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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第8話 おじさん、JKで囲ってメイトさんに迫る

 さて。だいぶ事情は分かったが、話はトントン拍子には進まない。

 何故かって? メイトさんに、そのまま相談するのは悪手だからだ。


 おじさんは部外者。しかも、四十オーバーのおじさんだぞ?

 ラブさんは大人の女性で、理解力も包容力もあるから素直に話したが、メイトさんは十代半ば。

 そんな子に、一度だけパーティ組んだおじさんが突然「君の事情はラブさんから聞いたよ。ぐふふ、じゃあ親切なおじさんが手助けしてあげようねぇ~」にちゃあ……って、笑顔で言い出したら、どう思う?


 事案だよ。正直エリザさんの時よりヤバい。即日通報、SNSに晒され大炎上。

 哀れおじさんは警察のお世話になりライセンス剥奪、B・P社をクビになり路頭に迷う……見える。未来が見える。おじさんという立場の弱さを、甘く見てはいけない。


 それに信頼関係ってのは、もっと細かに刻むものだ。

 メイトさんに助言するにしても、もう少し仲良くなってから……といいたいが、あの子の感性も独特すぎて、よく分からない。

 若い子についていくのは、おじさんじゃあキツいしな。


 ――なので、考えた。餅は餅屋。女の子には、同年代の子。

 ツテがない訳ではない。引き受けてくれるかは、分からないが……。


*


「こんにちは、メイトさん。私はミウ。おじさんの……まあ、知り合いです」

「こんちは~☆ 同じく、シノブだよ。よろしくねっ」


 ラブさんと相談した翌日。俺は同じファミレスにて、連れを伴いメイトさんに顔合わせを行っていた。

 ど、どうもと戸惑いながら頭を下げるメイトさんは、探索時のメイド服でなく私服だ。シンプルな半袖白地のシャツにジーパンと、洒落っ気のない格好で身を縮めている。


 その対面に座るのは――前回お世話になったJKこと、ミウさんとシノブさんだ。

 ……おじさんと一対一より、マシだろう?

 まあ彼女から見たら、おじさんがJKを侍らせてるようにも見えるが……。


「オジマさん。こちらの方々は……? ラブ様への新しい信者でしょうか」

「彼女達は、現役の探索者学校の生徒だよ。先日とある有名クランに内定が決まったらしくてね、今日の話の参考になると思って、同席をお願いしたんだ。……で、早速だけど」


 一応、簡単な事情はラブさん経由で伝えてある。

 といってもいきなり「君の家庭事情について教えて欲しいんだ」とは突っ込めない。なので、まずは軽いジャブ――


「メイトさん。実は、ラブさんや彼女達とはまだ相談中なんだけど……良かったら、ミウさん達から、ダンジョン攻略の指南を受けてみないかな」

「私が、ですか?」

「実はおじさん、先日ラブさんとお話してね。その中で、メイトさんがもっとラブさんを手伝える方法はないかな? という話になったんだ。……メイトさんの、ラブさんに対する愛は本物だ。それは、おじさんにもよく理解出来る。ただせっかくなら、応援だけでなく実践の手伝いをしてみたらどうかな、と思ってね」

「う……それは……」

「何なら、応援と手伝いを一緒にしてもいい。その方がきっと、ラブさんも喜ぶんじゃないかな」


 メイトさん自身、手伝いを考えてはいる……と、ラブさんから聞いた。

 それを釣り餌に、反応を探る。

 いきなり大上段から「君はラブさんに甘えてないで、公的支援を受けなさい!それが子供の役目だ!」と、ハンマーで叩きつけるのは横暴すぎるし、そもそも彼女の家庭環境もまだ不明だからな。


 ……さて。メイトさんの反応は?


「…………」


 沈黙。うっすらと冷や汗を流して気まずそうに目を逸らし、考える……というより誤魔化しているように見える。


 ふぅむ。やはり何かあるな?

 彼女の立場を考えれば、ラブ様を直にお手伝いできるのは、諸手をあげて喜ぶべきことだと思うが……。


 メイトさんも考えがまとまったらしく、遠慮がちに顔を上げた。それから、ミウさんとシノブさんを見渡していく。


「オジマさん。お気持ちは嬉しいのですが、私のために皆様のお手を煩わせるのは申し訳ないとも思います。私は私でラブ様のためになる努力を致しますが、ラブ様のファンでもない方からの助力までは頂けませんし――」

「その点は心配しなくていい。ラブさんからも、許可を貰っている」

「え。それは、どういう……?」

「ミウさんとシノブさんには、メイトさんに教えるぶんの時間給を払う、っていう了承を得ている。まあ、家庭教師のダンジョン版みたいなものか」

「え? ですが、ラブ様が私のために、そんな……」

「君がラブさんを愛しているように、ラブさんだって君を愛しているからね。その上で、経済力がある彼女が支援をしたいと申し出た。嘘だと思うなら直接、ラブさんに聞いて見るといい」


 これは本当の話だ。事前にラブさん、ミウさん、シノブさん全員の了承を取った。まあ給与は小額だがな。

 ラブさんの了承があるなら、メイトさんにとっても悪い話ではない……断る理由はないはずだ。


 いやあの……と、メイトさんがじんわりと汗を拭きだし目を泳がせる。

 おろおろと、普段の威風堂々とした態度もどこかへ飛び、ふむ。ずいぶん困っているようだね?


