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お気に入り小説5

わたくしはカイラスと結婚します。貴方は子供は嫌なのでしょう? 自分を裏切った第二王子殿下と婚約解消しました。

作者: ユミヨシ
掲載日:2025/12/14

レイリリア・アルバトス公爵令嬢は、震えていた。


叔父がいきなり叫び出した。

大勢の人がいる前で。


場所は墓地。今まさに、レイリリアの父であるアルバトス公爵が埋葬されようとしていた。


叔父はレイリリアに向かって、


「お前の父、アルバトス公爵が亡くなった。わずか10歳のお前に爵位を継げるはずがない。

だから、私がアルバトス公爵になってやろう。お前なんぞ追い出してやる」


アルバトス公爵の弟、レッテル・ハリス伯爵がレイリリアに向かってそう叫んだ。

レッテルはハリス伯爵家に婿に入っており、レイリリアの父であるアルバトス公爵の弟だ。


馬車の事故でアルバトス公爵が亡くなった。

葬式の席に現れたレッテル・ハリス伯爵と、ハリス伯爵夫人、そして娘のアリアンヌ。

アリアンヌはにこやかに笑って、


「貴方の婚約者であるグラフィス第二王子殿下もわたくしが貰ってあげるわ。貴方みたいなお子様と結婚するより、わたくしの方がグラフィス様に相応しいわ」


悔しかった。アリアンヌは歳は17歳。グラフィス第二王子も17歳。同い年である。

レイリリア10歳に比べれば確かに婚約者にふさわしいであろう。


一年前に結ばれた婚約。


グラフィス第二王子は、レイリリアに対して丁寧に接してはくれる。婿に来るのだ。当然だろう。


しかし、内心ではどう思っているのか解らない。


金の髪に青い瞳のグラフィス第二王子は、レイリリアに取って素敵な婚約者だ。


「わたくしだって大きくなったら、グラフィス様にふさわしくなるわ」


そう思っていた。

父であるアルバトス公爵は笑って、


「そうだな。七歳離れている婚約だけれども数年経てば、お前も大人になる。

グラフィス第二王子殿下にふさわしくなるだろう。亡き妻に似てお前は美しいからな」


美しい?そばかすがあるけれども、一応、髪は金色だし、色は白いけど、美しいって顔じゃないわ。

でも、お父様は褒めてくれた。

とても可愛がってくれた。それが馬車の事故で亡くなるだなんて。


叔父一家の宣言に、レイリリアはどうしたらいいか解らない。

わずか10歳なのだ。


どうしよう。わたくしは追い出されてしまうの???



グラフィス第二王子がレイリリアの前に進み出た。

彼も参列していたのだ。


アリアンヌを抱き寄せて、レイリリアに向かって、


「私はアリアンヌと結婚する。そなたは家を出ていくがいい」


アリアンヌは豊満な胸をグラフィス第二王子に押し付けて、


「嬉しいわーー。グラフィス様」


「そもそも、私はガキであるレイリリアとの婚約に不満だったんだ。お前なら私にふさわしい」


「ええ、大人のわたくしなら貴方にふさわしいわ」


悔しい悔しい悔しい。ちょっとくらい胸があるからって。わたくしだってもうすぐ大きくなれば胸だってたわわに実るはずっ。

顔は確かにアリアンヌの方が美しいけれども、わたくしだって少しは美しくなるはずだわ。

ええ、絶対に美しくなるはず。

そもそも、わたくしが正統なアルバトス公爵家の跡継ぎなのに、追い出されるってどういう事???わたくしが跡継ぎなのにっ。

誰もわたくしの味方はいないのっ???


