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氷竜と身代わりの花嫁  作者: riki
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5.ご本人の登場です!

 おお! まさにお姫様ーって感じ!

 ディアナ姫の第一印象はそれだった。


 ツヤッツヤの黒髪を垂らし、長い睫にけぶる瞳は夜空を閉じ込めた黒。ただ昏いだけじゃなく深みがあり、濡れた輝きは星を内包しているかのよう。真っ白の肌は若さあふれる張りと肌理細かさ。瑞々しい唇は鮮烈の紅。生だよ、ナマのスノーホワイトちゃんだ!

 容姿を裏切らず、声は鈴を転がすように可憐だった。


「おまえが、わたくしの身代わり?」


 高飛車な物言いすら蝶よ花よと育てられたお姫様らしくって、あたしはウンウンと頷いていた。


「……おまえ、口がきけないの?」

「喋れますよー。見惚れていただけです、お姫様だなあって」


 訝しげに眉を顰めたディアナ姫。

 可愛いなぁ。こんな娘が我が子だったり妹だったりしたら、そりゃ何とかしようと思うだろうね。


「お父様とお兄様から聞いたわ。身代わりの花嫁を立てたと」

「仕立て上げられたっていうのが正解ですけど。あたしが立候補したわけじゃないし」

「……ねえおまえ、その口の利き方どうにかならないの? わたくしはソレールの王女なのよ?」

「だから跪けっていうの? あたしはこの国の臣民じゃないもの、関係ないわ」


 王族だろうと貴族だろうと、誰にもへりくだったりしない。

 ディアナ姫の顔が怒りに染まった。美少女は怒っても可愛いんですね。


「お兄様! この者生意気ですっ!」


 泣き付かれたエリー王子はあたしとディアナ姫を見比べ、つんっと唇を尖らせた妹の頭を撫でながら言った。


「あ~……ええとね、なんて言ったらいいのかな。ディーが王女だからってわけじゃないけれど、サンも自分より年長者には気を遣ってあげないといけないよ」

「それなら気を遣うのはお姫様の方でしょ。あたし十六歳だから、お姫様より年上」

『――えっ!?』


 ハモるなそこの兄妹。


「本当に十六? ディーより二つ三つ下だとばかり……年のわりに大人びた言動をするなと思っていたけど」

「その顔でわたくしより年上なの?」


 アジア人は童顔に見えるらしいですね、ヨーロッパ系のお二方。

 人種が違うとはいえ虚しくなる。

 なにがって? ディアナ姫とあたしのスタイルの違いが。その手足の長さ反則でしょう。一歳差でその胸囲、まさしく脅威!


「って韻を踏んでる場合じゃなくて、お姫様はなにをしにこられたんですか」

「あっ、え、ええ。おまえがどんな人物かを確かめに来たの。かりにもわたくしの代わりを務めるわけでしょう? 人品卑しい者だと困るじゃない」


 どっちが小生意気なんだ。

 苦笑してないでたしなめろ、そこのシスコン兄貴。


「で、お姫様のお眼鏡に適ったんでしょうか、あたしは?」


 頭から爪先まで視線が移動し、お姫様は大げさな溜息を吐いた。


「――気に入らないわ。気に入らないけれど、おまえ以外に代わりはいないらしいから、しょうがないわね。我慢してあげるわ」


 …………我慢する、だって。

 自分の代わりに氷竜に喰われるかもしれない人間に対して言う台詞?


 あたしを見て、エリー王子は困った顔をした。


「行こうディー。もう目的は果たしただろう?」


 エリー王子はまだ文句を言い足りない様子のディアナ姫を促し、扉へ向かった。

 宥めるように肩に回された腕。頬を膨らませた少女の機嫌をとるエリー王子の顔は甘く、見ているだけで妹にかける愛情が伝わってくる。

 一人になって、ぽすんとベッドに突っ伏した。


 あたし、どんな顔してたんだろう。


「…………我慢、ねぇ?」


 絶対、絶対、泣きたくない。

 こんな国のやつらの言葉で。行動で。



 しばらくして戻ってきたエリー王子が、部屋に入れてくれと何度も訴えていたけれど拒み続けた。

 鍵を閉める自由を与えられていない扉はいつだって開けられただろうに、エリー王子は拒絶を受け入れた。――身代わりの機嫌を損ねないように。

 優しさじゃないそれが細く深く胸を引っ掻く。


 その日一日、あたしはメイドさん以外誰も寄せつけずに過ごした。

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