はじまりの姿
リュウの絶叫が、倉庫に響く。
「うわぁぁぁぁ!!!」
光が爆発し、アルナは目を細めて見つめた。やった、これで昔の正義のヒーロー、リュウが戻るはず……!
光が収まり、アルナの視界に映ったのは、全裸のリュウだった。チャイナドレスはどこかに吹き飛び、白鳥の頭も跡形もなく消えていた。リュウは素っ裸で立っている。股間を片手で隠し、困惑の表情。
アルナの顔が、一瞬で真っ赤に染まった。彼女は慌てて目を覆い、悲鳴を上げる。
「きゃっ! ちょっと! 早く服着なさいよ!」
リュウはキョロキョロと周りを見回す。白鳥の頭がない股間が、妙に寂しげだ。
「……僕のチャイナドレスは何処だ?」
アルナは顔を赤らめたまま、指を差す。ドレスは埃まみれで転がっていた。
「あ、あの...そこに落ちてるわよ...早く着て!」
リュウは素直にドレスを拾い、着込もうとする。だが、変身の余波か、裾が絡まって転びそうになる。アルナは目を覆ったまま、指の隙間からひっそりとその様子を確認する。よくわからない思いが込み上げてくるのを必死に堪える。
「...着たか? もう大丈夫?」
リュウはチャイナドレスを整え、股間を確かめる。白鳥の頭が復活し、クックーと挨拶のように鳴く。
「よし、完璧だ。次はスワンキックで悪を倒すぜ!」
アルナはため息をつき、立ち上がる。だが、心のどこかで、幼馴染のこのアホらしさが、懐かしい。
「もう...また変な変身しちゃったのね。でも、次こそ本気で捕まえるわよ!」
リュウはニヤリと笑い、白鳥の頭を撫でる。
「来いよ、アルナ。チャイナスワンの正義、見せてやる!」
二人は再び対峙し、アルナがアイテムを構える。光が爆発し、リュウが全裸に……そして、ドレス探しが始まる。倉庫の外では、街のネオンが無情に輝き続ける。
このやり取りは、もう4時間。20回ほど繰り返されていた。アルナの変身アイテムは、リュウの心を取り戻すどころか、毎回チャイナドレスを吹き飛ばすだけの失敗を繰り返す。
白鳥の頭は、毎回クックーと抗議し、リュウは毎回「僕のチャイナドレスは何処だ?」と呟く。
アルナは疲れ果て、顔を赤らめながらも、なぜか止められない。幼馴染の絆か、それともこのアホなループの魅力か。
結局、夜が明ける頃、二人は倉庫の床に座り込み、息を切らしていた。リュウの股間から白鳥がのんびり羽を休め、アルナはアイテムをポケットにしまう。
「...もう、今日はこの辺でいいわ。明日また来るからね。」
リュウはチャイナドレスを直し、肩をすくめる。
「待ってるぜ。次こそはチャイナスワンの正義を見せてやる!」
アルナは苦笑し、立ち去る。心の中で思う――このバカげた戦いが、意外と正義のヒーロー生活のハイライトかも……。
街の朝焼けが、二人のシュールな影を長く伸ばした。
悪の組織? そんなの、チャイナスワンの前ではただのコスプレ大会だ。