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氷竜と身代わりの花嫁  作者: riki
16/28

16.セカンド×××!

 ごそごそと隅で寝支度をしていると、セフェリノが隣にやってきた。

 ええと……同じように寝支度をしているのはなんで?


「あの、セフェリノさん? どうして隣に敷物など広げていらっしゃるのでしょうか」

「姫は休むのだろう? 私も休もうと思ったのだが?」


 たしかに、氷竜の時は鱗に触れるぐらい近い場所で寝てました。が、それはセフェリノが竜の姿だったから。


「男女七歳にして席を同じくせず、よ。あっちで寝てください」


 敷布の上に胡坐をかくセフェリノに冷たく告げて、ビシッと神殿の反対側の壁を指差してやった。氷竜の姿であっても人型に変身するとわかったら今まで通りになんてできません。


「一緒に寝てはなぜいけない? 昨日も姫と共に眠ったのに」

「ちょっと、語弊のある言い方やめてくれない!? セフェリノは竜だったでしょっ、竜と人間の姿とじゃ天と地の開きがあるの。夫婦とか恋人同士なら別だけど、普通男女は隣同士で眠ったりしないものなんですぅ~」


 ふんっ、これだから山脈の引きこもりは物知らずでいけない、とあたしが肩をそびやかしていたら、不満そうに目を細めて聞いていた青年が逆襲してきた。


「ならば問題ないのではないか? 我が花嫁殿」


 ぎゃふん!

 ハイハイもうあたしの負けでいいです、いいから! 迫ってこないでっ、顔近いよ!? 少女漫画的ハプニングが起きたらうっかりチューしちゃう距離だからこれ!

 押しやろうとセフェリノの胸に手を当て……てすぐに引っ込めた。意外にがっしりとした胸板は固かった。手に残った感触にドキドキして顔が赤くなる。

 触れません。だって今のセフェリノは男の人だもん、無理。


「……セフェリノはここで寝たらいいよ。あたしが向こうにいく」


 悔しいけどあたしには彼を追い払う術がない。かといって二人で寝るのは絶対イヤだ。

 毛布をマントのようにまとって立ち上がると、大きな布の端がずるずると足元にわだかまった。


「姫」

「おやすみ、セフェリノ」


 負け惜しみを爽やかに言い捨て、歩きだそうとして。


「わっ!」


 思いっきり毛布が引っ張られ、背中が仰け反った。虚しく宙を掻いた手に縋れるものはなく、身体が後ろに倒れこむ。

 衝撃を覚悟して目を瞑ったのに、痛みはやってこなかった。

 誰かの力強い腕が、受けとめてくれていたから。そうっと目を開けると、あたしは胡坐をかく彼の膝に座り込む格好で抱きかかえられていた。

 整った顔がドアップ。三秒目を合わせてギブアップ。この体勢はたえられません! 慌てふためいてセフェリノの腕から出ようともがいた。

 あれ? ちょっ、起き上がれないんですけど、セフェリノ、押さえつけてない!?


「ごごごごめんねっ、あたしってマヌケだよね自分で裾踏んで転ぶなんてさっ」

「私が裾を引いた」

「そうだよねっ本当に助かりました、セフェリノが裾を引いてくれ、て?」

「すまない。引きとめようと思ったら手が出ていた」


 見せつけるように開かれた手からするりと毛布の端が落ち、唖然とするあたしの身体に腕が回った。動きを封じる強さでぎゅっと抱きしめられた。抜け出す余地も隙もなくなり、覗き込んでくるセフェリノを見上げることしかできなくなった。


「どうして私をさけるんだ、姫」

「さっ、さけてないよ」


 逆光になる顔の中で瞳だけが鋭く金に光る。目の保養をすっ飛ばして大迫力です。あたしは蛇に睨まれたカエル状態で喘いだ。


「私が気づいていないとでも? 竜身の時でさえ恐れずに見上げてくれていたのに、今はまともに見交わすこともさけている」


 ハッとした。

 指摘されて気がつく。セフェリノが人型をとってから、あたしは故意に彼をさけていた。氷竜が人の姿になれたことに驚いて途惑ったのもあるけど、もっと大きな理由。


 これじゃあ、エリー王子やお姫様を責められないよね。

 人語を解する竜と、人間そのものの青年。

 さあ、陥れるならどちらにより罪悪感を抱く?

 外見が違うだけだ。どちらもセフェリノにかわりはないのに、あたしは。

 ……竜の姿のままでいてくれたらよかったのに、なんて。

 自分の考えが嫌になる。まっすぐ見つめてくるセフェリノの視線が苦しい。




「私が人身になれてどれほど嬉しいか、貴女は知らないだろうな」


 ふと腕が緩み、セフェリノの指があたしの額にかかっていた髪を優しく払った。そのままサイドの髪を毛先まで梳いていく。一瞬ためらった手が怖々と頬に触れてきた。あたたかい。


「貴女を害する爪がなく、貴女を凍えさせる肌がなく、こうして触れられることを――どれほど切望していたか」


 金色の瞳に熱が交じる。氷竜の時には見いだせなかったもの。

 不思議に惹かれて目を逸らせずにいたら、セフェリノの顔がすっと近づいた。


「また、殴ってくれてもいい」


 我慢できない、という囁きは耳で拾ったのか、唇から直接伝えられたのか。

 重なった唇。貪られる動きに、何も考えられなくなった。

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