泣きたくなった。

自分は子供だ。まだ10歳の子供だ。


その時、アルバトス公爵家の執事であるゼルスが、レッテル・ハリス伯爵に声をかけた。


「レッテル様。旦那様はお嬢様を後継者と決めております。貴方は家を出た身。継承権はありません」


レッテルは怒りまくって、


「はぁ?私はアルバトス公爵家の息子だ。継ぐ権利はあるはずだ」


「継承権はレイリリア様にあります」


「だったらこのガキを殺せばいいだろう?」


「殺すだなんて物騒な。私は旦那様にレイリリア様の事をよろしくと頼まれております。お家乗っ取りとして、しかるべきところへ訴えさせて頂きます」


ゼルスはレイリリアの前に跪いて、


「レイリリア様。じぃは味方ですぞ。しっかりと継承権をお守り致しますから」


「ゼルスっ。頼もしいわ」


ゼルスは歳は50歳。頼りになる執事だ。

レイリリアの父、アルバトス公爵も執事をしているゼルスを頼りにしていた。


ゼルスはレイリリアを抱き上げて、


「アルバトス公爵家の継承権はレイリリア様にあります。もし、乗っ取りをたくらむようでしたら、しかるべきところへ訴えさせて頂きます」


グラフィス第二王子は焦ったように、


「私はアリアンヌと婚約を結びたいのだ。幾ら欲しい?このガキを追い出したら、お前にそれなりの礼をするぞ」


ゼルスは首を振って、


「買収ですかな。第二王子殿下が私を買収して、レイリリア様を追い出そうとしたことを王家にしっかりと訴えさせて頂きます」


「はぁ?父上、母上に訴えられたら困る。そこをなんとか黙っていてくれないか?このガキをともかく追い出してだな」


「変…辺境騎士団へ通報しましょうか?グラフィス第二王子殿下は顔だけはお美しいので、奴らは喜んで受け取りにくるでしょう」


「伝説だろ?そんな奴らいる訳がない」


「伝説かどうか確かめても良いと」


「ふん。伝説に決まっている。このガキを追い出すかどうか、よく考えておくことだな」


アリアンヌの腰を抱きながら、グラフィス第二王子はその場を去った。


叔父夫妻も背を向けて、その場を去って行った。


このまま黙って引き下がる叔父達ではない。

ゼルスはレイリリアを安心させるように、


「じぃがお守り致しますから。亡き旦那様や奥様の為にも。安心して下さい」


ゼルスが頼もしかった。


その日以来、夜会でグラフィス第二王子とアリアンヌは、アルバトス公爵家の正当な後継者は、アリアンヌの父、ハリス伯爵だと言いふらすようになった。

いずれ、アリアンヌに婿入りしたグラフィス第二王子がアルバトス公爵になるのだと。


それを人から聞いたレイリリアは悔しがった。

まだ10歳のレイリリアは夜会に出る事が出来ない。子供だから。

反論することが出来ないのだ。


貴族達は噂するだろう。

ハリス伯爵こそが次期アルバトス公爵になるのだと。


そんな事はないのに。レイリリアの正統性が疑われる。

このバル王国はそんな王国だった。


貴族達の噂は怖いのだ。


疑われたままでいる訳にはいかない。

ゼルスがレイリリアに、


「夜会に出るには早い歳ですけれども、夜会に出ましょう」


「ええ?わたくし、こんなに小さいし、ダンスは踊れないわ」


「まぁ何とかしますよ。私の甥のカイラスに頼みましょう」


カイラスはゼルスの妹の子で、ユテル伯爵家の次男だ。

長い金の髪を後ろに縛った緑の瞳のカイラスは、歳は25歳。いまだ独身だった。


「レイリリア様のダンスのお相手ですか?いいですよ。私なら婚約者もいませんし。変な噂もたたないでしょう」


レイリリアはこんな綺麗な人なのに、何でいまだに独身なんだろうと思った。

聞いてみた。


「どうしていまだに独身なの?」


カイラスは笑って、


「仕事が楽しいから。私は伯爵家の次男だし、どこぞへ婿に行きたいとも思わない。王宮で政治に関わっている方が楽しくて楽しくて。伯父上の頼みだから今回は仕方なく。いや、レイリリア様がお困りのようなので」


