第2話 おじさん、JKに挟まれる
それから一晩明けて――もしかしたら俺、騙されたんじゃ……?
と思ったが、日野ちゃんに案内されるまま業務用アプリを導入したら案外普通だった。
流れはシンプルだ。アプリの業務一覧から、自分の希望するクエスト(仕事)を探す。
内容を確認し、同意書にOKをタップ。あとは当日、パーティと合流し仕事に当たるだけだ。
ちなみに派遣でも行えるクエストは大抵C級以下かつ単純作業が多く、危険性も低い。
普通だ。が、これで終わるはずがない。
『すみません小島さん、そちらのアプリで見れるクエストは、一般用クエスト枠でして……小島さんには、うちの特別クエストを受注してほしいんです』
来たな。怪しい裏仕事。
『違法なクエストではありません。ただ……説明が難しいんですが、こちらのクエストにはうちの最新AIが関わってまして。AIによるパーティマッチングを実験的に行っているんです』
「ふむ。要するに、おじさんにマッチングアプリのテスターになって欲しいってことか?」
なら、D級おじさんが誘われた理由も分かる。使い捨ての実験ってトコだろう――
『えと、そうじゃなくて……当社AIが探索者のビッグデータを解析したところ、小島三太という個人に大変な高評価を与えているんです』
「は???」
『ちなみに私も同意見です! 私、昔から小島さんは凄いなって思ってましたし、小島さんがいなかったら今ごろ私は……』
「あー、ストップストップ。昔話は置いといて……え、俺個人を評価?」
『ですです!』
「日野ちゃんそのAIバグってるから早く直した方がいいと思う」
『なに言ってるんですか当社最先端のAIですよ!?』
いや、40歳D級おじさんにそんな付加価値はないと思うんだが?
「まあ実験段階だから、バグが出るのは当然か……じゃあその、特別クエストってのを受ければいいんだな。一覧は……」
『あ、特別クエストはこちらから指定になりまして、小島さん側ではクエストを選べないのですが』
な、何だと……選べない……??
「じゃあ俺、依頼が来たら直で受けるしかない……ってこと?」
『すみません、そうなります……けど極端に危険なクエストはないはずです。どうしてもダメなら、断ることも出来ますので!』
う、う、胡散臭ぇ~~! ヤバそうな臭いしかしない!
……俺、日野ちゃんに騙されてダンジョンに着いたら「ようこそ皆さん、今日からこのダンジョンでコロシアイをして貰います」とか言われてデスゲームに参加させられたりしない?
『すみませんすみません、本当にこれ小島さん専用の設定なので、まだ調整が必要でして』
「……本当に、危ないクエストは来ないんだな? おじさん小物だから、いきなりドラゴンと戦えって言われても無理だぞ?」
『本当に大丈夫です! 次のクエストは、薬草採取の予定ですし』
「薬草採取……まあ、分かった。日野ちゃんを信じるよ」
『ありがとうございます! すみません、自分でもひどいこと言ってるという自覚はあるんですが』
ぺこぺこ通話越しに謝る日野ちゃん。
まあ、受けるって約束しちゃったからな。約束を破るのは良くない。
それに俺が知る限り、日野ちゃんは誰よりも真面目でまっすぐな子だ。
安全上の問題はない、っていうなら大丈夫だろう。
おじさんもD級とはいえ、探索者業界に勤めて長い。大抵のことは、どうとでもなるだろう!
*
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「…………」
待ち合わせに指定された、某所駅前。
夏真っ盛りな太陽の下、俺は、おじさん特有の油汗……とは違う理由でだらだらと冷や汗を流すなか、依頼主のお三方と向き合っていた。
「ふぅん。あなたが噂の派遣おじさんですの? いかにも、冴えないおじさんって感じですわね」
「ち、ちょっとエリちゃん、挨拶挨拶……始めまして、オジマさん。私、ミウといいます、今日はよろしくお願いします!」
まず俺に挨拶したのは、黒髪の美少女だ。
黒髪清楚系少女のミウさん。黒のロングストレートにアンダーリムの眼鏡をかけた、いかにも教室でクラス委員長を勤めてそうな真面目な少女だ。17歳。
「おじさんよろ~☆ やー、予定してた子が合わなくってさあ。ま、気楽にいこいこ?」
隣でネイル付きの手をふりふりするのは、金髪美少女のシノブさん。
キラキラした爪を輝かせ、うっすらと肌を小麦色に焼いてる超絶ギャル。金髪をきゅっとポニテにまとめ、ご機嫌な笑顔と健康的な白い歯を煌めかせているのが何とも眩しい。17歳。
で、最後に。
「まあ仕事さえきちんとしてくだされば、文句はありませんわ」
「もう、エリちゃんったら……すみません、この子いつもこうで……」
ふんと鼻を鳴らすのは、赤髪美少女のエリザさん。
三人の中でもっとも背が低く態度はデカい、ツンとした御嬢様育ちの勝ち気な態度――ただし怪我をしているらしく、左手を三角巾で吊るしている――少女が、険悪な目でおじさんを睨んでいる。17歳。
……いや。まあ、性格は別にいいんだけどさあ……その……
「あー。よ、よろしくお願いします……小島三太です……」
「はい、よろしくお願いします!」
「…………」
「「「…………」」」
「……えっと。皆さんずいぶん若い……ですね」
「じつは私達、同じダンジョン学校に通ってまして……」
「…………」
……ひ、ひ、日野ちゃん!?
これ、クエスト以前に、完全に事案じゃないですか??? そのAI大丈夫?
これがフィクションなら、年下の若い子に頼りにされ「やれやれ……」って言いながら戦うおじさんも格好いいだろうよ。
けど、現実はそう都合良くいかないの。
っていうかね? おじさん位の歳になると……若い子、って怖いんだよ。
世間じゃおじさん=キモい、犯罪者予備軍、加齢臭がすると散々な言われようだが、おじさん側からしても若い子=怖い、って気持ちがある。
接近すること自体が、リスクっていうか……電車とかで不意に距離が縮まると、やば、と思うし、夜の道端歩いてても相手と絶妙な距離にいると怖いだろ?
……まあ、これも仕事だから、やりますけど!
「……えっと……じゃあとりあえず、行きますか? ダンジョン」
「は、はいっ、よろしくお願いします、オジマさん。あ、じゃあ私先頭歩きますね?」
一番話しやすそうなミウさんに頭を下げ、彼女に先導される形で、俺達は目的のダンジョンゲートのある公園へと向かう。
「いやぁ~、大丈夫かなぁこのパーティ。ま、エリちいるなら大丈夫か☆」
「……別に、薬草採取くらい大した問題はありませんわ」
シノブさんが心配し、エリザさんがふんと鼻を鳴らす。
ただの薬草採取で終わるか、どうか……早速、暗雲が漂い始めてきたなあ、と思う俺であった。




