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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第5話 おじさん、継続雇用を頼まれる


 ダンジョンを出ると、時刻は既に昼を回っていた。

 作業時間はおよそ三時間、といった所か。まあ悪くないなと考えつつ、時間があればもう一つくらい隙間バイトを入れるか、と考えていると、ラブさんがにっと白い歯を見せ笑っていた。


「ありがとう、オジマさん。君のおかげで、今回はとてもいいクエストになったよ! そこで相談だが、良ければ次回も同席してくれないだろうか?」

「俺ですか?」

「ああ。B・P社からも腕のいい探索者がいると聞いていたが、コレ程とはね。君の実力を見込んでぜひ、ボク達のパーティに引き続き参加して欲しいんだ」


 聞けば彼女達はしばらくの間、コカトリスの卵採取クエストに勤しむらしい。

 クランからの継続依頼だろう。本ダンジョン”針山山岳”が枯れるまでの間、コカトリスの卵をとり続けて欲しい、といった所か。


 俺は一応、考えるそぶりを見せる。……彼女達の言動は奇妙だが、ラブさんの実力は申し分ない。

 それに、B・P社側からも要望があれば継続参加して欲しいと頼まれていた。報酬も美味しいし、悪くはないが……。


「ふむ。オジマさん、その様子だと何か疑問点があるようだね? 良ければ聞くし、必要があれば改善するよう心がけよう!」

「そうですね。改善という程でなく、気になる点ですが……」

「成程。では、良ければ今から詳細を詰めようじゃないか! おっと、その前に……メイト君!」


 ラブさんが、公道の後方でちょこんと待機する少女を呼ぶ。

 彼女の手を取り、ラブさんがよしよしと子供をあやすように撫でるのが見えた。


「今日も素晴らしい愛をありがとう、メイト君。気をつけて帰るのだよ」

「ラブ様。お話しがあるのでしたら、私も同席しますが」

「安心してくれ、ここからは大人の時間だ。それに、若く可憐な女性を長々と束縛しておくのも良くないからね。学校の宿題もあるだろう? 君の愛は十分に伝わった、また次の旅でよろしく頼むよ」


 ぐっ! とサムズアップする、ラブさん。

 ……女性だけど、イケメンなんだよなあ。


「畏まりました。それでは、ラブ様。また次の機会がありましたら、宜しくお願いいたします」


 メイトさんが一礼し、トコトコと帰宅する。

 その背中を見送るラブさんを見てると、娘を見送る母親みたいだな……なんて思ってしまった。なんとも不思議な関係だ。


 だからこそ、一抹の懸念を拭えないのだが……。


「では話の続きをしようか、オジマさん。……ああ。もしかして報酬に不満があったかい? 確かに君から見たら、メイト君が働かずに報酬を得たかのように見えるだろうね。だが、彼女の存在はボクをとても勇気づけてくれるのだよ。だから口をつぐんでくれると助かるのだが」

「いえ。報酬は十分に貰ってるので問題ありません。ただ、疑問はあります」

「場所を変えるかい?」

「昼食がまだですから、近場のファミレスで宜しければ」


 ラブさんと揃い、昼食を取るべくダンジョン入口を後にする。幸い今回のゲート出現場所は公道の走る町中なので、店を見つけるのは容易い。


 歩きながら、それとなく話を振る。


「俺の疑問は、簡単です。どうしておじさんと、パーティ継続なのかなと」

「君の愛、そして実力を買ってのことだよ。コカトリス戦の立ち回り、胴に入っていたからね。信頼できると判断したまでさ!」

「でもあの程度なら、他の探索者でも出来るでしょう。……いえ、ラブさんならどうとでも立ち回れるはずです。わざわざ、非正規のD級おじさんである必要がないな、と」


 突っ込むのは野暮だが、優秀な探索者は他に幾らでもいる。

 そもそも彼女なら、コカトリスくらい一人で倒せるだろう。まあ最近は、ダンジョンに潜るパーティは四人以上、最低でも三人以上にという通達が出ているので、数合わせの意味はあるが。


「ボクは魔力の多寡が、必ずしも実力に比例するとは限らないと考えている。……という建前も悪くないが、オジマさんには本音で話した方が早そうだ。そうだね、一番の理由は、愛かな? そう、沈黙の愛というやつさ。……君、ボクのためにメイト君と一緒に、サイリウムを振ってくれただろう?」


 ……まあ……やりましたけど……。


「仕事なので……」

「もちろん分かっているさ。世の中、建前は必要だからね。それでも、君は表向き付き合ってくれたし、メイト君に文句ひとつ言わなかった。それが嬉しいのさ」


 ああ……成程、話が見えた。

 要するに彼女は、空気を合わせてくれたことに感謝しているのだろう。


 ラブさんは、実力だけを見れば申し分ない。が、その不思議なやり方に文句をつけたくなる人もいるだろう。

 メイトさんも、同じ。ただ応援してるだけの子が報酬を貰えるなんて、と不満を覚える人がいるのは容易に想像できる。


「世の中というのは、ボクが想像してるより遙かに面倒なものでね! ただ愛すべき協力者を求めているだけなのに、ボクやメイト君が麗しい女性だからと粉をかけてくる者や、いちいち上から目線でくだらないアドバイスをしてくる者もいる。……その点、オジマさんは職務にとても忠実であり誠実だ」

「普通に、仕事をしてるだけですけど……」

「その謙虚さが美しい、と感じるボクの感性は、理解して貰えないかな?」


 ああ。要は黙々と仕事をし、余計な茶々を入れないから有難いのだろう。

 その点を評価してくれるのは、俺個人としてもこそばゆいし嬉しく思う。


 ……だからこそ、ますます、分からなくなる。


 ……薄々と、感じてはいたのだが……いやしかし……指摘するべき、か?


 すこしの間、悩んだ。

 彼女からは今し方、余計なことを言わないから嬉しいと言われたばかりだ。その信頼をいきなり崩すようで、申し訳ないが……。


 直感、と言うべきか。

 長年の経験が、ギリギリ、聞いておくべきだと囁いたので、悩んだ末に口を開く。


「ラブさん。もう一つだけ、つかぬことをお聞きしますが……」

「構わないよ。君のようなありがたい人材を引き入れるための労力は惜しまない。何でも応えよう――」

「では自分も、ストレートにお聞きします。どうしてそんな、わざとらしい変人めいたパフォーマンスをされてるのでしょう?」

「――ほう?」


 ぴた、と彼女の足が止まる。

 丁度ファミレスに到着したから……という理由だけでない足止めに、俺は続けて、畳みかけた。


「推測ですが、ラブさん。あなたは相当な実力者であり、同時に、常識人でもあります。……なのにどうして、愛や美を求めるかのような、表向きだけのパフォーマンスを。おじさんには、理由が分からないんですよ」



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