おかしいのは理亜だよ。
そう口に出来ないのは、理亜がいなくなってしまったら僕はヒトリになるからだろうか。理亜の機嫌を損ねるのが怖い。
僕は怖い。
理亜がたとえ『闇』でも、いなくなるよりマシなんだ。
「───“世間知らず”だから、“ここに来る”のかなぁって」
「へ?」
「『Yukari』」
だから僕は別のことを言った。
「“世間知らず”だから、“《世界》を知ろうと必死”なのかなって」
僕の思い付くままの言葉に、みるみる理亜の目が輝くばかりになるのが気配で伝わってくる。僕は理亜の趣味で目隠しのように巻かれた包帯の下、目は元から閉じていたので首だけを俯かせた。
「よし! そのまま書ーこうっ」
理亜が机に向き直りパソコンを打っているのが音でわかった。
僕の言ったままが今文字の羅列として形を成しているんだろう。ハンドルネーム、『mm』として。
僕は理亜がいなくては籠の鳥なんだ。網の中を無様に藻掻く魚とも言える。
理亜が死んだら僕はどうしよう。
理亜が死んだら、僕は。
『闇』と共存してでも、ヒトリは嫌だった。
【Fin.】




