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万年D級非正規おじさん、現代ダンジョンで相談役をしてたら伝説の裏方と呼ばれるようになった件  作者: 時田唯
第一章

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第13話 おじさん、意地悪に勝利する

 子供のころは、おじさんも無邪気な夢を抱いていた。

 幼稚園の頃はテレビに出てくるヒーローに憧れたし、中学時代は病を拗らせ左手に暗黒の炎を宿した。

 高校、大学と進学する間も、自分は将来そこそこの大物になるのでは……と、根拠のない夢を抱いたものだ。


 けど、四十手前のおじさんにもなれば現実を理解する。

 ああ、俺は名だたる英雄にはなれないんだな、とか。

 俺の人生って、こんなもんなんだろうな、とか。


 同年代の連中が知らない間に結婚し、気づけば家族を養いきちんと大人として過ごしている。

 一方の俺は、仕事が終われば一人家でビールを飲み、毎日更新されるエンタメをルーチンワークのように消化しながら、ふと、人生これでいいのかな、っていう不安に襲われる……そんな毎日だ。


 けどな? それ故に、おじさんも知ってるのさ――

 気合いや努力、根性ではどうにもできない、現実ってヤツの恐ろしさを。


「ふああ……」


 ダンジョンの樹上であくびを噛み殺しながら、お気に入りの文庫本を開く。

 ダンジョン内ではスマホが使えないので、Web小説が読めないのが欠点だな……と苦笑しつつ、のんびり一休み。


 勝負をはじめて、既に三日。いかに彼女達が怒りに燃えていても、三日も経てば現実的な問題が露わになる。

 食料問題や、衛生問題。ダンジョンで自給自足の経験がない彼女達にとっては、大変キツイイベントだろう。

 それに事前連絡したとはいえ、親御さんも心配する頃合いだし、学校の課題を放置するわけにもいかない。


 そう。彼女達は若いJKゆえに、やらなきゃいけないことが沢山あるのだ。


 ……え? おじさんはどうなのかって?

 ふっ……俺は万年D級おじさん。

 両親との縁も既に切れ、家族も子供もいない。

 先日ついに職も失い、友人関係もさほど濃くない、万年D級独身無敵おじさんを心配する人が、この世にいると思うかい?


