第5話 おじさん、継続雇用を頼まれる
ダンジョンを出ると、時刻は既に昼を回っていた。
作業時間はおよそ三時間、といった所か。まあ悪くないなと考えつつ、時間があればもう一つくらい隙間バイトを入れるか、と考えていると、ラブさんがにっと白い歯を見せ笑っていた。
「ありがとう、オジマさん。君のおかげで、今回はとてもいいクエストになったよ! そこで相談だが、良ければ次回も同席してくれないだろうか?」
「俺ですか?」
「ああ。B・P社からも腕のいい探索者がいると聞いていたが、コレ程とはね。君の実力を見込んでぜひ、ボク達のパーティに引き続き参加して欲しいんだ」
聞けば彼女達はしばらくの間、コカトリスの卵採取クエストに勤しむらしい。
クランからの継続依頼だろう。本ダンジョン”針山山岳”が枯れるまでの間、コカトリスの卵をとり続けて欲しい、といった所か。
俺は一応、考えるそぶりを見せる。……彼女達の言動は奇妙だが、ラブさんの実力は申し分ない。
それに、B・P社側からも要望があれば継続参加して欲しいと頼まれていた。報酬も美味しいし、悪くはないが……。
「ふむ。オジマさん、その様子だと何か疑問点があるようだね? 良ければ聞くし、必要があれば改善するよう心がけよう!」
「そうですね。改善という程でなく、気になる点ですが……」
「成程。では、良ければ今から詳細を詰めようじゃないか! おっと、その前に……メイト君!」
ラブさんが、公道の後方でちょこんと待機する少女を呼ぶ。
彼女の手を取り、ラブさんがよしよしと子供をあやすように撫でるのが見えた。
「今日も素晴らしい愛をありがとう、メイト君。気をつけて帰るのだよ」
「ラブ様。お話しがあるのでしたら、私も同席しますが」
「安心してくれ、ここからは大人の時間だ。それに、若く可憐な女性を長々と束縛しておくのも良くないからね。学校の宿題もあるだろう? 君の愛は十分に伝わった、また次の旅でよろしく頼むよ」
ぐっ! とサムズアップする、ラブさん。
……女性だけど、イケメンなんだよなあ。
「畏まりました。それでは、ラブ様。また次の機会がありましたら、宜しくお願いいたします」
メイトさんが一礼し、トコトコと帰宅する。
その背中を見送るラブさんを見てると、娘を見送る母親みたいだな……なんて思ってしまった。なんとも不思議な関係だ。
だからこそ、一抹の懸念を拭えないのだが……。
「では話の続きをしようか、オジマさん。……ああ。もしかして報酬に不満があったかい? 確かに君から見たら、メイト君が働かずに報酬を得たかのように見えるだろうね。だが、彼女の存在はボクをとても勇気づけてくれるのだよ。だから口をつぐんでくれると助かるのだが」
「いえ。報酬は十分に貰ってるので問題ありません。ただ、疑問はあります」
「場所を変えるかい?」
「昼食がまだですから、近場のファミレスで宜しければ」
ラブさんと揃い、昼食を取るべくダンジョン入口を後にする。幸い今回のゲート出現場所は公道の走る町中なので、店を見つけるのは容易い。
歩きながら、それとなく話を振る。
「俺の疑問は、簡単です。どうしておじさんと、パーティ継続なのかなと」
「君の愛、そして実力を買ってのことだよ。コカトリス戦の立ち回り、胴に入っていたからね。信頼できると判断したまでさ!」
「でもあの程度なら、他の探索者でも出来るでしょう。……いえ、ラブさんならどうとでも立ち回れるはずです。わざわざ、非正規のD級おじさんである必要がないな、と」
突っ込むのは野暮だが、優秀な探索者は他に幾らでもいる。
そもそも彼女なら、コカトリスくらい一人で倒せるだろう。まあ最近は、ダンジョンに潜るパーティは四人以上、最低でも三人以上にという通達が出ているので、数合わせの意味はあるが。
「ボクは魔力の多寡が、必ずしも実力に比例するとは限らないと考えている。……という建前も悪くないが、オジマさんには本音で話した方が早そうだ。そうだね、一番の理由は、愛かな? そう、沈黙の愛というやつさ。……君、ボクのためにメイト君と一緒に、サイリウムを振ってくれただろう?」
……まあ……やりましたけど……。
「仕事なので……」
「もちろん分かっているさ。世の中、建前は必要だからね。それでも、君は表向き付き合ってくれたし、メイト君に文句ひとつ言わなかった。それが嬉しいのさ」
ああ……成程、話が見えた。
要するに彼女は、空気を合わせてくれたことに感謝しているのだろう。
ラブさんは、実力だけを見れば申し分ない。が、その不思議なやり方に文句をつけたくなる人もいるだろう。
メイトさんも、同じ。ただ応援してるだけの子が報酬を貰えるなんて、と不満を覚える人がいるのは容易に想像できる。
「世の中というのは、ボクが想像してるより遙かに面倒なものでね! ただ愛すべき協力者を求めているだけなのに、ボクやメイト君が麗しい女性だからと粉をかけてくる者や、いちいち上から目線でくだらないアドバイスをしてくる者もいる。……その点、オジマさんは職務にとても忠実であり誠実だ」
「普通に、仕事をしてるだけですけど……」
「その謙虚さが美しい、と感じるボクの感性は、理解して貰えないかな?」
ああ。要は黙々と仕事をし、余計な茶々を入れないから有難いのだろう。
その点を評価してくれるのは、俺個人としてもこそばゆいし嬉しく思う。
……だからこそ、ますます、分からなくなる。
……薄々と、感じてはいたのだが……いやしかし……指摘するべき、か?
すこしの間、悩んだ。
彼女からは今し方、余計なことを言わないから嬉しいと言われたばかりだ。その信頼をいきなり崩すようで、申し訳ないが……。
直感、と言うべきか。
長年の経験が、ギリギリ、聞いておくべきだと囁いたので、悩んだ末に口を開く。
「ラブさん。もう一つだけ、つかぬことをお聞きしますが……」
「構わないよ。君のようなありがたい人材を引き入れるための労力は惜しまない。何でも応えよう――」
「では自分も、ストレートにお聞きします。どうしてそんな、わざとらしい変人めいたパフォーマンスをされてるのでしょう?」
「――ほう?」
ぴた、と彼女の足が止まる。
丁度ファミレスに到着したから……という理由だけでない足止めに、俺は続けて、畳みかけた。
「推測ですが、ラブさん。あなたは相当な実力者であり、同時に、常識人でもあります。……なのにどうして、愛や美を求めるかのような、表向きだけのパフォーマンスを。おじさんには、理由が分からないんですよ」




