FAW探検! ワクワク旅行記 ~神~
「ご名答、なんて褒めてやりたいが、儂以外と間違えられても困る。及第点じゃ」
トラブルの原因の癖をして、何とも上から目線で評価をしてくる。
「儂神様じゃぞ? 異世界の者にしたって敬意を持ち、地べたを這いずって請願すべきじゃろうて」
「ナチュラルに心読んでくるのやめろ! 堂々とするなよ!」
「もう慣れたじゃろ。それに、おぬしにペースを渡したらまた劇を始めるじゃないか」
「俺の人生はコントだぜ? 止められる訳ねえ!」
「命を司る立場からすると、もっと相応しい生き方があると教えてやりたくなるのう……」
「貴様に定められた道等歩まぬ! 我の道は常に一つ!」
「話聞いておらんよな?」
「ああ、都合の悪いことは聞き流した方が良いと親父に教えられた!」
「親の言うこと全てが正しいとは限らん」
「年の功バンザーイ!」
「会話は人と人が互いの言葉を聞くもんだと年寄りが教えてやる」
「なんだかんだと言われたら、抵抗するが……」「いい加減にせい!」「痛っ!」
普通に怒られた。後方から拳骨を落とされ、頭蓋がひりひり痛む。何をするんだと振り返ろうとしたら。
「ぐあっ」
頭を鷲掴みされ、強制的に首の回転を阻止される。ぐわっと広げられた手は、思ったよりも小さいと思った。
「一体何を……」「振り返らんでくれるか? 儂は心を許した相手にしか顔を見せたくないんじゃ」
……上から目線のシンミンが頼み事の形で言うのなら、本当に求めていることなんだろうな。
「……分かったよ。けどよ、拳骨はかなり痛かったんだが」
「自業自得、おぬしが悪い」
「短期間に二度も自業自得って言われたのは初めてだな。というか、神様に実体はあるのか」
「ん? ないぞ? 儂は正真正銘、概念のみの生命体じゃよ」
「え? ならさっき、俺をどうやって殴ったんだ?」
「脳に直接イメージを送って刺激を加えただけじゃよ。こうやって」
後ろから首に腕が回される。人間の成熟した太さよりも細く、どちらかと言えば少女のそれに近い。
「面白いものじゃろ? 実際に居なくても居るかのように殴ることが出来るんじゃ」
「例が物騒なのは気になるが、要は脳内人間が増えたみたいな認識でいいのか?」
「まとめてほしくはないが、まあ、間違ってはおらん」
……いや、待てよ?
「触覚が脳内なら、この会話も脳内インスピレーションなのか?」
「そうじゃな」
「……だったら、俺今一人で空気と受け答えしてるやべえ奴じゃね?」
「安心せい。ちゃんと周りにも聞こえておるよ」
あ、ならいいか。
「おぬしの口を借りておるからな。外から見れば一人で会話しているように映っておる」
「そっちの方がやべえ奴じゃねえか!」
宇宙を漂っていた三人はいつの間にか大地に降り立っていた。幸いにも事情を掴んでいるようだったが(神様と会った話や経験が効いたのだろう)、それでも可哀想な奴を見る目でこちらを眺めていることには変わりない。
「あ、安心して? ほら、雨垂れ指隙を通るって言うじゃない? 私は一部始終、徹頭徹尾聞いてたから」
ソフィアがなんとも言いずらそうにフォローしてくれるが。
「あんま慣用句の意味が分からんし、今のフォローは傷口抉るだけなんだよなあ」
「ご、ごめんなさい……」
「別に謝ることはないんだけど……」
「大丈夫じゃよイチロウ。印象がちょっと変な人に寄るだけなんじゃから」
「煽ってるよな?」
「当然。やり返しじゃ」
「くそぉ……」
神様は神様であって、適当に喧嘩を売るものではない事を思い知った。取り戻せる尊厳は既に無い事を察し、もっと有意義なことを聞いてみることにする。
「……で、何の用だよ、シンミン」
「ほう? 用とな?」
「誤魔化す理由なんざねえだろうが。お前がただ俺にちょっかい掛ける為に来た、――来たでいいのか? まあいい。来た訳じゃねえのは分かってる。大方、この右目石関係だろ?」
