第41話 いよいよ出発の時。
「いよいよ、明日ですね。マスターでも緊張しますか?」
「うーーん、そうだね‥‥してる。」
「珍しいですね。私は“してない”って言われると思っていました。マスターでも緊張することがあるんですね。」
「俺も人間だから緊張だってするよ。どれだけ過酷な世界にいようとも、どれだけの戦場を経験しようとも、やっぱり出発の時が近づくと、それなりに緊張だってするし、恐怖だって感じる。まぁ、他の人よりはしてないと思うけどね。」
「ですね。皆さんの顔つきが初日は全然違いますからね。初日は誰かに助けてもらう他力本願なところが見えていましたが、今は、自分のことは自分で守るという強い意思を感じます。たった数日でここまで変わるのは凄いことですよね?」
「全くもってその通りだ。この場所の人は変わった。誰かに頼るなんて甘えた事は考えなくなった。だから、生きる為に、生き残る為に必死に努力する。戦いの技術を磨くもの、救う為の医学を学ぶもの、手を貸せる分野を見つけて協力するものと様々な人が出て来た。これも全て堂島さんと神崎さんのお陰かな?」
「どうでしょうね。私はどちらかというと、マスターの演説のお陰だと思いますよ。」
「え?そうかな?」
リタが言っていた演説とは、堂島さんと神崎さんたちと作戦について話し終わった後に、これからのことと軍キャンプで起こったことを、ありのまま全て伝えた。みんな、かなり動揺していたけど、どこか”やっぱり”かみたいな感じもあった。
そして、最後に俺はみんなの認識を変えてもらう為に「やる気のない奴は連れていかない」と言って締めた。
そっからは堂島さんや神崎さんたちが良い感じにまとめてくれたり、説得してくれたお陰で、みんながやる気になったから、俺のお陰って言うのは少し違う気もするが、まぁ、結局は変わってくれたからいい。
俺は立ち上がって辺りを見渡すと、一生懸命に働く人の姿が見えた。
「明日は成功しますかね?」
「俺達がちゃんと仕事をすれば‥‥成功すると思うよ。」
「言い方に含みがありますね。」
「そうだね。まだ助けると決め切ったわけじゃないからね。ここの人たちは本当に変わったと思うよ。でも、その変化は上辺だけの可能性がある。本当にこの腐敗した世界に順応しているのか、明日のテスト次第では‥‥助けない選択肢も出てくる。」
「テストですか?具体的には何をさせるんですか?」
リタの質問には一切答えずに、ただ指を向けた。その先には、一切働くことをしないで、木の陰から人を睨む田中の姿があった。
「あの人間は全く変わりませんね。絶対に何か仕掛けてきますよ?放置してもいいんですか?まさか、それをテストにするつもりですか?」
「いや、それは違う。明日、奴が何をするのかはだいたい予想は付いてるから、それは俺とリタで止めるよ。テストはその後に行うつもり。本当にここの人達が変わったのか、変わっていないのか‥‥そこで、全てハッキリする。
俺が緊張していたのは、作戦の成功と失敗じゃなくて‥‥こっちのテストの方にだよ。ここのテストの返答次第で、俺達の一週間がパーになる可能性があるからね。」
「‥‥なるほど。何となくではありますが、どういうテストをするのか分かった気がします。多分、大丈夫ですよ。きっと突破してくれます。」
「あぁ‥‥そうなってくれることを願っているよ。」
俺とリタは病院で過ごす最後の時間を屋上で過ごした。そして――運命の日はやってきた。