 そう。即ち……おじさんは、暇なのだ。

 そしてこの世において暇人に喧嘩を売ることは、最も愚かな行為のひとつであると、若い彼女達はまだ知らない……




 くくく……と悪役のように笑いながら、頃合いかなと判断する。

 正直、このまま放置しても勝てる。

 間違いなく勝てるが、最後は陰湿おじさんらしく、直接勝負をしたほうが彼女らの気も晴れるだろう。


 頃合いを見計らい、樹上より着地。

 森林地帯の合間にぽつんと開けた広間に陣取り、“ブックチャット”にて彼女達に通信を飛ばす。


 そろそろ飽きたので決着をつけよう、と、嘘の場所を教えると……


 彼女らは目の色を変えて合流場所に現れた。

 ……あーあー、可愛らしい美女達が全員泥だらけの汗まみれ。

 じつに探索者らしい格好になったなあと苦笑してると、シノブさんがかっと目を見開きこちらに気づいた。


 途端、溢れんばかりの殺意に満ちた魔力が、ゾンビのような行進をしていた三人から放たれる。

 うわぁ、完全に激オコじゃん……と思ったら案の定――彼女らは全員で突撃してきた。


「「「――――――!!!」」」


 魔力切れだろう、エリザさんは得意スキル”ライトニングアップ・A”も使わず、純粋なフィジカルでおじさんに迫り、


「”スタンマジック・D”」


 ぱちん、と指を鳴らす。

 彼女らの足元で、小さな爆発。無論その程度では、A級探索者の足止めにもならないが……仕掛けたのは、魔力を用いたスキルだけではない。


 直後、がこっ! と音が響き、――広間に飛び込んできた彼女らの足元が崩落する。


「「「!?」」」


 いわゆる、落とし穴。元々ゴブリンが獲物を捕らえるために仕掛けたものを、おじさんが改造したものだ。


 もちろん、探索系スキルを発動していれば簡単に見破れるものだ。

 が、三日間の探索活動と、おじさんを見つけたあまり怒りのまま突撃した油断が、仇となったね。


「残念。ダンジョンではいつどこに危険があるか分からないので、注意を怠らないようにしましょう。……学校で習わなかったかい?」

「ひ、卑怯者ぉっ……!」


 エリザさんの心地良い悲鳴を耳に、おじさんはニヤニヤとポケットに手を入れ悪役ムーブ。

 ああそうだ。言い忘れてたけど……。


「その落とし穴、ゴブリンが仕掛けたものだから、一部にゴブリンの糞とか混じってるからよろしく」

「「「んなぁ!?」」」

「年頃の乙女にはキツイだろうけど、これも勉強ということさ」


 ぐぬぬと睨む彼女達。殺意だけは立派だが、しかし体力が既に尽きているらしく、抵抗する様子は無い。

 おじさんは最後の〆に入る。


「そして、ひとつ教えておこう。今回はゴブリンの糞で許されたけど……これがもし、麻痺系のトラップだったら君達はどうしたかな?」

「「「――っ」」」

「仕掛けられていたのが、串刺しの槍だったら? 爆弾だったら? おじさんは優しいから、この程度で済ませてあげてるけど。もし本当に、悪意のある人間が相手だったらと想像してみるのは悪くないだろうね」


 学校では教えないけど、探索者業界にも色々あってね……。

 若い彼女らがそういうのの犠牲になるのは、年長者として忍びない。


「今後もダンジョン家業を続けるなら、冷静さを失わないことだね。そのためにも、君達はもうすこし年長者から学ぶといい。……でないとそのうち、大切な友達を本当に失うことにもなりかねない」

「っ……」

「おじさんからの、細やかな忠告だよ」


 話を終え、俺は右手にボウガンを構えた。

 俺は攻撃系の職業ではないが、落とし穴のなか、泥まみれで尻餅をついてる相手を射止めるくらいは容易い。


 さて、どうする? とおじさんがにやりと笑うと。

 エリザさんは唇を苛立たしげに歪め、悔しそうに。絞り出すように――


「……ギブアップ、ですわ」

「結構。素直で宜しい」

「……あなたみたいな人と、二度と、戦うものですかっ……!」

「俺も遠慮したいね。けど、ダンジョンでは時に色々な敵と遭遇する。いい勉強になっただろう?」


 彼女達に魔力回復と体力回復用のポーションを投げ、俺はその場を後にした。

 ま、あとは自力でなんとかなるだろう。

 ていうか、おじさんあの場に残ってたら三人に恨まれそうで、怖いし。


 ……それにしても、久しぶりにダンジョンで長期滞在したなあ……何だか懐かしい感覚だ。

 昔はダンジョンで数日間、一月とか普通にあったんだが……安全重視の時代になり、そういう週間もなくなった。

 昔を懐かしむのは、おじさんの悪い癖かねぇ?


*


 こうして、おじさん初のB・P社特別クエストは完了した。

 帰宅して早速お風呂に入り、いつものように自宅でビールを嗜んでいると、ぴこんと日野ちゃんからメッセージが届いた。



『初仕事お疲れ様でした! 依頼者から評価が届いています、ご確認ください!


・クエスト総合評価:D


・利用者からのフィードバック

 匿名E氏:最低最悪の――――(AIにより表現規制)でした。次は負けませんわ!

 匿名M氏:勉強にはなりましたが、友達が泣いてたのでD評価です。もっと良いやり方ありませんでしたか?

 匿名S氏:あーしは結構楽しかったけど、おじさんちょっとキモかったしみんながDって言うからD! ごめんね☆』



 ですよねー。分かっていたけど、溜息をつくおじさんであった。

 ……ああ。やっぱ余計な声かけなきゃ良かったかな……?






 ただ、ひとつ不思議あったのは――評価はDだが、B・P社から支払われた給与は規定通り、通常の三倍であった。

 日野ちゃんからも何故か「さすが小島さんです、今後もその調子でお願いします!」と応援のメッセージが届けられた。


 ……よくわからん。

 万年D級。実力もない嫌味なおっさんが、人様の二倍、三倍の給与を貰うような仕事が、ホントに出来たのかねぇ?


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