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FAW探検! ワクワク旅行記 ~目~

 俺が物思いに耽るのを止めると、セウは明らかに困っていることに気付く。起こそうか迷っているようだった。

 

「起こさなくて良いんじゃないか?」

「そうとは思うんすけど……、くっつかれると暑苦しいし、無理に苦しい夢を見させても仕方がないじゃないすか」

「……確かに」


 余りにも考えのない発言に自ら驚いてしまう。ミシュにはその様子が奇妙に映ったらしい。


「自分で言って自分で驚くって、どんな自業自得ですか」

「自給自足だ」

「市郎はホラー苦手なのに驚愕を自給するんですね」

「それはほら、怖いと驚きはちょっと違う感情じゃ……」「わっ」「ニャッ!?」


 突然の右耳距離感ゼロ爆撃。ソフィアの悪戯だ。

 事情を知っている(というか聞こえてる)ミシュは噴き出しかけ、聞こえていないセウは不思議そうに首を傾げる。


「……何すか今の」「忘れろ」「いや、唐突に……」「忘れろ」「今のは耳元で……」「解説するな!」


 俺は上がっていく体温に嫌気がさしながら、抑えきれない羞恥心に包まれる。しかも、俺がやられている間に、ミシュが警告を無視してセウに解説している。

 納得したらしいセウがこちらに薄い笑みを浮かべた。


「まあまあ、男には隠し事はあってなんぼって親父は言ってましたから。胸を張って生きるのがかっこいいっすよ」

「慰めようとしなくていいわ! 尚更恥ずかしいんだよ!」

「恥を塗り固めて人は生きていくんです。ビビりでもそれは立派なアイデンティティですよ」

「お前は傷口に塩を塗りたいだけだろ!」


 ビビり同士であるミシュには言われたくなかった。


「傷口に塩を塗る? そんな酷い事はしませんって。私は傷口を舐め回すだけです」

「女子に舐められるなんてご褒美じゃないすか。羨ましいっす」

「適当に誤魔化したのは悪かったから、追い討ちはやめてくれ!」


 これ以上も、つらつらと弄られるんだろうと覚悟を決めた時。


 ――プルルル。


 無機質な振動音を微かに感じる。


「――?」


 何か着信でも来たのだろうかと、震源であろう袋の中を漁ってみる。脇に置かれた袋にミシュを抱えたままでは覗き込めず、片手で漁る形になった。


「どうしたんですか?」


 ミシュは謎の振動に気付いていないらしい。どうやら膝上に居るミシュには伝わらなかったようだ。

「いや、振動を感じてな。通知でも来たのかと思って」「え、いや、何を……」「お、これか」


 ミシュが、俺が間抜けにも気付いていない、抜け切れていないNW(ノーマルワールド)の感覚に言及する前に、震源の正体を突き止める。物を肘や腕でどかしながら取り出すと、――それは球だった。


「……え」


 第一印象は驚愕だった。貰った物の中にこれがあれば誰でも驚いたり、訝しむものだろう。表面はまるで石のような灰色のカラーリングで、触ると滑らかでつるつるしている。何だこれは? 前衛的な()()()か? いや違うだろ。


 もっと観察してみると、それには模様がある。円形の黒、周囲に網のような凹凸。黒円の中心に向かい線が走っていた。これは……。


「………………目?」


 気付くと同時。まるで、メジャーリーグのスラッガーに打たれたかのように、石球は俺の右目に()()()()()()()。 


「――()っっっっっっっっっっ、ってえぇええぇぇぇええぇぇぇぇぇぇえぇぇえぇぇぇぇぇ!!!!」


 ミシュが反応し、俺が右手で防ごうとしても間に合わず、潰れた。明らかに、八面玲瓏、間違いなく潰れた。ぐちゃりと嫌な音を立てながら、あっけなく惨く潰れた。有るものが無くなる喪失感とそれに伴う痛みが、視神経を通じてはっきり伝わる。残った瞳孔が開き、心臓が人生最大の速度で収縮と拡大を連続する。


「………………⁉」「…………!」


 痛みとショックで聴覚が機能していない。もっと正確に述べれば、混乱し過ぎて意識出来ていないんだ。――ああ、痛い。どうしようもなく痛い。語るまでもなく痛い。どうにか表現したくてもその思考を阻害され、ありふれた一般的な三文字に集約されていくぐらいには痛い。何か別のことを考えて少しでも緩和しないと。……駄目だ。痛みで考えられないんだった。


「………!…………!」「……!………………⁉」

 

 ――くそ、赤い。紅い朱いアカい。左の空は青いのに、右の空は赤い。漸く見えてきた視界が、文字通り色眼鏡を掛けたような恐怖の風景に様変わり。これならば、もっと緑と青で描かれた世界を堪能しておけば良かった。半分は変わらなくても、右目からは()()()()()()()()()()()()()()

 そこまで考えた時、パニックに陥っていた脳味噌が違和感に気付く。




「……景色が、見えてる?」


 俺は右目が潰れたと認識した。けれど、俺には赤く染まった空やコクピットが見えている。もしかして、と鼻の少し右上辺りを触ると、それはあった。

 右の目蓋の下に、元からあった様に固い球が収まっていた。

 

 はっきりと現れた事実は脳を急速に冷却し、痛みと思考の優先度が逆転する。


 落ち着き、思考できる様になると、並んで周りの状況も把握できる。


 理解できないながらも、心配を隠さない顔でこちらを見つめる三人が居た。言葉も音ではなく言語に聞こえる。三人居るのは、俺が騒いだせいでアマも起きてしまったからだろう。


「大丈夫!?」「何が起こったんすか!?」

「落ち着きましたか!? 怪我は!」

「……ああ、もう大丈夫だ。怪我したと思ったらしてなかった」

「何言ってるんですか! あんな球が目に飛び込んで……」


 ミシュは俺の右目に嵌まった球に気付く。急に宇宙に飛ばされたような、ショートした顔になったので、俺は右目に被る血を拭い、よく分からないが起こったことを説明することにする。拭う時に石球が本物の目のように軟らかくなっていたことを軽い痛みと共に知ったが。


「……えっと」


 ……痛いな。考えられるとはいえ、痛すぎて堪らない。


「……治癒魔法とかあるのか? セウ」

「え、……それはあるっすけど……肉体の限界を越える回復は出来ないっすよ」


 あくまで自然治癒の範囲ということか。だが、ならば問題ない。


「十分だ。俺に使ってくれ」

「は、はい?」


 言葉足らずの指示で疑問符は付随していたが、魔法は使ってくれた。『回復(フーレ)』と呼ばれる魔法のようだ。


 右の眼窩の荒れた肉が治っていく感覚。少しこそばゆいが、痛みはみるみるうちに収まる。寧ろ快適だと思えてきた。


「……それで、右目は大丈夫なの?」


 切り出したのはアマ。


「ああ、飛び込んできた石ころが代わりになってて、あんまり支障はない」

「「?」」


 ……我ながら、説明が突発的すぎた。ミシュに加えて二人も宇宙に飛び立ってしまっている。もっと順を踏んで説明……いや、しても意味不明には変わらない。


「ええとだな……」「はっはっは! はーはっはっは!」「どうぇ⁉︎」

 

 真後から高らかな笑い声。「どうしたんすか⁉︎」とセウが驚いているが、反応出来そうもない。

 

「愉快じゃ愉快! 悟ったような(おのこ)があまりにもちんぷんかんぷんで慄く様は至悦の極じゃのう!」


 この無駄に年老いた喋り方、近くで会ったのは一人、いや一柱のみ。


「――あんたの仕業か! シンミン!」






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