「でも、わたくしに味方したら、グラフィス第二王子殿下に睨まれるわ」


「それは大丈夫。デリウス王太子殿下に気に入られているから。第二王子に嫌われてもなんともないですよ」


にっこり笑うカイラス。この人、腹黒かもしれない。

ゼルスがカイラスに、


「レイリリア様を頼む。アルバトス公爵家の為にも」


「解っておりますよ。伯父上」


レイリリアはカイラスと共に夜会に出る事にした。


大人びた水色のドレスに髪飾りは白い細かい花がちりばめられたちょっと大人っぽいイメージの物にした。


カイラスも合わせて水色の洒落た服で、レイリリアをエスコートしてくれた。


カイラスは身長が高いので、レイリリアは見上げる形になる。


カイラスは顔が整っていてとても綺麗だ。

レイリリアはぽおっとしてしまった。

カイラスが微笑んで、


「レイリリア様。私の顔に何かついていますか?」


「綺麗だなって。カイラスはさぞかしモテるわよね?」


「それはもう、手紙も良く貰いますよ。まぁ、結婚する気はないんで」


「もったいないわ」


本当にもったいない。わたくしがもう少し大人だったらカイラスと結婚するところだわ。

歳が15歳年上なんですもの。もっと歳が近ければいいのに。


カイラスは手を差し出して、


「それではダンスを踊りましょうか」


「でも、わたくしは」


カイラスが抱き上げてくれた。


そしてクルクルと身体を回して、


「私がリードしますから」


周りの貴族達が、


「あれがレイリリア様?アルバトス公爵令嬢の?」


「なんて可愛らしい。一緒に踊っているのは、カイラス・ユテル伯爵令息?」


「あの、誰とも結婚したくないと言っている?もったいない美しさですわ」


夜会に来ていたグラフィス第二王子とアリアンヌ。

アリアンヌはレイリリアを睨みつけて、


「わたくし達だって負けてはいないわ。グラフィス様。踊りましょう」


「ああ、踊ろうか。アリアンヌ」


二人は華麗なダンスを踊る。

アリアンヌの深紅のドレスが美しく翻って、人々の目を引く。

グラフィス第二王子は漆黒の衣装だ。


見事なリードでアリアンヌとダンスを踊る。


そして、カイラスとレイリリアに近づくと、アリアンヌは思いっきりカイラスにぶつかろうとした。


カイラスは華麗に身を避けて、足をひょいと出し、アリアンヌを転ばせた。


「おっとお嬢さん。失礼。そちらがぶつかってこようとしたので、つい足が」


アリアンヌは叫んだ。


「生意気なのよ。貴方達は。わたくし達がこの夜会の主役よ」


グラフィス第二王子も、


「そうだ。お前達は隅の方で踊っていればいい。だいたい、10歳で夜会に出てくるな」


悔しかった。10歳で何が悪いの。貴方達はアルバトス公爵家を乗っ取ろうとしているのよ。

わたくしは夜会に出て、自分の存在をアピールしなければならない。そうさせているのは貴方達なのよ。

そう言いたかった。

涙が溢れる。上手く言葉にならない。


カイラスがレイリリアを抱き上げたまま、その顔を見つめて、


「レイリリア様。泣かないで下さい。私がお守りしますから」


「だって悔しくて悔しくて」


「レイリリア様の事は伯父上に言われていますから」


そう言うと、グラフィス第二王子とアリアンヌに向かって、


「貴方達がいくら正統性を訴えようと、アルバトス公爵家の正統な跡継ぎはレイリリア様です」


「レイリリアはガキだ。ガキが継げるものか」


グラフィス第二王子が叫べば、アリアンヌも、


「わたくしの父であるハリス伯爵に譲るといいわ。レイリリアみたいなお子様には無理だわ」


レイリリアはカイラスの腕から降りて床に立つと、二人を見上げた。

そしてはっきりと宣言した。


「貴方達に我がアルバトス公爵家は渡さないわ。わたくしが正統な継承者。それは変わらないはずよ」


アリアンヌが、


「でも、公爵位を継げる歳になるまで後、8年あるわ。その間、どうするのかしら?」


カイラスがレイリリアの手を取って、


「それなら、レイリリア様に年上の婚約者を。その婚約者殿が爵位を継げばいい」


グラフィス第二王子がせせら笑って、


