表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/34

第13話 メイト、おじさんの罠にはまる


 メイトは頭の中で色々と考えてみたものの、彼女に出来ることは何もない。

 先日と同じく登山道を進み、ラブ様がコカトリスを探して撃破し卵を見つけるだけだ。


 メイトはラブ様の後に続き、山道を進む。先日頂いた湿布を太ももに貼り付け、準備は万全だ。もちろん、彼女の邪魔になるようなことはしない。メイトにとって、ラブ様の邪魔になるのは一番あってはならないことだ。


 そうして二十分ほど黙々と、山登りを続けた頃。ふと、ラブさんが思い出したように呟いた。


「しかし、今回はボクも君に、申し訳ないことをしてしまったかもね。……実は、オジマさんに相談を持ちかけたのはボクなんだ。その際、君の事情を一部勝手に明かしてしまった」

「いえ。ラブ様のお心遣いであれば、私はなんでも受け入れますので」


 胸に手を当て応えるものの、ラブ様の心配はメイト自身も考えていたこと。

 いつか、向き合わなければならない問題だった。……けど、メイト個人として彼女にまだ恩返ししてないし、できる目処も立っていない。

 何か、方法があれば良いのだけど……。


「メイト君。勝負の結果はともあれ、今回の件はボクと君の今後について考える機会になるだろう。……まあ、負けるつもりはないけどね。何せボクは世界を愛する、愛と美の吟遊詩人。無様な敗北を見せようものなら、ファンである君に申し訳が立たないだろう?」

「それでこそラブ様です。ラブ様の愛は全てに勝ります」

「その通り! では、今日もまたダンジョンで愛を語るとしよう! ボクの美しさに見惚れるがいい!」


 あっはっはと自慢げに笑い、風を切って進むラブ様。

 その威風堂々とした姿こそ彼女のあるべき姿だ。考え事るのは後でいい。今はラブ様に付き従い、前へ進むのみ――と、山道の中腹まで足を進める。


 そろそろ前回、コブラが現れた所だけど……ん?


「おや? 猛毒コブラがいないね。ボクの経験則だと、大体同じ所にモンスターがいるものだけど」


 ダンジョンに出現するモンスターは、一定期間ごとに再出現する。

 実は、コカトリスの卵も卵の形状こそしているものの、実際に卵から孵化して魔物が育つわけではなく、新しいコカトリスがぽん! と出現する説が定番だ。

 なので、前に同じモンスターが居たところには、大体同じのがいるのだけど――


 訝しむメイトの前で、ラブ様がすらりと細剣を引き抜いた。


「来るね。メイト君は下がりたまえ」


 英雄の言葉に遅れて、坂の上からのっそりと赤いトサカを揺らしながら現れたのは、大型犬を一回り大きくしたコカトリス。

 前回よりお早い登場で……え?


「なんだと?」


 と思ったら、その後ろからもう一匹、コカトリス。

 ……さらに続けてもう一匹、コカトリス。

 三匹ぞろぞろと列を成し、クエエエ、クエエエ! と叫び声をあげながら現れたのだ。


 三つのトサカと六つの瞳がぎょろぎょろと見回し、臭いを嗅ぐようにくんくんと鼻や嘴を持ち上げている。

 後方の蛇頭も妙に興奮し、チロチロと赤い舌を出しながらぞろぞろと気持ち悪く首を動かしている。


 ……何かを、探している?


「珍しいこともあるものだね。もしや今回は、近くに大きな巣ができたのかな」

「ラブ様、三匹同時ですが大丈夫ですか」

「全く問題ないけれど、不自然だとは思うね。まあ、何はともあれ倒すのみさ!」


 ふ、とラブ様が笑みを濃くし、細剣に炎を灯す。

 武器への属性付与と同時に、蛇頭を惹き付ける囮とするためだ。さらに”残像・B”スキルを発動し、ラブ様の幻影を出現させ敵のヘイトを集めていく。

 ラブ様は元々カウンター気質の戦い方を好む。敵の攻めを華麗に捌いて舞う、その輝きを今日も存分にお披露目してくれるに違いない。


「来たまえ! ボクの愛は無限大さ、一匹であろうと三匹であろうと美しく舞い続けようじゃないか! さあ、今日も楽しく……」


 ラブ様が愛を語る、その前で。


『ク、ク、クエエエエエ――ッ!!』

『クエ、クエエッ、クエエエエッ!?!?』


 コカトリスの大合唱が始まった。……え。な、何?

 興奮するようにコカトリスの群れが足をジタバタさせ、トサカをぶるぶる震わせながら翼を広げる。まるで、クジャクが翼を広げ、求愛行動を取るかのように。


 ……何か、ヘンね。興奮してる?

 連中はまるで雌鳥のフェロモンを嗅いだかのように翼をばたつかせ、首をぐりんと回し。


 遠目で見学するメイトと、視線が合った。


「「え?」」


 ラブ様の残像にも、炎の細剣にすら目もくれず、じろり、とメイトを睨む三匹のコカトリス。

 嫌な予感を覚えた直後、連中はガリガリと太いかぎ爪で地を蹴り――


 勢いよく、ダチョウの群れの如く突撃してきた!


