物欲の伝染
妙に引き込まれる絵ってあるよね
ハンガリー出張に行った際、街を歩いていると複数の絵画アーティストが合同で行うグループ展が行われていたので立ち寄った。
物販で一冊の本が目にとまった。文字は書かれていない。
リアルに描かれた綺麗な植物の葉の葉脈、昆虫が閉じ込められた鉱石、
昆虫の触覚、蝶の羽、水の中の穴、雪の結晶、人の目などをズームして一部分を大きく描いたものだ
ページいっぱいに色鉛筆や水彩絵の具で鮮やかで写実的に描かれた絵が美しく、息子にお土産として買って帰った
息子のユウトは最初こそ興味なさげだったが、いつの間に気に入ったのか、毎日食い入るように絵本を見つめていた
4日前の出来事だ
ユウトが手賀沼に落ちた
ユウトは本にかかれている水の中の穴を探して手賀沼に潜ってしまったらしい
妻に聴くと、ユウトは本に描かれているものを欲しがるようになったとのこと
虫の入った鉱石は妻曰く、異様に泣き叫んでねだられ、仕方なく博物館で買い与えたらしい
ユウトの机の中には8個程の虫の触覚だけがセロハンテープで画用紙にとめられていた。机の上の箱の中には蝶の羽が10枚ほど入っていた
本を確認すると
昆虫の入った鉱石は2ページ目
触覚は4ページ目
蝶の羽は6ページ目
水の中の穴は8ページ目
めくっていくと
16ページ目は人の瞳だった
本は急いで処分した
暫くは妻の夏子がユウトにつきっきりでユウトから目を離さなかった
しかし最近夏子の様子がおかしい
葉っぱや花の雄しべばかり集めて小さなガラスケースに入れて愛でている
葉っぱは10ページ目
花の雄しべは12ページ目
そして俺は今、14ページ目に描かれた雪の結晶が欲しくて欲しくてたまらない…
そんな話しを俺と妻の共通の友人あいみに話し終えたところだ
話し終えてすぐ彼女と目があった
俺をうっとりした目で見つめている
こんな時にそんな熱視線を送られて困ってしまう
欲しくて欲しくてたまらなくなってきた
浮気ダメゼッタイ