FAW探検! ワクワク旅行記 ~西~
俺とシンミンの会話を邪魔しないようあまり喋っていなかった三人が堰を切ったように話し始める。セウは散らばった情報をまとめるのに疲れているようだ。
「まあまあ、俺が頼りになる存在になったってだけでも大きい収穫だろ」
「頼りになる? 本当にそう思っているんですか?」
「そりゃ当然。未来予測は能力バトルものでも上位に位置するスキル。これさえありゃ俺も戦える筈だ」
「なら、これは見えますか」
「は?」
これって、何処のどのこれの話だ? 一体どれの……。
「……ん?」
前が見えない。痛みはないが、右の一部が窪んだように暗く見えない。いや、正確には俺の視界を覆うことが出来ない、華奢な拳が右の前に突き上げられているのだった。
「……いつの間に?」
「やっぱり、気付けないですよね」
一応、イカサマか何か仕掛けていないかアマに目配せで確認すると、あちゃ~、と手遅れだとしか分からないハンドジェスチャーで返される。視線を前に戻すと、ミシュが突き上げた方の拳でデコピンをかましてきた。
「痛っ、何すんだ!」
怒る俺と対照に、冷静なミシュが俺の見落としを指摘する。
「危険を予測出来たとして、攻撃を避けたり、見切る動体視力と身体能力がなければ理論バカの知識人と一緒ですよ」
「……体が追い付かなきゃ、宝の持ち腐れだって事か」
「サポートで考えればもう十分でしょうけどね。どれくらい先行して覗けるかは未知数ですけど、教えてもらえれば私達が対処出来ますし」
「ぐ……くそお、こんなことなら筋トレでもしておけば良かった……」
「今からでも遅くはないと思うよ。――実践レベルになるかは保証出来ないけど……。まあ、最低限、筋力増強はしておいた方が使い勝手は良くなるんじゃないかな」
インストラクターでもない、自分よりも小柄な少女にアドバイスされるのは何とも気分が悪い。この中で一番ガタイは良いんだがなあ。世界の出身が違うだけでこうも差があるものか。
「……これも世界出身の差、みたいなものなんすかね」
セウが反芻し終えた様で、(かなり疲弊してはいたが)ようやっと会話にログインする。それも偶然か、同じことを考えていたらしい。
「そうだと思うぜ。やっぱし、二人やミシュとは世界が違うからな。そこに影響されてるんだよ」
「ちょっとズレているような気がしますけど」
「ズレてる? ズレてるって、ミシュ、一体何処から何処にズレてんだよ」
「生まれた世界が関係しているか、その点には同意します。けれど、人間としてのスペックは、どっちかと言えば生まれた環境に起因するものだと思います」
「生まれた世界よりも環境……って、つまりどういうこと?」
頭上に疑問符が浮かぶアマ。セウもはっきりと違いが掴めていないらしく、顔を顰める。
「つまりですね。――市郎」
「何だ? 言っとくが、俺もよく分かってないからな」
「人を殺したことはありますか?」
「ねえよ⁉」
寝耳に水、どころか灯油を掛けられた気分だ。急所が縮む。
「ですよね。知り合いの中には?」
「想像したくもないが、俺の記憶の内には存在しないぞ」
「決闘はしたことあります?」
「俺の生きる現代じゃ時代錯誤の概念だ。勿論したことはない。鉄球も持っていないし」
「巨大な熊、猿に襲われたりすることが日常だったりは?」
「俺はグラップラーじゃない。というか、事実なら、俺は地上最強の息子よりもっとヘビーな日常を過ごしてることになるだろ」
「ニュータイプ? それかコーディネイター?」
「どちらかと言われればオールドタイプかナチュラルだが、どうにしろ宇宙進出なんてしてない」
「――つまり、戦いが日常の中に駐在している訳じゃない、そうですね?」
「まあ、仲良くはないな」「はいそれぇ!」「なあ!? 何だよ急に!?」
「世界ってよりは、そこが圧倒的に違うって話でしょ。つまりは」
割って入るはアマ。ミシュの趣意が彼女には分かっているらしかった。さっきまで俺と同じポジションだったのに、もう先輩面していやがる。
「世界みたいな根本的な概念じゃなく、もっと身近でドメスティックな関係、環境の方が重要だって話でしょ? ミシュ」
「アマ姉さんは流石ですね。あまりにも完璧すぎる説明で私の立つ瀬がありません」
「二人で勝手に終わらせるなよ? 俺まだ分かってないんだけど」
「え、あれ程非の打ち所がない、十全十美のセンテンスをもって尚理解出来ないと?」
「アマには悪いが俺にとっては九分九厘の説明だったんだよ。確かに、理解出来ないのはこっちに非があるかもしんないが、もっと噛んで含めるように説明してくれ」
「しょおがないですねえ。私がしっかり補足してあげますよ」
アマではなくミシュに煽られているのが気に食わないが、めんどくさいので言及はやめておいた。
「世界が原因と大きく括らず、ただ周囲の影響を受けた結果が格差を生んでいるんですよ。市郎は戦を経験したことはないですが、NWで市郎の居ない位置や過去に戦はあったでしょう?」
「……成程、納得した。俺は生物らしく環境適応をしてきた訳だ」
「おお、姉さんの解説で理解しきれていなかったから無理だと思っていましたが、まさか今ので理解できるとは。人の成長は侮れないものです」
「てめえ煽ってんな?」
「ええ、生きがいですから」
「清々しい笑顔で言うな!」
ますます輝くミシュ笑顔に暗くなる俺の顰めっ面。重要性のかけらもない論争が始まりそうな緊張状態を破ったのはセウだった。
「……でも、その考え方って結構受動的っすよね。環境適応、生物らしくと言えば聞こえはいいっすけど」
拾うのはアマ。
「ん? それって、まるで受動的だと都合が悪いみたいな言い方だね。受け手だと何かあるの?」
「いやさ姉さん、俺らは俺らの意識を、思考を、言動を持って生きていると考えているじゃないか。当然、俺らはそれを揺るがない正真正銘の事実として捉えている」
「右足と左足を交互に出すのも、俺自身が歩こうと思っているから、みたいなことか?」
「……まあ、そう、っすかね」
若干の苦笑い。どうやら違ったみたいだ。気を遣わない奴らと交流しすぎて、こういう反応には申し訳なさを感じる。
「こう、事実というよりは、意思とか心の問題っすよ。どうにか試行錯誤して、俺は自立して生きていると思っているのに、それが環境、周りに押されているだけなんだって考えるのは、何とも、努力に意味がないような感じがしないっすか」
「……まあ、確かに思わなくもないか」
「そう? そこまで悲観して捉えるものでもないと思うけどな」
「悲観じゃないよ姉さん。建設的に考えるとそうなるという話さ」
「まあまあ、物事の側面は一つではないでしょうし、文字の次元だけで捉えるとなんとも言い難い論争にしかなりませんよ。それに……」
ミシュがアナザーの進行方向に目を向ける。その他合計六つの目も倣って前方を見下ろす。
「どうやら、目的地に着いたみたいですよ」
短い草の並ぶ平原だった王国周辺と打って変わって、岩肌が露出し、奥の山からは橙と赤のグラデーションに溶岩が流れている。とてもじゃないが、俺の常識では生物の住処ではなかった。
「……おいおい、ステージ何個か吹っ飛ばしてんじゃねえかよ。八と九だろ、こういう、マグマステージは」
「人生は一本道を進むゲームじゃないですから。当然、難易度がバラバラでもクレームはなしですからね?」
「安心しろ。出来てたら、お前と会った時にしてる」




