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氷竜と身代わりの花嫁  作者: riki
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16.5(セフェリノ視点)

「私が人身になれてどれほど嬉しいか、貴女は知らないだろうな」


 額にかかった髪を払うと、少女はくすぐったそうに目を細めた。

 長い髪を上から梳き下ろす。艶やかな黒髪は癖がなく、留めようと思った毛先はサラサラと掌からこぼれ落ちていった。指に残った感覚はすぐに消え、もっと触れていたいと衝動が湧き上がる。

 この手ならば。

 己が手を見下ろし、一瞬躊躇う。いや、人の手だ。丸い爪。氷鱗のない肌。それでも恐ろしく、そっと包み込んだ柔な頬の感触に手を引きそうになった。顔をしかめる様子もなく、振り払われなかったことに安堵する。


「貴女を害する爪がなく、貴女を凍えさせる肌がなく、こうして触れられることを――どれほど切望していたか」


 いつも触れてみたいと思っていた。

 揺れる黒髪。翼で起こしてしまった風で乱れたとき、文句を言いながら整えている少女に謝ることしかできなかった。氷竜の姿では櫛を持つこともできない。

 くるくると変わる表情。つられて笑いたくなる明るい笑顔。ふくれた頬には己はどんな失敗をしてしまったのかと焦り、泣いているときには涙を拭い取りたいと願った。掬い取る雫を凍らせるしかない氷柱の爪は、触れた肌も傷つけかねないというのに。

 竜身を疎んじるなど、エストレージャにいたころは考えもしなかった。


 いつか、触れてみたいと思っていた。

 髪に、肌に。傷つけることなくこの腕に抱き締められたら、と。


 触れ合った箇所から移す熱が心地よく、移される熱に身が灼かれるようだ。氷竜である己が熱を求めることに可笑しさを覚えながらも、惹き込まれる黒い瞳を見つめていたら、笑う余裕は掻き消えた。


「また、殴ってくれてもいい」


 口づけると、腕の中の身体は身を強張らせた。

 柔らかな唇を押しつぶすように強く重ね合わせ、乾いた表面を丁寧に舌でなぞる。ビクリと震えた少女が抗うように手を動かした。何かを言おうとしたらしいが、綻んだ唇は好都合だった。

 さらに深く侵入し、口腔を探る。見つけ出した舌が応えてくれるまでと執拗に絡めれば、わずかな口づけの隙に洩れる喘ぎに退く潮時を見失った。氷竜の時には感じ取れなかった細やかな反応に夢中になる。

 やがて少女の腕から力が抜け、弱々しく服に縋りつくのみとなった。


 ――その様が可愛いと、心ゆくまで貪って。


 最後に唾液を啜り上げて唇を離すと、薄く開けられた唇は紅く熟れて少し腫れていた。

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