「もっとセンスのある命名をしてくれると嬉しいのじゃが……まあ、FAWなんて安直なワードセンスの持ち主に期待しても仕方はないか」
「俺じゃねえ!」
「そうよ! 私の渾身の命名を馬鹿にしないで!」
ソフィアがちゃんと怒った。AIにも誇りとかあることに内心驚く。心の奥がスケスケの今じゃ『内心』は表現以外の何物でもないが。
「ネーミングセンスは俺の過失じゃ……」「過失じゃないの!」「分かったってソフィア、話進まない。気持ちは分かるが勘弁してくれ。――ネーミングセンスは別として、俺の右目と痛みと引き換えにぶち込まれたんだ。ご利益とかあるんだろうな?」
「ご利益程神様らしいメリットはないが、実用的なメリットはあるぞ」
首に回されていた腕の内、右手を外し、俺の右目を覆う。
「これは目を模った石には違いないんじゃが、ちょっと特殊なものでな。ある場所に仕舞われていたものなんじゃ」
「なんだ、国宝だったりするのか?」
「国宝なんて大したものではないが、皆の信仰対象であったな」
「信仰対象? お前ぐらい?」
「儂くらい、というか儂じゃな」
…………。
「えっじゃあこれお前の目? グロッ」
「儂は概念じゃし、それは象った石だと言っておろうが!」
「あ、そういえばそうか」
本気で想像して気持ち悪くなっていた。潔癖症でなくても、勝手に他人の目が自分の眼窩に収まるのは寒気がする。
「全く……、右目石は教会の像から抜き取ったものじゃよ。カエズにやらせた」
何か凄いこと言ってません? とセウが驚き、まあ、あのシンミン様だからなあ、とご対面済みのアマは諦観する。
「明らかに神聖な代物なんだな。こうやって見えるのもありがたいお力ってやつか」
「儂は命を司っている。生命力を分配することなぞ容易いことよ。その目の本質は違うわい」
「なら実際問題、その本質とやらは何なんだ?」
「……ふっふっふ、気になって仕方がないのじゃな? 仕方がない仕方がない。無知を知る賢明な者程、知不を知識に変えたくて堪らん欲望を持つもの。是人の真よな。よって儂が、儂の名をもって、偉大で畏敬なる神として享受してやろう」
神様らしい台詞を並べても、勝手に厄介事を持ってきて勝手に焦らし始めたのはそっちだ。さっさと話してほしい。
「なんじゃ、ノリ悪いのう」
「周りの視線も含めて疲れてきてるんだ。教会の時程テンション上げらんねえよ」
「まあ、おぬしは碌に休んでおらんし、仕方がないか。ならば教えよう!」
顔は見えないが、大胆にふんぞり返っているのは分かる。やけに若い声色のせいで、成人を待ち侘びるあどけない子供の様なギャップを持っていた。
「――おぬしの目、それは儂を模った像の右目! それはつまり、儂の視界を共有するに値するものじゃ!」
「……それは何か凄いのか?」
「儂の視界が見えるということは、須らく命を持つ者全ての過去から未来に渡る流れが見えるということ。まあ言っちゃえば、全能視じゃ」
「まじで⁉」
おいおい、異世界転生、転移ものにはチートスキルの付随がデフォルトであったりするのが最早常識になりつつあるものだが(勿論例外あり)、ついに俺にもチー付与のご加護が来たか。それならば、ネーミングはしっかりしなければいかんな。神の右目……ゴットアイ……。――ダサいな。
「ただ、紛い物であることには間違いないし、あくまでおぬしは人の身じゃから、具体的に、更に全ての未来が見えないのはご容赦じゃ」
「はっは、許容範囲だぜ、そんなもん。どうせ後から強化されて本来の力が開放されるか、めっちゃ応用をして実質何でも出来るようになるんだからよ。細かいスペックは?」
「儂の右目を便利道具みたいに捉えておらんか?」
「いやいや、神器なんて触ったことないからな。具体的に性能を知っておきたいだけだ」
「それならいいが……」
納得してくれたようだ。さあさあ、俺のチートスキルは?
「おぬしが出来るのは……そうさな。――生命の危機察知、位じゃろうな」




