第32話 出発前夜。
約束通り神崎さんから一部屋もらった。
もらった部屋は綺麗でかなり広い病室だった。恐らくVIPとかが使う部屋なのだろう。こんな良い部屋を用意してもらえると思ってなかった。神崎さんからの感謝の気持ちとして受け取っておこう。
そうして良い部屋で休憩をしていると、コンコンとノックされた。
「‥‥どうぞ。」
「わりぃ。少し、いいか?」
部屋に入って来たのは堂島さんだった。特に断る理由もないので部屋に招いた。
「まぁ、その何だ‥‥悪いな。何も関係ないお前に全てを任せるようになって、本来なら、こっちがやるべきことだったし、あのクズに対してそっち任せになっちまったな。」
「‥‥気にしないでください。俺は俺の為に全部やったことなので、この場所の為にやったわけではないです。」
「ふふ、そうか。初めて会った時も同じようなことを言っていたな。あの時、命を救われたことも恩返し出来ていないから、今回のも含めて俺に出来ることがあるなら、何でも言ってくれ。全力でやる。」
「そうですか。なら、二つほどお願いしてもいいですか?」
「おぅ!!何でも言え!!全部やってやるッ!!」
「なら、一つ目は『ここにいる人達のプロフィールと前職とか特技』をまとめておいて欲しい。俺の拠点に来た時に誰が何を出来るのかを知っておきたい。」
「あぁ‥‥なるほどな。分かった、正直‥‥話すのは得意じゃないんだが、どうにかする。で、もう一つは??」
「――を頼めるか?」
「――か。ハハ‥‥抜かりのない奴だな。分かった、任せろ。」
と堂島さんに二つのお願いをするのだった。
◇
そうして時間は過ぎて行き――初めて祈が居ない夜を迎えるのだった。
「マスター。そろそろ、祈さんに連絡する時間ですよね?」
「あぁ、分かってる。今から掛けるところ。」
空間から祈と繋がっている”ペンダント”を取り出して、「もしもし、祈‥‥いるか?」と話し掛けた。
「‥‥連絡してくるのが遅い。ずっと、待ってた。」
「悪い。色々とあったんだ‥‥許してくれ。そっちの様子はどう?何か変わったこととかはない?」
「うん。こっちはいつも通りだったよ。正人が出発してからは、いつも通り働いたよ。子供たちも、一生懸命やってくれてたし、そのあとの勉強も真面目に受けてたから、いつも通りだったよ。
そっちはどうなの?色々とあったみたいなこと言ってたから、大変だったの?」
「まぁ、そうだな。大変と言えば大変だったな。まず、子供たちが言っていた”あの場所”は実在していた。人に関してもかなりの数がいるよ。」
「そう。なら、救助もしてもらえる感じ?」
「いや、それは無理だな。今日、ここのリーダーと話したんだけど、今は軍の人と連絡が取れていない状況で、救助に来ると言っていた期日も過ぎているから、ほぼ100%軍側で何かが起こっていると思う。」
「なるほどね。じゃあ、救助は無理ってことは‥‥もうこっちに戻ってくる感じ?」
「いや、まだ戻れない。リーダーとある取り引きをしたんだ。」
「‥‥取り引き?」
「俺が軍の状況を確認しに行って、まだ軍がそこに残っていて救助出来る状態なら、そのまま待ってもらう。だけど、軍が壊滅していた場合は、俺の拠点へと移ってもらうという取り引きをしたんだ。」
「え?それってつまり‥‥ゾンビがたくさんいる場所に正人とリタちゃんだけで行くってこと?」
「そうなるな。」
「ダメだよ!!そんなの危なすぎるよ!!向こうの問題は向こうで解決するべきだよ。何で、わざわざ正人がリスクを背負うの?」
「祈の怒りも理解できる。だけど、ここでこの場所の人達を見殺しにしたら、例え、ゾンビ世界を何とかしたとしても生き残ってる人が俺達だけじゃあやっていけないだろ?どうやって数人で日本を‥‥世界を‥‥地球を復興して行くんだ?」
「それは‥‥そうだけど‥‥」
祈の言葉がそこで止まる。
「分かってるよ。正人の言ってることは間違ってないって。でも‥‥それでも、危ない場所に行ってほしくない。」
「祈‥‥」
「だって、もし――」
そこまで言い掛けて、祈は言葉を飲み込んだ。
「正人が死んだら元も子もないでしょ?」
「大丈夫だ。その為に色々と準備はしていくし、リタにも武器を渡すつもりだから‥‥準備は完璧にするつもりだ。だから、安心しろ。俺は――祈を残して死んだりしない。」
「‥‥本当に、帰ってくる?」
「あぁ、約束する。」
「――分かった。その言葉を信じるよ。」
その後は、たわいもない話をして時間を過ごすのだった。




