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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第二章

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第2話 おじさん、美と愛の戦を見学する



 今回行うクエスト内容は、山岳系ダンジョン”針山山岳”より、コカトリスの卵を持ち返ることだ。


 コカトリス。元は伝承に登場する、鶏の頭と竜の胴体、ヘビの尾をもつC級モンスターだ。

 ダンジョンに出現するのは鶏を少し巨大化した程度のサイズで、飛行能力はない。が、コカトリスの代名詞とも呼べる石化ブレスは健在で、また、尾についたヘビは毒液を放つ特技をもつ。

 純粋なフィジカル能力も侮れず、C級の中でも上位に値するモンスターだろう。


 ちなみに石化ブレスとあるが、大量かつ長時間浴びなければ肌が石化することはない。むしろ大量に肺に吸い込んだせいで肺胞が硬くなる疾患の方が危険なため、戦闘時はマスク着用をお勧めする。

 卵は珍味。

 それなりの額で取引されており、また特定の薬の材料になるため、需要が高いダンジョンアイテムの一つだ。


 クエストを確認しつつ、ダンジョン入口のプレハブ小屋で受け付けシートに記載。

 それから、未だポーズを決めてるラブさん及び、膝をつくメイトさんに声をかけた。


「ええと。作戦を確認したいのですが……今回は、コカトリスと真正面から戦う方でしょうか。それとも、目を盗んで卵を盗む方でしょうか」


 コカトリスはフィジカルの高さの代償か、頭があまり宜しくない。

 卵の奪取だけなら、一人が敵を惹き付け、別働隊が卵を盗むのもアリだが……と、まずは金髪美女のラブさんに声をかける。

 彼女はさらりと金髪を長し、天を仰いで答えた。


「ふっ。この美しいボクが、モンスターの目を盗んで卵を奪うなんていう卑劣な真似をすると思うかい?」

「では、真正面から倒す方針でしょうか」

「当然だ。ああ、しかしかの鳥がボクの美しさに見惚れてしまったら、ボクは魔物と戦えるだろうか? 美とは、じつに罪深い……!」


 結局どっちなんだろう、と、小柄な黒髪メイド服の、メイトさんを伺うと。


「全てはラブ様のお導きのままに。私はただ、ラブ様に付き従うのみです」

「ああ、メイト君。君は理解してくれるんだね……その言葉で、ボクの心は決まった。たとえ魔物がボクを愛しても、ボクは真に愛すべき君達のために戦い抜くと!」


 つまり撃破方針ですね。回りくどい表現だけど合ってるだろう。多分。おそらく。


「隊列はどうしますか? そもそも、お二人の職業は何でしょうか」


 前回パーティは”騎士”ミウさんが明らかに前衛、シノブさんが後衛だと分かったが、今回は二人とも軽装……片方は貴族服のようなふりふりした格好、もう一人はメイドと意味不明だ。

 ふっ、とラブさんが金髪を流してニヒルに笑う。


「ボクの愛は、風のごとく。ありとあらゆる所に、ボクという存在は現れるのさ。形に囚われない自由、それ自体がボクを示すスタイルそのものと言えるだろうね」


 前衛も後衛もこなす、マルチタイプですね。


「私はただ、ラブ様の勇姿を後方で見届けるのみ。全てはラブ様への愛ゆえに、です」


 メイトさんは後衛。……正体不明が一名と、後衛一名。

 つまり、おじさんはラブさんに合わせつつ臨機応変に、可及的速やかに適切なポジションをとりましょうという訳だ。具体性がなさすぎて泣けてくるね。

 正直おじさんは同じ窓際ポジションで、毎日同じ仕事をしてる方が落ち着くんだけどねぇ……


 一抹の不安を覚えながら、愛の少女達にならびダンジョンゲートをくぐる。

 真正面に現れたのは、山道の麓だ。

 RPG等によくある、大きな山をぐるりと取り巻くように続く、螺旋状の山道。中腹の所々に横穴があり、その先には宝物があったりモンスターが居たりするが、今回目指すのはコカトリスの巣のみ。

 幸い事前調査でマップが判明しているため、山道をテクテク登っていくだけ――




 ……と言うのは簡単だが、これが厄介でな。

 というのも(ダンジョンによるが)山岳系ダンジョンの傾斜は結構キツく、慣れてない探索者だと、足に来る。俺は登山用ブーツや気温に合わせたジャケットを羽織っているが……


 細身な彼女達、とくに、体力の低そうなメイトさんは大丈夫だろうか?

