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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第14話 メイト、愛を知る(前)

「メイト君、しばらく身を潜めよう。君にはまだ、モンスター寄せの効果が残っているからね」


 ラブ様に連れられ山岳の横穴に滑り込みながら、メイトの思考はぐちゃぐちゃに乱れていく。

 頭の中から、おじさんのメッセージが離れない。


 私が、弱点。

 私のせいで、ラブ様にご迷惑を。

 ……全く考えなかった訳ではない。

 ラブ様の応援という立場を取る以上、戦闘の邪魔になるようなことはあってはならない。メイトに限らずラブ様も十分理解していて、お互い理解の上で動いていた。なのに……。




 ラブ様とともに足を運んだ横穴は、蟻の巣のように入り組んだ構図になっていた。

 出口のない迷路のような光景に、メイトはつい自分のごちゃついた思考を重ね、ぎゅっと唇を噛む。

 その背を支えるように、ラブ様が手を差し伸べてくれる。


「気に病むことはない、メイト君。きみを連れてきた時点でボクの責任でもあるし、仕込みを見抜けなかったのもボクの落ち度さ。……とはいえ、ボクも久しく忘れていたね。対人戦というやつを」

「……人と、モンスターでは、違うんですか?」

「モンスターは強力だが、しょせんは怪物だ。現実でも巨大なクマは恐ろしいが、計画殺人を起こす人間のほうが怖いだろう? そういうことさ。……これは、場合によってはギブアップも考えないとね」


 ギブアップ。降参。メイトは戦っているのが自分ではないにも関わらず、ぶわりと全身が熱を帯びるのを感じる。

 ……分かっている。自分に口を出す権利はない。

 頭では分かっている、けど、それでも……。


 嫌だった。

 自分が足を引っ張った、ラブ様が負けてしまうなんて、絶対に。


「ラブ様。まだ負けた訳ではありませんし、ブックチャットも手放しました。相手の策はもう……」

「気持ちは分かるけど、相手にまだ策があるかもしれない。……それに、こういう手を使ってくるなら、あのおじさんは”生き残り”かもしれないね」

「……生き残り、とは?」


 迷宮の奥地、行き止まりに辿り着いたところで、ラブ様が地面に白い石を設置した。

 石を中心に光のドームが広がり、メイト達を包む。結界石と呼ばれる、モンスター除けのアイテムだ。


 ふぅ、と手近な石に腰掛けると、ラブ様が水筒を渡してくれた。

 ……全力で走ったせいで、息切れしている。知らないうちに、酷く緊張していたらしい。


 今になって心臓がバクバクするメイトに、ラブ様がふふっと笑った。


「世界にダンジョンが出来た、黎明期……まだ、ダンジョンに関する法整備が整う前の話だ。……ダンジョンの有用性にいち早く気づいた企業、あるいは探索者個人が、こぞってダンジョンに挑んだ。世は大ダンジョン時代。漫画風に言うなら、財宝が欲しけりゃくれてやる、探せ! と言わんばかりの時代があったのさ」


 歴史の授業で聞いたことがある。当時はまだダンジョンに対する規制もゆるく、法整備も遅れており、政府は立入注意を促すものの本格的な規制はまだ行われていなかった。

 ルール無用のダンジョン時代だ。


「当然、良質なダンジョンには人が殺到する。今でこそダンジョンは政府が管理し、探索権限を各クランが入札して購入する形になっているけど、昔はあちこちで領土争いが起きたものさ。それこそ、ヤクザまがいのバチバチな対人戦もね。……すると、中には対人がやたら上手い探索者も出てくる」


 ラブ様が金髪をかきあげ、厄介だねえと眉を曇らせる。……こんな表情をするラブ様は、見たことがない。


「相手は、対人戦に慣れてる古のゲリラおじさんの生き残り――かもしれない」

「それは……でも、魔力はラブ様の方が圧倒的に……」

「純粋な魔力総量でいうなら、若い世代のほうが圧倒的に高い。対モンスターにおいて火力を出せるのは間違いなく若者だし、スキル火力もインベントリ容量でも有利だ。けど、あの手合いはステータスだけじゃ測れない厄介さがあってね。それにボクも含めて、若い子は対人経験が薄い」

「っ……それでもまだ、負けたわけでは……!」

「もちろん負けるつもりはない。ないが……」


 ラブ様が眉を顰め、手元の鞄から飴玉のようなものを口に頬張った。魔力回復用の飴だ。

 まだ魔力切れは起こしてないはず……と思ったけど、早めに回復したいのだろう。それくらい、厄介な相手ということか?


