第9話 帰還した地球は。
異世界に召喚されて20年以上が経って、年齢も40歳を過ぎ、完全におっさんになってしまった。大切な10代、20代は全部勉強に消えて、青春らしき思い出もない。
それに関しては多分、異世界だろうが日本だろうが、なかったと思う。
でも、それでも純粋な恋愛とかはしたかったとは思う。だって、これでも一応勇者よ?女の一人や二人出来てもおかしくないと思うんだけど、全く出来なかったんだよね~~不思議だよね。他の勇者はいたんだけどね。
まぁ、日本に帰ったら‥‥誰か良い人の一人ぐらい見つけて、頑張ってみるか。だって、勇者だからな!!
◇
「うう"‥‥戻ったのか?」と、ゆっくりと目を開けた。
本に書かれていたことが事実なら、俺はあの時の”自分の部屋”に戻って来るはずだったのだが、目に入って来たのは自分の部屋ではなく、真っ暗で荒れに荒れた見知らぬ部屋だった。
ここ‥‥何処?あれ?俺‥‥戻って来たんだよなぁ?一応は‥‥。部屋は見知らぬ部屋だけど、部屋の様式を見る感じは地球の日本のあれで、異世界の中世感は全くなかった。
自分が一体何処にいるのかが分からなかったので、現在地が分かる物を探そうとするが、部屋が真っ暗過ぎて何も見えない。なので、灯りのスイッチがありそうなところを手当たり次第に触って――カチッとスイッチらしき物を押したが‥‥灯りは付かなかった。
最初は電球でも切れているのかと思ったが、付かなかったのは灯りだけではなく、テレビも冷蔵庫も、そして‥‥水すら出なかった。
一体、どうなっているんだ?俺は廃墟にでも飛ばされたのか?部屋には割れたガラスが散乱してるし、外を見ようにも窓には何枚も布を被せて目張りでガチガチに固定されて出られないし、リビングを出ようとしたが、なぜか扉は開かない。
完全に密閉されたんだけど‥‥どうしよう。まぁ、誰かの家だけど仕方ないよな。うん、家主には申し訳ないけど、壊すしかない。だって、出られないし。
俺は空間を開いて破壊道具を取り出そうとした時だった。隣から――ドン!!と、ものすごい壁ドンが聞こえて来た。
えぇ‥‥エグい壁ドンだね。てか、人いたんだ。てっきり廃墟かなって思っていたんだけど、人がいるならいいや、どうにかしてもらう――いや、待て。あんな全力壁ドンをする人だ。そんな人が助けてくれるか?ないな。やっぱり破壊しよーーと。
一旦、壁ドンのことは無視することに決めたが、その後も――ドンッ!!ドンッ!!と何度も全力壁ドンをして来るので、流石に何かあったのかも知れないと思い、壁に耳を当てた。
『だ、誰かッ‥‥助けて!!お願い、ヤダヤダ‥‥誰かッ!!』
その声は女の子だった。そして声が凄く可愛かった。俺の大好きなVTuberみたいな声だった。
そんなVTuberみたいな可愛い声を聞いた俺は、握り拳を作って壁をコンコンと軽く叩き、その強度を確かめた。
鉄筋か‥‥少し固いが、行けるな――と、俺は握り拳を作った。
そんな可愛い声を持っている女の子を襲うなど許せないぞ、強姦魔!!この俺が直々に成敗してやる!!と、右腕に「強化魔術」を付与させた。
「女の子を襲っては‥‥いけませーーーーん!!――バコーーン!!おい、強姦魔!!この俺が相手だ!!」
と、全人類の女の子が見たら確実に惚れてしまうような登場を決めた俺だったが、強姦魔はこっちを見ることなく、女の子に覆い被さっていた。
「このクソ‥‥変態野郎が!!俺の登場を無視するなんて、いい度胸だ!!」
俺はそんなクソ変態野郎の首を掴んで引っぺがし、後ろへと投げ飛ばして、そいつに向けて指をさした。
「いいか!!クソ変態野郎!!モテない人生が辛いのはよく分かるが、女の子を無理やり襲うなんてクズ以下のやることだ!!絶対にしたらダメだ!!分かったか!!」
「‥‥‥‥」
クソ変態野郎は俺の言葉など無視して、ゆっくりと歩いて来た。
こいつ‥‥まだ、分かってないのか。いいだろう。少し痛い目に合ってもらおう。死ぬほど痛いけど死なないから、歯食いしばれよ!!と殴ろうとした時だった。
変態野郎から、びちゃ!!と何かが落ちると、変態野郎は「ウ"ァァァァ」と俺に向かって襲い掛かって来た。俺は変態野郎の攻撃を止めて、そいつの顔を見た。
「何で‥‥喰種が!?こんなところにいるんだ!?」
「ウェ!!ヴァ!!」
「いい加減、臭いから離れろ!!」
と、喰種を押し返した。
この場にこいつがいる理由は一旦忘れよう。今は、この雑魚を処す!!たかが喰種の分際で、勇者である俺に挑むなどリアルに百年早いし、お前が人じゃないなら手加減もいらない!!全力で殺す!!
俺は再び右腕に「強化魔術」を付与させて、襲ってくる喰種の顔面に右ストレートをブチかました。鉄筋コンクリートすら簡単に破壊するパンチを、首が耐えられるわけがなく、ブチブチと全てを千切って、壁にべちゃ!!とぶつかり、全てが飛び散った。
――ドサッ。と、首から上を失った喰種は、その場で倒れた。
「クソ雑魚のくせに、俺に挑んでくるからだ!!俺はこれでも勇者なの、分かったか!!って、決めてる場合じゃない。女の子を助けないと。」
喰種に襲われていた女の子の元に行き、首に手を当てて脈を確認した。
かなり低い。喰種に噛まれたところからの出血が酷いが‥‥良かった。まだ助けられる。
俺は空間から回復のポーションと解毒のポーションを取り出して、傷口にぶっかけると、傷がみるみると治った。
よし、これで傷はいい。この子‥‥かなり痩せてる。傷は治っても、失った血液までは戻らない。このままだと血が足りずに死ぬかも知れない。
なら、これだ!!俺の特製――栄養剤。その名も「元気もりもりくん」だ。
これを飲めば、どんなに疲れていても一発で元気になるし、人が取るべき一日の栄養が全て詰まっている。しかも、味もりんご味で、子供でも気軽に飲める。
そんな最強の栄養剤を彼女の口にゆっくりと流していくと――ゴクン――ゴクンと飲んでくれた。
すると、もう栄養剤が効いたのか、彼女が「う"う”っ‥‥ここは」と自力で起き上がったので、俺は「もう大丈――」と、そこで言葉が止まってしまった。
理由は簡単で、彼女の美しさに俺の心と脳が全て持っていかれてしまったからだ。
こんなにも美しい人がいるなんて知らないし、多分この世界の三大美女は、こういう人のことを言うんだと思う。あんな、わけの分からない教科書に書いたぐらいじゃあ、その美しさが分かるわけがないんだ。
俺はあまりの美しさに、安否の言葉ではなく――
「好きです!!俺と付き合ってください!!!!」
と、全力の告白をしてしまうのであった。




