表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷竜と身代わりの花嫁  作者: riki
19/28

18.ゴング鳴りました!

「姫、今日はどの辺りを探す?」

「へっ? …………あ、探しものがあったんだよねっ!」


 コロッと設定を忘れておりました。時間稼ぎだと思いつつ、セフェリノと一緒にあてもなく捜索を開始したが、ないと知っているものを探す行為は自然とおざなりになる。敏いセフェリノにたちまち気づかれてしまった。

 誤魔化せるほど器用じゃないあたしは、素直に謝ることにした。


「すぐに言わなくてごめんなさい……一緒に探してくれてありがとう」

「気にしなくてもいい。見つかってよかった」


 よかったのか、悪かったのか。

 掌で転がす黒い石。パッと見もじっくり見てもただの石に見えるけど、これが《竜心珠》。王子たちに渡せばすべてが終わるというのに、あたしは動き出せずにいた。

 家に帰りたい気持ちは変わらずある。長引いても一か月少々の滞在だと割りきっていたから、窮屈なドレスや慣れない生活に合わせることもできた。今になって、なにを悩むことがあるというのだろう。

 でも、早く王子の元へ行こうと思うたび、金色の瞳が頭をよぎる。

 いつだって心配して優しくしてくれるたった一人の存在。彼を裏切るしか、道はないのだろうか。《竜心珠》の重みは石の重さだけじゃない、セフェリノの心を預けられた信頼の重さだ……あたしはどうしたらいいんだろう。


「……ねえ、セフェリノ。鱗は魔力で融けないように維持してるって言ってたよね? だったら魔術も使えたりするの?」


 ビバッ発想の転換!

 なにも王子たちに頼らなくたって、ここに魔法ちっくな生物が居るじゃない! セフェリノにパパッと日本に帰してもらおう。うん、あたしって賢いなぁ!

 期待にふくらんだ胸は、次の瞬間しおしおと萎んだ。元から大して無いとかは触れちゃいけないタブーですよ禁忌。


「人と竜では魔力の行使の仕方も質も異なる。私には人の魔術は使えぬ」

「……もうちょっと噛み砕いて教えて?」

「竜族は己が体を媒体にして魔力を使う。飛ぶ時には翼に、息吹には呼気に魔力を籠めている。私も詳しくは知らないのだが、人は呪法具と呼ぶ物を媒体にしないと使えないそうだ。質については、人は竜族に干渉できるほどの魔力を持たないが、竜の魔力は強大だ。私が呪法具に触れば壊れてしまうだろう」

「つまり魔力は強いけど、自分の身に関することにしか使えないっていうわけ?」

「そういうことになるな」


 がっかりだよちくしょう! ケッとやさぐれていると、セフェリノが不思議そうな顔で言った。


「魔術についてなら、私よりも宮廷魔術師に尋ねた方が早いと思うが……?」

「いやいやべつにっ? 竜も魔術が使えたりするのかなーなんてちょっぴり疑問を感じちゃっただけだからねっ、深い意味はないから気にしないで!」


 自分でも下手な言い訳だと思う。当然納得しかねる様子のセフェリノに、別の話題をふって話を逸らそうと試みる。


「探し物も見つかったし、もう竜に戻ってもいいんだよ?」


 そう、セフェリノは人型でいるのだ。神殿内に二人きり。氷竜と一緒なら気にならなかった状況が一転落ち着かないものへと変わった。竜の時は遠慮なくぺたぺた触っていたのに、急に距離を取るのも不自然な気がして傍にいるけど、本当は五メートルほど離れていたい。精神の安らぎのために。

 心の中で竜に戻れーと念を送っていると、セフェリノは少し面白がる表情をしてこうのたまった。


「この姿が良い。人身でいると、姫は私を意識してくれる」


 気づかれてた……!

 恥ずかしさと居たたまれなさと悔しい気持ちがない交ぜになって、カッと頬が熱くなる。睨みつけてやったけど、涙目になってしまったので効果は半減していただろう。




 +++++++++++++++




 エリー王子から話がある、そう伝言を囁いたのは、昼食を持ってきてくれたメイドさんの一人だった。

 タイミングの良さに監視でもされているのだろうかと薄ら寒いものを覚えつつ、食事を終えたあたしは城に向かった。

 迷った末に、《竜心珠》は置いてきた。まだ自分の中で答えが出ていない。


 通されたのは一度乗り込んだ私室ではなく、城の地下だろうか、薄暗くて湿気た空気とカビ臭さが鼻につく部屋だった。迎えたのはいつものようにエリー王子とサルバドール老師の二人。


「で、なんの用よ」

「えらく喧嘩腰だね? もちろんきみの成果についてだよ。探してくれたんだろう、《竜心珠》を」

「…………探したけど、なかったわ」


 素っ気なく答えたら、赤毛の青年と老人は顔を見合わせた。


「嘘はいけないなぁ」

「あなたは顔に出る。隠し事はご自身のためになりませんぞ?」


 笑顔だけど、あたしに向けられた翠の瞳はちっとも笑っていない。


「……なにが言いたいの」

「元の世界に帰してあげるかどうかはきみの態度次第だと言ったこと、忘れたわけじゃないだろう? 《竜心珠》を見つけたんだね?」


 今にも「さあ、寄こすんだ」と手を出しそうな横柄さに、堪忍袋の緒がブチッと切れた。


「~~そうやって脅したら言うことをきくだろうって態度、すっごく不愉快! あんたたちは最低よ! 人間性でいえばセフェリノの方が何億倍も素敵なんだから!」

「なるほど、きみにとってはそうかもしれないね。だが、そんなことはどうでもいいんだ。僕たちが欲しいのはきみの好意じゃない、《竜心珠》だ」


 ――どこの世界にこんなことを言われて協力するやつがいるかっての!

 あたしの中で怒りに火がついた。

 もういい! 王子たちには頼らない。こんな人でなしの冷血漢が、約束を守ってあたしを帰してくれるか怪しいものだ。信用できない。

 世界は広い、きっと帰る手段は他にもあるはずだ。この国が駄目なら他所の国に行ってもいい。意地でも見つけて帰ってやるんだから!

 あたしは《竜心珠》を渡さないことに決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