 そんなにか、と警戒した瞬間、キィン……と。

 横穴内に、甲高い嫌な音が響いた。

 耳鳴りがした時の、キーンと響くような音だ。


「モンスター寄せの音。相手はこっちに、モンスターをけしかけて時間を稼ぐつもりらしい」

「ですが、本ダンジョンにコカトリスより強いモンスターはいません。C級程度であれば、ラブ様なら……」

「もちろん勝てる。しかしボクの懸念は、相手がメイト君への攻撃を行う、その容赦のなさにあるのさ。建前上はモンスターが勝手に襲ってきた、だから、君に攻撃を仕掛けてるわけではないだろうけれど」

「っ……」


 ようやく、メイトはいま何が起きているかを理解する。


 ……そうか。ラブ様が、ギブアップを検討した理由は……。


「……私が……怪我をする可能性があるから、ですか?」

「まあ、ね。手も本気じゃないけれど」

「え……?」

「本気を出したら、あの手合いはもっと人道に反する戦術も取るだろうね。例えばモンスターに爆弾をくくりつけて突撃させるとか。現在ボクらは洞窟の奥に身を潜めているだろう? 本気を出されたら、煙と炎で燻して、美味しいあぶり焼きターキー二人前の出来上がり、なんてことも可能だろう」

「…………」

「だからこれは、相手からのメッセージ。言外に、この程度で許してやるから降参しろ、という……ね」


 汗をぬぐい、さてどうしたものかと口にするラブ様の前に、のっそりと巨大ミミズ型モンスターが顔を覗かせる。

 先程ラブ様が貼った結界に阻まれ、モンスターは近づけないようだけど……膠着状態が続けば、オジマさんが次の罠を仕掛ける可能性もある。


 そもそも今、メイト達は山岳の中腹に陣取ってしまった。

 コカトリスの巣からは大分遠く、今ごろ、おじさんがせっせと卵を集めてるだろう……。


「っ……」


 メイトは力いっぱい、拳を握りしめる。

 頭では分かっているつもりだった。応援した程度で、ラブ様の役には立たないと。

 それでも迷惑にだけはならないよう心がけてきたし、今までも荷物持ちや話し相手程度の役目は果たしてきたつもりだったけれど――


 じわり、と、我慢しようと思った涙が零れてしまう。


 ……どうして私には、才能がないのだろう?

 魔力とかいう目に見えない、しかも、努力だけでは覆しがたい要素に阻まれ、ラブ様の足を引っ張っている。

 目の前に憧れの人がいて、なのに結局なにもできない自分が、歯がゆくて仕方がない。


「……どうして、私はっ……!」


 これが漫画だったらメイトの真の力がいきなり目覚め、ラブ様を助けられるはずなのに。……現実はただ、ラブ様におんぶに抱っこのお姫様。

 おじさんの言葉が、蘇る。

 ――若者よ、夢を諦めろ。なりたいものを夢見るのはいいが、時には現実に合わせることも必要だ。


 役立たずのメイト。応援しかできない、無力なメイト。

 どうして。どうして。

 本当にどうして、自分はこんなにも情けなく、他人に頼るしか出来ないのだろう。


「っ……!」


 再び零れそうになる涙を払い、メイトは奥歯を噛みしめる。

 自分が泣いて、どうする。本当に泣きたいのは、ラブ様の方なのに。

 ……私は、戦ってすらいないのに!


 堪えろ、甘えるなと自分を奮い立たせ、逆転の手はないかと鞄を探る。もちろん何も出てこない。

 本当に現実というヤツは、どこまでも非情なのか。

 悔しくて悔しくてたまらず、思わず唇を噛みしめるしか出来ない。そんな、メイトの身体を――


 不意に、優しい熱が包み込んだ。


「まったく。君は本当に、不器用な子だね。そんな姿を見せられたら、思わず愛でたくなってしまうじゃないか」


 ……え? と顔を上げれば。

 ラブ様がいつの間にか、彼女を抱き留めるように両腕を伸ばし、自分の身体を包むように――ぎゅっと、優しく抱きしめてくれていた。


「気に病むことはない、と、言葉だけで伝えるのは難しいからね。愛を示すには、こうするしかないだろう?」


 ……ラブ様?


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