どこにでもある婚約破棄のお話、だけどアホ王子でした。
昨今、流行りの婚約破棄のお話です。
ある国の貴族が一堂に入学する学院の卒業パーティーで、
とある男がやらかした。
その男とは、その国の第三王子だ。
この第三王子は、国王と王妃の息子と言うことだけが取り柄の王子だ。
王子の婚約者は、その国の侯爵家令嬢だ。
令嬢には、一つ下の学年に妹がいる。
あろうことか、その妹令嬢を腕にぶら下げて、壇上で叫ぶ。
「私は、婚約している侯爵家令嬢との婚約破棄を、今ここに宣言する。」
「ェー。」と、誰も驚かない。
当の本人だけが『言ってやったぞ』と、したり顔である。
腕にいる妹令嬢さえ、周囲と同じくあきれ顔だ。ついでに、側近たちもだ。
王子の一人芝居のようだ。
「ただ今の婚約破棄宣言、謹んで承ります。
後のことは、家同士の話し合いになります。
皆様には、卒業と言うお祝いの席をお目汚ししたことを陳謝致します。
しかしながら、この場が学生としての最後の交流です。
最後まで、お楽しみください。
妹、帰りますよ。」
王子は、婚約者の侯爵家令嬢がすんなり婚約破棄を受け入れたことが
不思議なのか理解できないようで、
「エッ、良いのか?婚姻できなくなるんだぞ。」
壇上で一人騒いでいる。さらに、言い募る。
「話は、終わっていない。」
だが、すでに侯爵家令嬢は妹令嬢を王子の腕から強奪して
会場を後にしている。
会場では、
「余興、面白かったね。」
さらりと躱して、誰もがクラスメイトとの別れを惜しみつつ
ご馳走に舌鼓をうっていた。
何故だか、一部の生徒はガッツポーズをしながら
「王子よ。よくやった。」と喜んでいる。
一部の生徒は悔し涙を流しながら
「王子に常識はないのか……。」と嘆いている。
そんな光景を楽しそうに眺めている生徒もいた。
王子は、王宮から差し向けられた者たちによって、静かに退場していった。
ただ、ガッツポーズの者たちからは笑顔で見送られていた。
「まだ、続きが・・・。」
と、王子はつぶやいていたとか。
* * * * *
侯爵家令嬢姉妹は、帰りの馬車の中で成功を喜んでいた。
「お姉様。上手くいきましたね。」
「ええ。これも、貴方がアノ馬鹿をうまく誘導してくれたおかげよ。
ありがとう。」
「私は、何もしていません。アレが勝手に妄想しだしただけです。
私は否定しなかっただけです。」
「それを利用させてもらったけど、・・・。本当に良かったの。」
「はい。これで、私は、自由にして良いのですよね。」
「まあね……。」
「でも、皆さん、驚いていませんでしたけど、どうしてですか。」
「それはね。あのアホなら、やるだろうと思っていたようよ。
それに、実行するか賭けも行なわれたらしいわ。
因みに、私は賭けに勝ったわよ。オホホホ。」
「ずるいです。私にも教えてくださいませ。一人勝ちなんて意地悪です。」
「もっと、意地悪を言うわね。
あなたは、この騒動の責任を以て20歳以上の男性に嫁いでもらうわよ。
後妻だけど、正室としてよ。」
「エ~。ひどいです。私は、嫌です。」
「その方は、我が侯爵領の隣の子爵様よ。
お子様もいらっしゃらないし、親族も少ないから気楽でいいでしょ。」
「エッ……。まさか……。はい、頑張ります。お姉様……。気付いて……。」
顔を赤らめながらうなずく妹令嬢としてやったりの姉令嬢がいた。
* * * * *
「ただいま戻りました。こちらは全て上手くいきました。そちらは?」
「ただいまです。お父様。」
「お帰り。こちらも、様々な申請は抜かりなく提出した。
後は、迅速な行動だ。だが、妹は本当にあんな年の子爵で良いのか?」
「お父様。子爵様は、素晴らしい方です。私の初恋なのです。」
「しかし・・・。」
「お父様。この子は、お父様みたいな男性に惹かれるのでしょう。
ネエ、そうでしょう。」
「……そうです。お父様が大好きなの。
だから、お父様みたいな包容力のある子爵様が良いのです。」
「そうか、私もお前のことが大好きだぞ。
イヤになったら、いつでもすぐに帰っておいで、待っているよ。」
「それでは、私は明日にでも子爵様のところに嫁ぎますので準備致します。」
姉の助け舟にすぐに乗っかかった妹だが、哀れなのは父の侯爵である。
準備の為に退室する嬉しそうな妹令嬢の後姿を心配そうに見つめていた。
* * * * *
「お父様。王宮は、いかがでしたか?」
「あははは、見ものだったぞ。
まさか卒業パーティーで婚約破棄するほどアホだったとは、
国王も王妃も思っていなかったらしい。お二人で頭を抱えられていた。
まあ、あそこで王子に踏みとどまられたら
ちょっと困ったことになったがな。」
「でも、事前の話し合いで、卒業パーティーでの婚約破棄宣言時は、
全て、王子の有責でしたわよね。」
「そうだ。しかし、王子に妹との婚約し直しを宣言させなかったのは、
お前の功績だ。少し、ハラハラしたぞ。」
「あの方は、考えなしですから、
自分のシナリオ通り進まない場合、
アドリブがききませんから簡単でした。
それより、王子の宣言後、速やかに事後処理をするお父様の手腕ですわ。
まさか、王宮に関係者一同を集めて、パーティーの進行を確認しようとは
誰も、思いつきませんわ。」
「娘たちの幸せと今後の侯爵家を思ったら、苦労などないさ。」
娘たちにとってはちょろい父親だが、侯爵家当主としては有能らしい。
婚約破棄宣言後、その場で全て処理が終わるよう手配を進め、
完璧に仕事を終わらせたのだ、余程の有能さだ。
王子は、王位継承権を剥奪の上、さらに断種されて、教会に預かりとなった。
良いように利用されかねない頭の持ち主だ。国の憂いを断つために、
やっと、国の王として決断された。
「それにしても、妹は、本当にあれで良いのか。」
「本人が喜んでいるのです。
子爵様に愛されるよう、頑張るそうですよ。」
「そうか。……。少し、イヤ、かなり寂しいな。」
そんな父は無視して、無視より眼中になく、嬉々として妹は嫁いでいった。
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