FAW探検! ワクワク旅行記 ~最高~
「――やっぱり、ロングだと思うんすよ! 垂れ落ちる姿もさることながら、風にたなびき、揺れた姿を隣で眺めて一目惚れしない人間は居ませんって!」
「ばっか! うなじと耳にかかるもみあげを同時に堪能可能なショートこそ至高! 運動後に努力の玉汗が煌めくあの光景、世の画家はこぞってモデルにするぞ! 風を頼るチラリズム等邪道よ!」
「そおれは言い過ぎっすねえ! というか、うなじを楽しみたいってんなら、ポニーテールなんてのもあるんすから! 分かります? あの一本に纏められた毛束の愛嬌が、可愛らしさが!」
「短髪とは元気の証であり、元気それすなわちわんぱく! わんぱくっ娘は遊びを真剣に頑張って楽しみ、その姿はことカワイイにおいて比類なき理想像だ!」
「イチロウさんの好みが運動部なだけじゃないですか! 俺も活発な方が好みっすけど!」
「だよな! 友達みたいな関係性がいっちゃん燃えるよな!」
「はい! で、偶に出る女々しい一面が心の奥を刺激してくるんすよね!」
俺達は無言でアームレスリングのような握手を交わし、お互いの目を見つめ友情を確認する。空間を支配する破裂音と共に固くそれは握りしめられていた。
「……俺が間違っていた。セウと語り合わなければ、髪型なんて部分的で矮小な固定観念に囚われていたよ」
「俺もっす。人はパーツの集合体であっても、パーツの良否だけで人は判断出来ない。人生における命題の例解が分かりました」
「つまり……」
俺が溜める。
「つまりですね……」
セウも溜める。
「「……スポーツ女子は最高だ!!」」
「人前で変な友情築かないでください」
膝の上から冷ややかな視線と共に素早いツッコミが突き刺さる。だが、俺はその程度で屈しない。
「ふふふ……、いくらでも言うがいいミシュよ。お前が幾ら何を並べ立てても我等の友情は千古不易! 簡単に崩せる城ではないわ!」
「立派なお城じゃなくて、世間知らずの王様に言ってんですよ。女子の前で性癖の論争始めたことに文句をつけてるんですよ」
「ふっふっふ……、――それはすまん」
これは屈した訳ではない。非を認めているだけだ。ここで降ろされてしまったら途方に暮れるかしかないからな。
西にあるイテウというらしい国に向かう道中、アイスブレイクで疲れ二人が休眠している時に、俺とセウは異文化交流として情報交換をしていた。価値観から死生観までありとあらゆる感覚の共有をした究極、性癖の話に差し掛かったタイミングでミシュが目を覚ましたのだ。
「私が起きた時点で中断しても良いんじゃないですか」
「ミシュさん、運動するのは嫌いなんすか?」
「そっちは別にどうだっていいですけど、最初にしてた話の大概は人前でするもんじゃないですよ」
確かに、最初はスポーツ女子程ライトな癖ではなく、かなり深い層の癖で盛り上がっていた。因みに、セウは異端児という表現しか当てはまらない異端児で、俺は戦慄している。
「いや、だから論点をドギツいポイントから好きな髪型という女子でも参入しやすい好みに変えたんだが」
「あんな討論会に参入する程髪型に情熱を注いでないです」
「あんなとは何だ! 俺らの大切なイデオロギーだぞ!」
「そうだ! そうだ!」
「さっき間違っていたとか言っていたのにこれですか……というか、これ、やめてくれません?」
ミシュは俺に真っ直ぐだが、困っているジト目で少し睨みを利かせる。
「やめるって、何を?」
「これですよ、これ」
ミシュが急かすように指差したのは、ミシュの腰に回された俺の腕。
「……ああ、これか」
「何ですか? 私はぬいぐるみなんですか?」
「悪い、抱え込みやすいし、暖かくて心地いいんだよ」
「ぬいぐるみじゃなくて湯湯婆じゃないですか」
「何だって? 湯婆婆?」
「贅沢だねぇ。坊やの名前は今日から市だよ」
「俺は海へび星座の戦士か」
「ヒドラ? そんな強そうな奴が居るんすか?」
聞いたことのないであろう名前にセウが反応する。説明してやろうと思ったが、ヒドラに海へび星座に聖闘士と、項目が少し多い。どう説明したものか。
「物語上の架空の人物ですよ。めっちゃ弱いです」
「雑ぅ!」
本当に雑すぎる。そんな一応は分かるだけの内容で理解出来る訳……。
「成程! 雑魚敵だったんすね!」「なんで分かるんだよ!」
「いや、ヒドラのイチって、味方側の人間への名付けではないなって思って……」
……作品を知らない人にもキャラが伝わるようなネーミングに脱帽しつつ、それが自分の名前の一部であることに、靄がかかったようで、曖昧模糊の複雑な気持ちに駆られた。
「――安心してください、市郎。あなたが敵っぽい名前だからって、私は軽蔑はしませんよ」
「ミシュ……」
「煽りはしますけど」
「おい」
と、ミシュを見ていた視界の端にある、もぞもぞと動く姿に俺は気付く。未だに眠っていた少女、アマが寝たまま動いていた。
「……」
ただ寝返りをしているのではなく――座った状態で寝返りは出来ないだろうし――セウの体に自らを擦り付けている。マーキングのような動作だ。
俺とミシュの視線に気付いたセウは、困ったように笑って手を広げる。
「ああと……姉さんって結構寝相悪いんすよ。時々こうやって猫みたいに丸くなるんです」
「丸くなってなくないか?」
「……うーと、多分……」セウが推測を述べようとする。……その時。
「……おにいちゃん……」
――取り繕われない不安と、どうしようもない羨望の入り交じった寝言が、誰の意図もなくセウの言葉と被った。その時だけ苦しい表情を浮かべていたが、
セウはそれに確信を得たように続ける。
「……多分、ニトさんの事を思い出してるんすよ。久々に考えちゃって」
「……」
ニト。アマと同じ村出身の冒険者であり、現在行方不明の人物だ。
「全く……共通点とか少しは話してくれても良かっただろ、あいつ」
俺は誰に問いかけるまでもなく、純粋な愚痴を液中に溢す。
あいつとはセイクレート王国の現国王カエズ・フリードレートのことであり、共通点とはカエズの姉、ユンクォ・フリードレートも同様に姿を消していることを指す。
また、これは未確定の情報だが、二人は共に北の大地へ向かったんじゃないかと思われる。確信させる証拠は無いが、少なくとも、カエズはそう考えているようだ。