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。


「っ……いけません。私なんかのために、ラブ様個人の愛を私に向けるなど。それに、ラブ様の愛は世界に向けられるもので」

「でも、ラブさんだって人間だ。自分に愛を向けてくれる人には、報いたいと思うだろう。だから君のためを思って、援助をした。普通のことだろう?」

「うぐぅ……」

「ただ、ラブさんも仕事がある。つきっきりで、メイトさんの面倒を見る訳にはいかない。だから別の人に頼んだ……普通の流れだろう? それに、教えるのはおじさんじゃない。現役の探索者学校に通う、未来有望な先輩JKの大切な助言さ」


 おじさんが手取り足取り教えるのはアウトだが、ひとつふたつ上の先輩が教えるなら問題ないはず。

 それに、ミウさんやシノブさんにとっても良い経験になるだろう。お世辞にも、彼女達はまだ実力があるとは言えない。他人に教えるなかで、自分が学ぶことも多くあるだろう。クラン”竜の山”に入職する前に、下地をつける機会にもなるはずだ。


 ……という建前があれば、メイトさんは逃げられない。


 そう。これは、建前。

 メイトさんが本当に、探索者学校の件について考えているかを読み取る、リトマス紙。

 彼女が前向きに考えているなら、ラブさんの資金援助やミウさんたちの助言に飛びつくに決まっているが……そうでないなら、別の問題が隠れている。それを、あぶり出す。


 こすいねえ、社会人っていうのは。

 でも、大人には建前が必要なのさ。……相手が断りにくくなり、周囲の賛同を得るための建前がね。


「どうかな、メイトさん。まあいきなりの話だから、驚いたとは思うけど……考えてみてくれないかな?」

「ですが、私みたいな小娘に、そこまでしてもらうなんて失礼で……」

「でもそれが、ラブさんの愛であり望みだよ。それとも、メイトさんは愛しのラブ様の愛を、受け取れない、と?」

「う、ぐっ……!」


 彼女はラブさんを慕っている……と、本人が明言している。ここで断れば、話に矛盾が生じるしな。


 どうやら、メイトさんはラブ様の愛を語る攻撃力は高いが、防御力はぺらっぺらの紙装甲らしい。

 動揺が思いっきり顔に滲み、クールな表情が歪んでいた。


 ……で?


「どうかな、メイトさん。それとも他に、何か問題が? おじさんで良ければ協力するけれど」

「…………」

「もし言いにくい話なら、ラブさんに直接相談してもいい。方法は任せる。ただせっかくなら、現役の探索者学校に通ってる二人に聞いて見るのも、いいと思うね。ほら、就職や学校選びでもOBの話は貴重だろう? だから――」

「っ…………そういう意味では、なくて。その」

「ふむ?」

「ですから、えっと…………私は、その……いえ、応援したい気持ちというか、ラブ様のお役に立ちたい気持ちは、本当なのですけど。ダンジョンで戦うのは……あの…………その……」


 メイトさんが俯き、ちりちりと自分の黒髪を不愉快そうに弄る。

 いつものクールな表情はどこへやら、だらだらと冷や汗をたっぷりかき、頭を抱えついには俯いてしまった。


 ……ちょっと可哀想な気もしたが、おじさんは誤魔化さず、続きを促す。



 やがて観念したように、メイトさんは、ううう、と苦しげなうなり声をあげ。

 饅頭のように潰れた頬を膨らませ、深く、淀んだものを吐き出すように……ぼそ、と俺達に呟いた。


 彼女の、秘密を――


「…………才能が……」

「え?」

「私……限界が……ま、魔力の限界が…………D級、しかなくて…………探索者、向いてないんです…………なので、応援でもしなければ、ラブ様の隣に……いられない……」


 あっ……。






――――――――――――――――――――――――




(※おまけ 本題から外れるので省いた会話)



「そういえば、ミウさん、シノブさん。……エリザさんは?」


 気になって口にした瞬間、ファミレス内の空気がひやりと凍えた気がした。……ん?

 隣を伺えば、じとーっと、妙に冷めた目で睨まれる。……何だ、この寒気。


「エリーはいま……謹慎中です」

「え。どうしてだ?」

「エリちねぇ、この前どこかの誰かさんにボッコボコにされたこと、めっちゃくちゃに気にしててねぇ。気合いでクラン”竜の山”面接と実地試験を受けたのは良かったけど、そこで緊張の糸が切れてぶっ倒れちゃったんだよね。それでお休み」

「腕の怪我もありましたからね。まあその件は別にしても、心の疲れが溜まってたみたいで。……うなされてましたよ、ゴブリンの×××で、仲間を酷い目に遭わせてしまった、と。……で、泣きながら、一休みしたら修行するって言ってました。つぎは絶対、完膚なきまでに張り倒してやるって。一体誰のせいなんでしょうねぇ……?」


 にこにこと、ミウさんが委員長らしい穏やかな笑顔で……でも、目が笑ってないです。

 まずい。これ本気で恨まれてる奴だ。


「あーしもね? おぢさんに感謝の気持ちはあるんだよ? だから今日も、わざわざお礼参りに来たんだよ? ほら、おじさんには怨があるからね、頼まれたら協力しないとね~って思って」


 続けてシノブさんが、にまぁっと唇を緩める。

 あれ、お、おかしいな。神仏への礼を告げる”お礼参り”に、”恩”があると言われれば悪い気がしないはずなのに、何故か寒気がするような。

 ……まあ恨まれるのは仕方ないが……俺も、感謝されたくてやった訳じゃないし……。


 心のなかで冷や汗を流していると、ミウさんがふぅと嘆息する。


「一応言っておきますと、感謝の気持ちがあるのは事実です。エリーもそれは分かっていると思います。ただ……それはそれとして、感情では納得できてないのも事実です。……まあ、機会がありましたらお願いしますね、おじさん?」


 ひんやりとした声で呟くミウさんに、俺はもう嫌な予感しかしない。

 だがまあ、それもまた人間らしくもあるが……。


 感謝と憎悪って、一緒に抱くこともあるよなあと思いながら、俺は話をメイトさんの件に戻すことにした。



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