「年上の婚約者?そんなのが都合よく、こんなガキと結婚したがるものか」


カイラスは馬鹿にしたように、笑って、


「アルバトス公爵位は魅力的ですから。婚約者を募れば、必ずレイリリア様と結婚したいという男性は出てくるはずですよ」


「爵位の為にガキと婚約?私は嫌だったぞ。ガキと婚約させられて」


「愚かな。それなら、レイリリア様」


カイラスが身を屈めて、


「私と婚約は如何です?歳は15歳離れていますけれども、数年経てば貴方も立派なレディだ。私が公爵になってアルバトス公爵家をお守り致しますから」


「確かに女性では爵位は継げないけれども、でも‥‥‥そんなに簡単にアルバトス公爵家を渡せない。貴方の事、わたくしよく知らないわ」


「でも、伯父上の事は良く知っているでしょう。伯父上がいいと言ったら、私と婚約を結んでくれますか」


ゼルスは頼りになる。お父様も頼りにしていたわ。

そのゼルスがいいと言ったら、わたくしはカイラスを信じる事が出来る。


わたくしみたいな子供にプロポーズしてくるだなんて、爵位目当てだろうけれども、それでもいい。


ハリス伯爵に、この二人にアルバトス公爵家を渡すのは嫌っ。

お父様が守って来たアルバトス公爵家。


「わたくしはカイラスと婚約します。貴方達にはアルバトス公爵家を渡さないわ」


グラフィス第二王子とアリアンヌは悔し気な顔をした。

カイラスにエスコートされて、レイリリアは堂々と夜会の会場を後にした。



ゼルスにカイラスと婚約を結ぶ事を相談したら、ゼルスは、


「甥は変わり者ですが、信用に足りる人物です。私は賛成ですよ」


「じぃがそう言ってくれるのなら」


グラフィス第二王子と婚約を解消した。

王家はグラフィスの行いを聞いて、婚約解消に応じた。


カイラスと正式な婚約を発表した。


カイラスは優しい。

時間を見つけてはアルバトス公爵家に顔を出して、レイリリアに色々な話をしてくれる。

テラスで膝に乗せて、一緒に落ち行く木の葉を見ながら、

「王宮勤めを辞めようと思っております。今、アルバトス公爵位は空位のままです。王国法ですぐにでもアルバトス公爵にならないとなりません。今回のような件で特別申請を出せば婚約者でも認められます。貴方との結婚は8年後になりますかね。この王国は18歳から認められておりますから」


「貴方は33歳になってしまうわ」


「結婚する気がなかったのですから、構いませんよ。アルバトス公爵としての生活は楽しそうだ」


「わたくしの事は好き?」


カイラスはにっこり笑って、


「好きですよ。もっと早く大人になって下さいよ。ちゃんと婚約者として、後に妻として扱いますから。まだキスとか早いですかね」


「キスしてキスして」


「駄目ですよ。今は額にキス位ですか」


ちゅっと額にキスをしてくれた。

早く大人になりたい。レイリリアはそう思った。


そんなとある日、グラフィス第二王子が訪ねてきた。


「レイリリア。お前と婚約してやる」


レイリリアは驚いた。

「貴方との婚約は解消されて、わたくしはカイラスと婚約を結んでおります」


「アリアンヌと結婚しても、公爵になれない。お前と再び婚約して私がアルバトス公爵になる。第二王子たる私にふさわしい地位だ」


「お断りします」


「第二王子たる私の方がアルバトス公爵にふさわしい」


「わたくしはカイラスと結婚します。貴方は子供は嫌なのでしょう。わたくしも貴方の事は嫌です」


カイラスが静かに部屋に入って来て、


「王太子殿下に訴えますよ。グラフィス様が無茶な事を言ってきているってね」


「兄上に言われると困るっ」


「それとも、屑の美男をさらう変…辺境騎士団へ行きますか?」


不機嫌になって、グラフィス第二王子は帰って行った。


後に、グラフィス第二王子は、何をやらかすか解らないということで離宮に入れられた。

離宮に怪しげな連中が忍び込んで、グラフィス第二王子をさらっていったとか。

どうも変…辺境騎士団が動いたらしい。


ハリス伯爵は自分が正統なアルバトス公爵になる権利があるとか言っていたが、カイラスがレイリリアと婚約をして、特別に申請をし、王国法で正式にアルバトス公爵と王家に認められた為、黙り込むしかなかった。