 心配するなか、先頭にて大手を振りながら愉快に歩くラブさんが、くるりと振り返った。


「諸君、注目したまえ! そして見たまえ、この険しい道を。まるでボクの愛を試しているようだと思わないかい?」


 思いません。


「もちろんボクは、この程度の困難に屈することはない。ボクの愛は無限大、ダンジョンすらも飲み込んでしまう大海のような深さがあるからね。しかし、君達はどうだろうか? ボクは、君達までこの困難に付き合わせることを苦しく思う!」


 そこでだ、と彼女が腰元のポーチ……鞄式インベントリより、市販の薬袋を取り出した。


「君達に、施しを授けよう。これを君達の柔らかな太ももの裏に貼るといい。ボクの愛が君達を勇気づけ、前へと進む力を与えてくれるだろう!」


 大仰に語るラブさん。が、その袋はよく知っている。回復湿布だ。

 大腿部や腰に貼ることで持続的な回復効果を発揮し、長時間の探索における負荷を楽にしてくれる……地味だが有用なアイテムだ。

 というかおじさん、実はすでに貼っていたりする。


 結構マイナーなアイテムだが、よく知ってるな……と感心するなか、湿布をメイトさんに渡すラブさん。


「ところで君達、マスクはあるかい? コカトリスの石化ブレスは肺に来るから注意が必要だ。もちろん、石化対策ポーションも準備済みだよ! ああそうだ、メイト君。君の麗しいメイド服はボクの心をとても豊かにしてくれるけど、必要とあればこちらのウェアに着替えるといい。山道は冷えるからね。君がもし風邪を引いてしまうと、ボクの心はとても寂しくなるのさ」

「お気遣いありがとうございます。……しかし、ラブ様への愛に優先するものなど、この世に何一つとしてありません」

「君は本当に素晴らしい従者だ。だが、愛は姿ではない、心だ! 寒くないようにしたまえ!」


 ラブさんが彼女に上着を被せ、俺にも回復湿布を渡してくれた。

 おじさんは遠慮したが、必要経費だと押しつけられた。……割と値がするアイテムなので申し訳なさも覚えるが、固辞するのもアレなので貰っておく。

 好意ってのは、素直に受け取ることで相手の気分も良くなるものだ。


 にしても、ラブさん。意外にも気配りが出来るし、探索に慣れてるな……と感心してると――




「おっと、モンスターの気配がするね。ボクの華麗なる美技を、お披露目する時かな?」


 ラブさんが腰元の細剣を掲げ、フェンシングのように引いて構えた。

 二秒遅れ、おじさんも魔力の揺らぎを感知。メイトさんはまだ周囲を伺っている。


 さらに数秒後、シャアア、と獰猛な鳴き声とともに床を這いずる音が聞こえてきた。

 坂の上より姿を見せたのは大型の蛇モンスター、猛毒コブラの集団だ。ざっと見て四匹、いや五匹。

 その名の通り毒を有するが、意外に厄介なのは噛みつきによる物理攻撃だ。


 ……初手は、物理防御の”シールド・D”か?

 まあ、ラブさんの実力次第では不要な可能性もあるな。さて、ラブさんはどう動く……ん?


「現れたね、醜悪な蛇共よ。さあ、我が美技の錆となるがいい――“空刃斬・C”!」


 いつの間にか、ラブさんは俺達から距離を取っており。

 細剣をかろやかに地に突きたて、魔力を伴いながら振り上げていた。


 遅れて、地面を這うように放たれる衝撃波。

 空刃斬は剣士系職が覚える基本の遠距離技だ。牽制、そして初手としては最適解。


 コブラの一匹が避けきれず巻き込まれ、悲鳴を上げた。

 その行動でヘイトを買ったのか、コブラたちがぎょろりとラブさんに狙いを定め、一斉に飛びかかる。


「”ハヤブサ斬り・D”!」


 すかさず、自身の速度を上昇させるスキルを発動しながら、横に飛びかかる。

 ”ハヤブサ斬り”は武器を振り下ろしつつ高速移動する攻撃スキルだが、単純な移動にも使える便利な技だ。発動ランクを低くしたのは、魔力消費を抑えてのことだろう。

 迫る牙を回避しつつ、さりげなく坂道の上方をキープ。反転する形で、コブラ達へと刃を振り下ろす。


 華麗に戦闘を始めたラブさんを観察しながら――俺は、密かに感心していた。


(上手いな。ヘイトを惹き付けつつ、坂の上をさりげなくキープした)


 坂道は基本、上をキープした方が有利だ。

 さらに一匹すれ違いざまに屠るのを見届けながら、一応、補助スキルが必要かと目線で合図を送る。ラブさんはそっと手の平を向けた。

 不要な魔力は消費するな、という合図だ。


「さあどうしたんだい、君達。ボクはまだ舞い足りないよ! さあ、かかってくるがいい」


 はははと笑い、ラブさんが残ったモンスターを挑発。

 応じるように、シャア、と声をあげるコブラ達だが、ラブさんの方が一足も二足も速く正確だ。





 ……言動は、エキセントリック。

 正直、愛や美について語られても全く理解できないし、意味不明にも程がある。


 しかし、その戦闘スタイルは真逆……堅実かつ、冷静。

 お仕事はきっちりこなす、おじさんと同質の探索者だった。



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