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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第4話 おじさん、コカトリスを挟撃する

「本当にいいんですか? コブラの眼球は、D級モンスターとはいえレアドロップなので結構いい引き取り価格だったはずです。毒属性武器の改良などにも使うと聞きましたし」

「気にしないでくれたまえ。ボクが求めるのは真実の愛、それだけさ。そしてボクは、君達の応援にとても心打たれた! その対価をアイテムやお金でしか返せない、浅ましいボクを許して欲しい」


 目頭を押さえて天を仰ぐラブさんだが、一体何に嘆いておられるのか。

 その隣で黙々と眼球を拾うメイトさん。無表情のまま全回収した彼女は、とことことおじさんの所に戻ってきた……が、その唇はちょっと不満そうに、への字に曲げられている。


「オジマさん。私とあなたとラブ様の皆でアイテムを分け合いましょうと、ラブ様より慈悲が下されました。しかし、オジマさんは心よりラブ様を応援されたでしょうか」

「えぇ……?」

「もしあなたの心に、偽り――ラブ様に対する愛を、僅かでも疑う気持ちがあったのであれば、悔い改める機会を差し上げます。その代わりに、オジマさんの取り分をぜんぶ私にください」


 要するに報酬が欲しいんですね。がめついのはある意味、人間らしいなと思う。

 まあ俺は今回まったく働いてないので、取り分をよこせ! とは言いづらいが……。


「待ちたまえ、メイト君。言っただろう? ボクの愛は世界へ平等に向けられるもの。その愛を独り占めしたい気持ち、分からなくはないが許されることではない。違うかね?」

「むぅ……」

「それは正しくない愛の形だ。愛は平等、ならば報酬もまた等しくなければならない。それにパーティ内の格差は、将来的な不満に繋がる。私の取り分が減るのはともかく、オジマさんの分に手をつけてはいけないよ」


