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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第12話 メイト、勝負の相談をする(後)

 オジマさんが姿をみせ、メイト達は改めて彼と勝負のルールについて打ち合わせることになった。

 まずは今回の話に至った経緯の説明だ。オジマさんが会釈をする。


「ラブさん、今回は突然のお願いをしてしまい、申し訳ありませんでした。メイトさんとの会話の中で、そのような流れになってしまって」

「構わないよ。たまにはこういう催しも楽しいものだ! まあ正直にいうと、ボクはこの勝負を通じてメイト君の何が明らかになるのかさっぱり理解していない。でも、オジマさんの試みに乗ってみるのも悪くない」

「そこは後ほど。彼女にとって良いきっかけになれば、と考えております」


 おじさんが礼儀正しく……ちょっとやり過ぎなくらいペコペコと頭を下げる。

 本当に、うだつの上がらないサラリーマンって感じだけど……


 対するラブ様はにこりと笑いつつも、瞳は真剣そのものだ。

 ……本気になったラブ様に勝てる人なんて、本当に、探索者業界でも一握りのはず――


「とはいえ、ボクは負けるつもりはない。メイト君の前で恥ずかしい格好は出来ないからね。申し訳ないが、全力で行かせてもらおう!」

「ええ。そうして頂ける方が、メイトさんの学びにもなるでしょう。……それでも勝っちゃうのが、おじさんですけれど」


 そのとき――不意に。

 おじさんが、にちゃあ……と不敵に笑った。


「っ……」


 ざわ、とメイトの背筋に寒気が走る。何、いまの悪寒。

 ……分からない。うまく言葉にならない。

 けど、どうしてだろう……決して敵に回してはいけないものを、敵に回してしまったような……


「ところで、ラブさん。勝負の前にひとつご相談がありまして。宜しいでしょうか?」

「構わないよ。ルールの確認かい?」

「その前に、今回の勝負で一番大切なことです」


 そこでふと、オジマさんがメイトの前に足を運び、視線を合わせるように膝を折った。

 ……私?


「メイトさんは“ブックチャット”はご存じですか」

「ダンジョン内でラブ様と会話ができる、奇跡のアイテムですよね」


 ダンジョン内では魔力の影響により電子機器が使えない。代わりに、パーティ内で会話をするのに使うアイテムがある。それが、ブックチャットと呼ばれる本だ。

 空ページに筆記すると相手にも同じ文章が伝わる、一般的なアイテムだが……それが?


「今回、我々は命のやり取りをする訳ではありません。なので、勝負の途中でどちらかが危険な目にあった場合、すぐさま勝負を中止し助けにいく必要があります。ですので念のため、メイトさんにも連絡手段を持たせておこうかなと」

「ラブ様がいれば、大丈夫だと思いますが……」

「それでも、未来ある若者を傷つけるのは本意ではありません。メイトさんの身の安全はラブさんにとっても最優先でしょうから」


 視線を流すと、ラブ様が頷いていた。

 メイトはブックチャットを受け取り、鞄を取り出す。


 それを見届けたおじさんが、さて、と手を叩いた。


「ではルールを簡単に。制限時間はダンジョンに入って三時間。その間に、コカトリスの卵をより多く入手し、ダンジョンを出たほうが勝者です。チーム分けは、ラブさんとメイトさんの二人。相手は私一人ですね」

「二対一だが構わないかね?」

「はい。ただご存じの通りおじさんはD級で、ラブさんはA級。……これはあまりに厳しいので、おじさんに三十分、先行する時間を頂けると嬉しいのですが」


 メイトは思う。それ位なら別に、いいのでは――


「申し訳ないが、却下させて貰っていいかな?」

「ふむ……?」

「ボクはボクの美と愛に自信を持っているが、自惚れてはいないつもりさ。君ほどの実力者に三十分も与えれば、ゲームが始まった時点で詰んでいる可能性も十二分にあるだろう!」


 え……あのラブ様が、相手の提案を拒否?

 それ程に、このおじさんは手強いのだろうか?


「では十分……」

「断る」

「五分」

「拒否しよう!」

「しかしですね、ラブさん。これではあまりに実力差が……」

「そのような提案は『それでも勝っちゃうんだよね』等と余計なことを口走る前に言うことさ。そもそもボクは、君と勝負をイーブンに始めても勝率二割と見ているよ」

「……これはまた、買いかぶられましたね。私、しがないD級おじさんですよ? そんな相手に全力とは……ラブさんは心の広い英雄だと思っていたのですが、勘違いでしたかね」

「不要な挑発はやめたまえ。こう見えて、ボクは慎重な性格でね。イーブン以外の条件は認めない」


 よほど予想外だったのだろう、おじさんは渋柿でも食べたように頬を歪め、溜息交じりに項垂れてしまった。

 ……結局、条件はイーブン。

 それなら、負けることは絶対にないのでは?


「畏まりました。では双方一緒にダンジョンに入り、あとは早い者勝ちと致しましょう。……ああ、当然の話ですが、相手に直接攻撃を仕掛けて妨害するのは無しです。そもそも、おじさんがラブさんに襲撃されたらひとたまりもありませんし」

「その条件は了承しよう。ボクとメイト君が、君に襲われる心配もなくなるからね」


 互いに条件を把握した後、メイトは二人に並びダンジョンへと足を踏み入れる。


 再び現れた迷宮”針山山岳”を見上げ、では、と別の登山道へ足を運ぶオジマさん。その背中を見つめながら……何度考えても、ラブ様が負けるはずがないという結論にしかならない。


 ……そして結局、オジマさんの目的は分からない。

 メイトの価値を見極める、と言っていたが……。


 オジマさんは、メイトに勝負を通じて――いったい何を教えるつもりなのだろう?



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