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氷竜と身代わりの花嫁  作者: riki
14/28

14.王道を行く展開。

 心の片隅に転がっている小さな種。

 見ないふりをしていたそれはむくむくと成長し、無視できないほど大きくなってきた。

 最近、セフェリノといると息苦しい。


 ――芽吹いた感情の名は、罪悪感という。




 +++++++++++++++




「ねえ王子、まだ《竜心珠》は見つからないの?」


 アポなしで訪れたあたしに驚くことなく、エリー王子は黙々と書類に目を通していた。顔も上げないってどういうことよ。ドンッとテーブルに拳を叩きつけた。


「…………サルバドール、説明を」

「はい、殿下」


 影のように控えていた老人が進み出る。


「捜索は難航しております。《竜心珠》の形状については詳しいことが伝わっておりませぬゆえ。一抱えもある宝石とも、輝く腕輪とも、はたまた抜けぬ剣だともいわれております。実物を見た者がおりませんので、巣穴の中でそれらしき物を判別している段階です」


 竜ってやっぱりヒカリモノを貯め込んでいるんだろうか。王宮にとどまっている間に空き巣ばりに家探しされちゃってるみたいだよ、セフェリノ。


「とにかく、早く見つけて。怪しい物は片っぱしから持って帰ってきたらいいじゃない」

「…………どうしたの? いやに焦っているみたいだけれど。氷竜とは上手くやっているらしいじゃないか。噂は僕の耳にも届いているよ。何でも追い駆けっこをするきみと氷竜を見たとか」


 ようやくこちらを見たエリー王子は揶揄するように笑った。

 焦りもするよ。

 セフェリノはあんたたちよりずっと良い竜だもん。一緒にいたら、好きになっちゃうよ……。意のままにできるという《竜心珠》が見つかったら、セフェリノはどんな扱いをされるんだろう。

 ――それは、考えてはいけない。あたしは家に帰りたいのだ。考えたら動けなくなる。……こういう時は王子達の自己中さを真似できたら、と皮肉に思う。


「そっちが悠長なだけよ。神殿に移ってからもう二週間も経ってるのよ?」

「二週間か。確かにそろそろ焦ってもいい頃だね……では、きみにもひとつ協力してもらおうかな」


 王子はあたしを招き寄せ、あることを耳打ちした。




 +++++++++++++++




『姫、なにをしているんだ?』


 セフェリノが不思議そうに聞いてきた。

 もっともな疑問です。


「……うーん。身体検査?」


 ぺたぺたと氷竜の腹を撫で、喉をくすぐり、翼を表裏に返す。氷柱の爪を怖々突っつき、捻れた角の生え際を手探りし、耳をほじる。あ~んと大きく開いてもらった口を覗き込む。うむ、虫歯はございません。困惑気味に揺れる尻尾に飛び乗って、びっちり合わさった鱗の継ぎ目に爪を立ててひっぺがそうとしたらさすがに抗議された。

 ……あれ~? ないじゃんエリー王子。

 胡散臭い笑顔で、「もしかしたら《竜心珠》は氷竜自身が持っているかもしれない。近づけるのはきみだけだ、探してみてくれないか?」、なんて言ってたけど。


「……どこかに落ちたのかな……」

『探し物か?』

「うう、ん……そう、かな」


 壁際に寄せ集められた机や椅子、万が一転がっていったとしたらこの下かな。這いつくばって床との隙間を窺う。

 どこに宝石や腕輪が転がってるって? あ、ホコリ発見。


『私も手伝おうか』

「ぜっっったいやめて! その図体じゃムリ。気持ちだけもらっておきます」


 スケールが違うのを自覚してほしい。あたしみたいに覗き込もうとしたら、頭突きで積み上げた机を崩壊させるのがオチだ。

 冷たくあしらった後に沈黙が返るのはいつものことだったので気にも留めていなかった。半分以上うわの空で探していたあたしは、だから気づくのに遅れた。


「何を探しているんだ?」

「んー……あたしもよくわからないの」

「わからないのに探すのか、大変だな。私もできる限り手伝おう」

「えー? だから手伝わなくていいって……えっ!?」


 セフェリノの声は、頭に響く澄んだ声。

 じゃあ耳に直接聞こえる、近くで囁かれたら膝が崩れそうに甘く低い声は、一体誰のもの?

 隣に熱を感じる。

 ピシッと這いつくばったままの恰好で固まるあたしのすぐ側に、同じように膝をつく存在。体温が伝わる至近距離。視界の端に現れたのは骨ばった大きな手だった。


 そろりそろりと視線を上に持っていけば、初めて見る青年がいた。

 端正な造作は一種人間離れした整い方だった。長い黒髪に金の瞳。すっと通った鼻梁。薄めの唇は艶めいた微笑を浮かべている。完璧な左右対称の顔が彫刻のように冷たく感じられないのは、あたしを見つめてやわらかく和む金色の瞳があるから。


「この姿ならば、貴女を手伝えるだろう?」


 あなた誰?

 まさかまさかまさか、まさか。


「ああ、顔が汚れているな」

「ふぎゃっ!」


 青年の指に頬を拭われ、瞬時に顔が熱くなった。

 近い! 近いよ! 

 擦るように拭い取る指の動きを固まって享受するしかない。ファーストキスをセフェリノに奪われたあたしの男性遍歴は推して知るべしですよ。年齢イコール彼氏いないホニャララというやつです。

 つまり、これだけ異性に接近されたことも初めてで、どうすればいいのかわからなかった。


「姫?」

「あのっ、つかぬことをお伺いしますが………………あなたひょっとして、セフェリノ?」


 青年は当然といった顔で頷いた。


「どうした姫、泣きそうな顔をしているが」


 今度ばかりは心配そうな表情を浮かべたセフェリノに抱きつくわけにはいかなかった。


 人型になれるなんて聞いてないよっ!! あたし、誰とキスしたんでしょう……。

 恥ずかしくて居たたまれない。

 もう泣きたい。

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