ハリス伯爵は事業が失敗して莫大な借金を背負った。

夜逃げしようとしたが、捕まって、奴隷落ちをした。妻と娘は娼館に売られた。

三人は地獄を味わっていることだろう。


レイリリアは幸せだ。


愛するカイラスに大事にされて、愛されて。

早く大人になりたい。きっとそうしたら、もっと愛して貰える。


レイリリアは希望に胸を膨らませるのであった。







アルバトス公爵が馬車の事故で亡くなったと聞いた時、真っ先に浮かんだのが殺されたという事だ。


そして殺した相手はアルバトス公爵位を狙う相手。


雨の降る中、アルバトス公爵の入った棺が運ばれていく。

伯父上の傍で泣いている小さな少女。レイリリア様だ。


ああ、日に日に似てくる、レイリリア様の母上に。


レイリリア様の母であるリリーナ様はそれはもう大輪の花のように美しかった。

王宮でプロポーズする男性が絶えなかった位に、妖艶で微笑めば、誰もが虜になる。

リリーナ・べセル公爵令嬢。


カイラスが10歳の時に初めてその令嬢を見かけた。

王宮で王妃様が開く茶会に出席していたリリーナ。

花がほころぶように笑って、周りの令嬢達さえも虜にして。


思わずふらふらと傍に近づいてしまった。


「あら、どこの子供かしら?いらっしゃい。お菓子でも食べる?」


そう言って、綺麗な白い手で茶会のお菓子をくれた。

美しいリリーナ。20歳の彼女はすでに婚約者がいて、レイド・アルバトス公爵令息がその婚約者で。


お似合いの二人。


婚約者がいるのにも関わらず、夜会に出ればリリーナは色々な男性から声をかけられる。

あまりにも華やかで美しい花だから。


でも、レイド・アルバトス公爵令息はとてもリリーナを愛していて。

大切にしていると、当時から公爵家の執事をしていた伯父のゼルスから聞いていた。


リリーナの事が忘れられない。


たった一度、菓子を貰っただけのリリーナ。

それがカイラスの初恋だった。


リリーナがレイドと結婚した。


幸せそうだと伯父から聞かされた。

結婚と同時にレイドはアルバトス公爵位を継いでアルバトス公爵になった。


あの美しい人は幸せなんだと、子供心に思った。

リリーナに会いたい。あの美しい人を見たい。


伯父に会いに行く口実で、アルバトス公爵家を訪ねた。

リリーナはふっくらとしたお腹を幸せそうに撫でながら、レイドと一緒に庭を散歩していた。


ああ、子供が生まれるんだ。

あの人は幸せなんだ。


何だか心が温かくなった。

どうか、ずっと幸せでいて欲しい。


ずっとずっとずっと、ずっと幸せでいて欲しい。


そう思っていたのに。


リリーナは亡くなった。

子供を産む時に命を落としたのだ。


赤子の為に命を落とすなんて、あの美しい人が命を落とすなんて。

絶望した。


カイラスは再び公爵家に行った。

庭を見たら、ゆりかごを揺らしながら、レイド・アルバトス公爵が泣いていた。

赤子がすやすやと眠っている。


涙を流すアルバトス公爵。


あの赤子のせいでリリーナが命を落としたのだ。


でも、赤子が目を覚まして笑った。

その赤子を抱き上げて、アルバトス公爵は愛しそうに抱き締めたのだ。


「レイリリア。お前の為に私は命をかけよう。愛しい娘レイリリア」


そうつぶやく公爵の声をカイラスは聞いて、そして思った。


あの赤子のせいでリリーナが死んだんだ。

あの赤子のせいで、リリーナがリリーナがリリーナが。


あの赤子が憎い。

私はリリーナの傍にいることが出来なかった。

あの白い手で菓子を貰った時は子供だった。


私は私は私はリリーナっーーーーー。

私は菓子を貰っただけの、他人だ。


なんて悔しい。なんて悲しい。なんてなんてなんて。

私はアルバトス公爵になりたかった。レイドになりたかった。リリーナの傍にいたかった。

あの白い手のリリーナを抱き締めて、ベッドで押し倒して、一番傍にいて。

赤子が生まれてもリリーナが生きて、夫として一番傍にいたかった。


リリーナはいない。赤子がリリーナを殺した。

それでも、レイド・アルバトス公爵は赤子が愛しいという。


庭にふらふらと出てきたカイラスにレイドが声をかけてきた。


「ああ、ゼルスの甥のカイラスだね?何の用だ?」


「この赤子がリリーナを殺した。貴方は悔しくないのですか?憎くないのですか?」


レイドはカイラスを抱き締めてくれた。


「君もリリーナを好きだったんだね。リリーナは魅力的だったから。

私にとってレイリリアは娘だ。大事な娘だ。きっとリリーナはレイリリアを産んで亡くなった事を後悔していないと思う。子が産まれる事を楽しみにしていた。毎日お腹を撫でて楽しみにしていたんだ。誰よりもレイリリアを愛していた。レイリリアという名をつけたのはリリーナだ。女の子ならレイリリアがいいと言って」


