第51話 まだ終われない。
「――ぷはっ。」
ポーションを飲んで傷を癒した。
これで怪我は問題ない。後は、どう脱出するかだけ。壁の向こうには大量のゾンビが居て『食わせろ!!』『寄越せ!!』と壁を叩き続けている。
この壁を破壊されたら俺は奴らの餌になる。だから、その前にどうにかして状況を変えないと。
まず、正面から突破はリスクが大きい。ゾンビの正確な数が分かっていれば正面の選択も取れたんだが、壁でその姿は確認できないし、何より突破後の移動手段がないのも問題だ。
あのバイクが手元にあれば無理やりでも良かったんだが‥‥となると、取れる選択肢はやっぱり下しかないか。
俺がいる場所の真下はちょうどリタたちがいるホームになっている。ただ、ホームの高さは電車が走る分高くなっているから、落ちたらただでは済まないだろう。何より、自分の正確な場所が分からないので、落ちた時に別の問題が起きる可能性もある。
だが、正面も後ろもどうにも出来ない以上は、下の選択しかない。
「‥‥正直、かなり危険だ。だが、覚悟を決めるしかない。こんなところで終わるわけにはいかない」
俺は地面に手で触れて――錬成。
錬金術を発動させて地面を崩壊させた。
◇
《――ホーム視点。》
「そろそろ残り弾薬もきつくなってきた!!そっち予備はないか!?」
「こっちも限界だ!!無駄撃ちせずに引き付けて確実に殺していくんだ!!」
「引き付けろって、数を見て言え!!引き付けていたら捕まって噛まれるに決まっているだろ!!」
「だが、やるしかない。何とかして持ち堪えるんだ!!」
ホームは地獄と化していた。何処を見てもゾンビしかおらず、電車に近づけさせないように全員で必死に戦っていた。これだけの激戦で誰一人として噛まれていないのは奇跡としか言いようがなかった。
ここにいる人間は誰一人として諦めてなどいない。絶対に生き残れると信じている。それは、今日まで自分たちがやってきた訓練があったからで、もし訓練をしていなかったら、だいぶ前に諦めて死人が出ていただろう。
それもこれもすべてはリーヴァが残した、確かな成果であった。
自分を信じ、仲間を信じ、最後は絶対に生き残れると信じていた。その願いが届いたのだろう。電車に電気が灯った。
「皆さん!!電気が来ました!!いつでも発進できます!!」
「よし!!全員電車に乗り込め!!」
その言葉を聞き、ゆっくりと皆が後退して電車へと入っていくが、ただ一人だけその場から動かず、ゾンビと戦い続けている者がいた。
そう――リタだ。
リタにとって電車が動くことなどどうでもよかった。その目の先にあるのは電車ではなくマスターの安否だけだった。電車に電気が戻ったということは、マスターが戻ってくるということだ。なら、ここで引くことなど出来るわけもない。
マスターが戻ってこれるようにと、リタはその手を止めることなくゾンビを殺し続けていた。
そして、その姿を見た他の者も銃を取り、ゾンビの排除を始めた。
『マスター!!マスター!!どこですか?ちゃんと無事ですか??』
と思念伝達を飛ばすが返事は返ってこないことに不安になるが、今のリタに出来ることは、ただゾンビを殺すことだけ。マスターが生きていることを信じてただ殺し続けることだけだった。
『マスター!!マスター!!』
と返事がないと分かっていても、その呼びかけを辞めることはなかった。
だが、現実は非情で刻一刻とタイムリミットは近づいてきていた。ゾンビの数は増える一方で、リタが鬼気迫る勢いで殺してはいるが、それでも増える数の方が多く、一歩また一歩と後ろへと下がっていく。
そして「もう、限界だ。」という言葉が聞こえてきた。
「これ以上は待つことはできない。このままじゃあ、俺たちも巻き込まれる。終わりだ。すまない。」
その言葉を言ったのは堂島だ。堂島はリタの肩に手を置いて首を横に振ったが、堂島の言うことをリタが聞くはずもなく――
「私の邪魔をするな!!」
と、その手を払った。
「私のマスターがこんなところで死ぬわけがないです!!逃げたいなら逃げればいいです!!私は何があってもここでマスターを待ちます!!あなたたちはマスターからされた恩だけ持って、何処かへと消えてください!!」
「‥‥俺達だって悲しいさ。リーヴァにはたくさん助けられた。でも、それでも‥‥ここで死ぬわけにはいかないんだ!!君だってそうだろ?」
「違います。私は‥‥あなたたちとは違います。私にとってマスターは命そのものです。あの人がいない世界に私の居場所はありません。」
リタは兄という設定を忘れるほど追い詰められていた。行かせてしまったことが許せず。何があっても止めるべきだったというのに、首を縦に振ってしまったことを死ぬほど後悔していた。
だから、その後悔を無くす為に‥‥武器を持って戦うしかないのだ。
と前に進み始めたときだった。ゴオオオォォと再び地面が揺れ始めた。まだ地震か?と誰もが身を丸めるなか、リタだけは上を見て、その目を輝かせていた。
『‥‥リ‥‥リタ‥‥聞こえるか?』
ずっと聞きたかった。マスターの声が聞こえたからだ。