 どうやら、ラブさんは目立ちたがり屋であると同時に平等主義らしい。

 ますます彼女のことが、分からなくなる。……まあ、ある種の推測は立つが……。




 彼女について思案していた時、ふと、ラブさんが顔を上げた。


「おっと、本命がお出ましのようだね。ボクらのパーティに参加したくなったのかな?」


 彼女の発言に遅れること二秒、俺も気配を察して顔を上げる。


 クエエエエエ、と山岳に響いた鳴き声とともに、その怪物は堂々と姿をあらわにした。

 ご立派な真紅のトサカに、ぎょろりと輝く黄金の眼光。体毛に覆われた胴からは二対の翼がぶわりと広がり、自らを大きく見せることでこちらを威嚇している。

 サイズは……想定より、大きい。

 通常のコカトリスは大型犬くらいだが、俺達の目の前にいるのはライオン並にでかい。

 さらに、コカトリスのもう一つの特徴――尾よりするりと伸びる蛇の頭。こちらも巨大で、先のコブラより二回りは上か。


 基本的に、モンスターの強さは体躯の大きさに比例する。例外もあるが……。


「スキル”アンチストーン・D”」


 石化耐性スキルを、ラブさんに展開。

 彼女は当パーティの生命線だ、動作の遅れは致命傷に繋がる。


「ラブさん、毒耐性も要りますか?」

「それは君自身に使いたまえ。その上で、蛇側を担当して貰っていいかな? 引き付けるだけで十分だ」

「わかりました」


 コカトリスは鶏の頭と、尾に蛇の頭をもつ特殊な姿ゆえに独特の弱点がある。

 かの魔物は奇妙なことに脳を二つ持ち、鶏と蛇が独立した行動を取ろうとするのだ。ゲーム風にいえば二回行動できるわけだが、身体は一つしかない。つまり……


「スキル“アンチポイズン・D”」


 毒耐性を付与しつつ、俺は鞄から洞窟探索用の簡易たいまつを取り出した。

 炎を灯し、右回りで移動しつつ、蛇頭を威嚇するようにちらちらと揺らす。

 対するラブさんが左側から回り込み、鳥頭に細剣の先を見せびらかしながら迂回する。


 鳥頭の眼光がラブさんへ、蛇頭の顔が俺へと180度反対に分かれていく。


 こうして前後から挟むと、コカトリスは飛びかかり攻撃時に反対側の胴体を引っ張らねばならなくなる。必然、動作が遅れる。

 さらに俺の灯した炎は、蛇への挑発的な意味がある。コカトリスの胴体支配権は鳥頭側が握っていることが多いため、鳥頭側が飛びかかろうとしたタイミングで炎を焚きつけることで、鳥頭の攻撃を和らげることが出来るのだ。


 メイトさんが沈黙し見守るなか、俺は蛇の毒液ぎりぎり射程外から、同じくラブさんが石化ブレスの射程外から迫る。

 ラブさんが、左手でくいくいと挑発しつつ足をゆっくりとスライドさせ、にじり寄る。


 コカトリスのトサカがぶるりと震え、鳥にしては太い両足を掲げて飛びかかろうとした――瞬間。

 すかさず、たいまつを投げた。

 火に気を取られ、シャア、と蛇が毒液を放とうと首を突き出したモーションが、鳥側の胴体を引っ張り――びくんと硬直した瞬間を狙い、ラブさんが地を蹴った。


「”ハヤブサ突き・B”!」


 俊足をもって、コカトリスの口に一閃。

 細剣らしい刺突を獲物の口に見舞い、後頭部まで一気に辛い抜いたのもつかの間。

 すかさず剣を引いて二撃目を放ち、さらに、


「”乱れ蘭月・A”!」


 スキル発動と共に閃光がまたたき、無数の突きがコカトリスの顔に突き刺さる。

 致命的ダメージにより反対側の蛇頭がびくんと震え、慌ててラブさんの方に振り向こうとするが、一手遅い。


「”スタンマジック・D”」


 俺が仕込んでおいた爆竹スキルを炸裂させ、蛇頭を驚かせ怯ませた。

 その隙を、ラブさんは逃さない。

 彼女の刃が閃光を瞬かせ、蛇の首を華麗にそぎ落とす。


 両の頭を失ったコカトリスが倒れ、紫色の煙がしゅうしゅうと狼煙のように上がる。


 ……それらを確認したのち、俺はほっと息をついてラブさんを見た。


「素晴らしい連携だったね! オジマさんとボクは、どうやら以心伝心のようだ。まさに、愛の成せる連携だろう!」


 大げさに笑う彼女だが……完全に、タイミングを合わせられたな。

 コカトリスへの挟撃が、教科書通りに上手くいく例は滅多にない。大抵は先に飛びかかられて乱戦になるのだが、彼女がきっちり俺の意を汲み動いてくれたのが功を奏した。


 この人、熟練者だな。

 それに…………いや、まあいいか。


「では、あとは卵の回収だね。……丁度あの岩壁かな?」


 ラブさんが山岳の岩壁に張り付いたそれを示す。

 コカトリスは石化ブレスを吐く性質を生かし、岩壁の横穴に卵を産んだのち石化ブレスを浴びせて巣を隠すのだ。岩壁が不自然に盛り上がっていることに気づかなければ、素人なら見逃してしまうだろう。


 最後の仕事くらい俺がやろう、とイベントリより持ち運んだハンマー(巣の石を壊すように予め用意したもの)を使い、ガンガンと砕く。

 壁が脆くも崩れ、くぼみ状になっている巣から出てきたのは、ダチョウの卵ほどある巨大なもの。


 これ一個で、どれだけの卵焼きが作れるんだろうか?

 不思議に思いつつも無事に目的物を回収し、俺達は無事にクエストを完遂したのであった。




 ……まあ、疑問は残るけどな。

 このパーティ、正直、ラブさん一人で十分じゃないか?



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