レイリリアが笑った。

こちらを見て笑った。


泣きながらレイリリアの小さな手を握り締めた。


カイラスはレイリリアを一生、守っていこうと決めた。



かといって、レイリリア・アルバトス公爵令嬢は名門公爵家の令嬢だ。15歳年上の自分が婚約者になるわけにも結婚する訳にもいかない。

伯父に頼んで、いずれアルバトス公爵家の執事になろうと思った。

伯父も歳だ。いずれ引退する日もくるだろう。アルバトス公爵が再婚しない限りはレイリリアは一人娘だ。

レイリリアの元で働きたい。

あの人が命をかけて産んだレイリリアを守りたい。


カイラスはそう思った。

その為にはまず、王宮に勤めて色々と学んでから、伯父の下で働く事にした。

王立学園を卒業後、王宮にカイラスは勤めた。

父や母は、しかるべき家に婿入りをと勧めてきたが、がんとして断った。

レイリリアの為に一生を捧げるつもりで、王宮で色々と勉強した。


レイリリアは第二王子グラフィスと9歳の時に婚約を結んだ。

アルバトス公爵家程の名門なら当然の縁だ。

レイリリアの為に自分を磨こう。決意を新たにした。


そんな中、カイラスが25歳の時、事件が起こったのだ。

アルバトス公爵であるレイドが馬車の事故で急死した。


葬儀の時の様子を伯父のゼルスから聞いたカイラス。


カイラスは思った。


レイドの弟のレッテル・ハリス伯爵が殺したのではないかと。

彼と兄レイドとの仲は悪かった。

ことあるごとに衝突していた。


葬儀にあのハリス伯爵家の家族が揃って、レイリリアの公爵位を継ぐことを反対してきたのだ。


レイリリアの婚約者、グラフィス第二王子まで。

王族だからといって、アルバトス公爵家に婿入りをごり押ししてきた王家。

アルバトス公爵はそれを受け入れた。


グラフィス第二王子なら、王族なのでレイリリア様にふさわしい。

王族の婿が来るのはアルバトス公爵家にとって当然だと思っていたのに。


それがいきなり、ハリス伯爵家のアリアンヌに鞍替えしたのだ。


レイリリア様を幸せにするのではなかったのか?

レイリリア様を泣かせる奴は許せない。

それならば一層の事、自分が‥‥‥


伯父に頼んで、レイリリアに近づいて、そして婚約者になった。


レイリリアを近くで守れる。

歳は離れているけれども、私は誰よりもレイリリアの事が好きだ。


だからレイリリアを苦しめた奴らを許してはおかない。


変…辺境騎士団へ通報した。

王家としても、グラフィス第二王子の愚かさに呆れていて、離宮に閉じ込めたので。

変…辺境騎士団で苦しむがいい。


ハリス伯爵家の事業が失敗するように仕向けた。

彼らの夜逃げを阻止して、地獄に落とした。

ハリス伯爵は奴隷に。伯爵夫人とアリアンヌは娼館に。


苦しめ苦しめ苦しめ。


アルバトス公爵を殺した罪は許されない。

レイリリア様から父を奪ったのだ。


だから、私がお前達を地獄に落としてやろう。



私の手は血に染まっている。

ああ、リリーナ。リリーナ。リリーナ。

貴方は喜んでいるだろうか?

貴方が命と引き換えに産んだレイリリアを私は守った。伯父上と共に。


うんと褒めてくれますか?


私はレイリリアを幸せにします。


この命をかけて一生。どうか、あの世から見守って下さい。リリーナ様。








レイリリアが18歳になった歳に二人は結婚した。


ゼルスは結婚式の時に男泣きに泣いた。嬉しかったのだろう。

それを見て、レイリリアもカイラスも、ゼルスに抱き着いて喜びを分かち合った。

ゼルスのお陰で今日があるのだから。



ゼルスの助けを借りて、カイラスとレイリリアはアルバトス公爵家をさらに発展させた。

その後、3人の子を儲けて、仲睦まじく暮らしたと言われている。




カイラス、愛しているわ。


一生、君を守るよ。レイリリア。





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― 新着の感想 ―
〇境騎士団「フハハ、こんなこともあろうかと、抜け穴を掘っておいたのさっ!」「別の物も掘るがな!」
自分が幼いから相手にされてない、というコンプレックスがあるレイリリア嬢は、母親の身代わりと感じたら傷つくだろうな。 カイラス様、リリーナ様に守ると誓うんじゃなくて、何よりもレイリリア自身を守ると誓って…
誤字報告です。 >リリーナ・アルバトス公爵令嬢 レイリリアの母はアルバトス公爵令嬢じゃないですよね。 父と父の弟がアルバトス公爵家の人間なのですし。
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