「え、えええっ!?」

「メイト君!? これは一体……”ハヤブサ斬り・B”!」


 ラブ様がすかさずメイトの真正面に割り込み、


「”演舞剣・B!”」


 舞うように踊りながら、幾重にも振り下ろされる刃を放つ。

 自身を中心とした、球範囲の全体攻撃。

 迫るコカトリスの集団に魔力の刃が振り下ろされ、その翼を、ご自慢のトサカを斬りつけていく。


 演舞剣は範囲こそ広いが火力はさして伸びないスキルだ。

 それでも、連続でダメージを受けたコカトリス達は当然、ラブ様の方に――


『クエエエエ――――――ッ!』


 向かない。暴走は止まらない。

 三匹のコカトリスはラブ様に見向きもせず、メイト目がけて突っ込んでくる。

 尾で揺れる蛇頭すら、シャアア、とうなり声をあげメイトを睨む有様。

 蛇の口がぷくりと膨れ上がる。まずい。毒液噴射の構えだ。でもおかしい、モンスターは基本的に近くの相手から攻撃するし、ラブ様はヘイトを惹き付けるスキルを幾つも使っているのに……!


「ど、どうしてっ……!」


 鞄に手を突っ込み、メイトは特性のボールアイテムを掴む。堅いものにぶつけることで魔物の嫌う臭いを発生させ、敵を足止めするアイテムだ。

 地面に叩きつけた瞬間、ぼふんと灰色の煙が一面に吹き出す。その様を確かに見届け、メイトはさらに下がるが――


 コカトリスは煙すら無視してなお、こちらを追う。

 まずい、と全身に震えが走る。

 石化ブレス以前に体当たりで吹っ飛ばされる。メイトの体重では一撃でアウトだ。


 でもどうして、何でこんなことに。

 メイトだって馬鹿じゃない。日頃から獣除けの香水を初めとした、モンスターのヘイトを受けない装備で固めている。自分が狙われたら、ラブ様の迷惑になるのは分かりきっているのだ。安全には人一倍注意していた。なのに。

 こんなこと今まで一度も無かったのに、どうして、なんで……っ!




「メイト君、ブックチャットだ! ブックチャットを捨てろ!」

「……え?」


 意味が分からず、それでも、メイトは反射的に鞄に手を突っ込んだ。

 おじさんから預かったブックチャットを放り捨てた瞬間、ぼふん、とページの底より緑の煙が吹き出しもうもうと辺りに立ちこめていく。


 って、なにこれ!


 クエエエ! と暴走したコカトリス達が勢いよくブックチャットに群がり、嘴でドスドスとつついていく。

 灰色の石化ブレスが周囲にまき散らされ、餌を啄むように三匹のコカトリスが本をガリガリと蹴飛ばし翼を広げての大暴れだ。

 そこで気づいた。


「まさか……!」




 ――未来ある若者を傷つけるのは本意ではありません。

 ――メイトさんの身の安全はラブさんにとっても最優先でしょうから。




 なんて口にしておきながら、あのおじさん……っ!


「っ……なんてことしてくれるんですか! 信じらんない! あり得ない、あり得ない、卑怯、卑怯よぉぉぉっ!」

「怒るのは分かるがまずは避難だ、メイト君! 君にはまだ魔物寄せの粉がついている。下手したら他のモンスターも巻き込んでのお祭りだ!」

「でもそれは絶対やったら駄目なヤツでしょおおおおっ!」


 悲鳴をあげるメイトがラブ様に引きずられ、山岳中腹の洞窟へと連れ込まれていく。

 あとで顔を合わせたら絶対に張り倒してやる! と悔し涙を浮かべながら、メイトはラブ様に続いて全力で逃げ出した。


*


 そうして山岳の洞窟に身を隠したところで、メイトは我慢できず、ラブ様のブックチャットをお借りしおじさんに文句を書き殴った。


『卑怯者! 私を囮にするなんて、ずるにも程がある! あなた約束したでしょう、ラブ様には罠を仕掛けないって』

『失敬な。おじさんは約束は守っているよ? ラブさん本人には何も仕掛けてないだろう? それに君を襲ったのはコカトリスで、おじさんは直接手を出していない』


 それは、っ……そうだけど!


『言葉のあやってもんでしょう!?』

『否定はしないね。けど、おじさんの戦術は極めて真っ当なものさ。……相手の弱点を突くのは、勝負の基本だろう?』

『っ……弱点、って』

『メイトさんは、対戦ゲームで遊んだことあるかな。対人戦の基本は、相手の弱いところを突くことさ。バレーで一人だけ下手な人がいたら、誰だってそこにサーブを集中させるだろう? おじさんも同じことをしただけさ。……そう。君という最大の弱点を、狙い撃ちにしただけの話』


 その言葉に――メイトの胸が、ずきん、と痛んだ。

 ……私が、弱点?



『人の価値というのは決して、プラスだけではない。そこに存在するだけで、マイナスになる時もあるのさ。……いい勉強になるだろう?』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