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第三話 『北』 その十三

 瞬間。天を貫き、大地を揺らす怒声が僕らを(すく)ませる。精神的ショックで耳を塞ぐのが遅れた僕は頭痛と耳鳴りに襲われ、皆も耳を塞いでいるのがやっとの様子だった。


 無理矢理現実に引き戻され、僕の身体は(ようや)く動き始める。すると、周囲で守ってくれていた団員が気が付き、耳を塞ぎながら駆け寄ってくる。五人以外は木陰などに避難していたようだ。 


 咆哮の途切れ際、幾つかの地点、空中に魔素が集約していく。円を描き、四角を描き、文字らしき記号を描く。出来上がったのは、紫色に光る魔方陣だった。


 数を数えると五つ浮かんでおり、魔方陣が向いているのは攻撃を仕掛けていた五人。嫌な冷たさが背中を走る。


「――避けろぉ!」


 ユンクォさんの腹底からの警告と同時、魔方陣から数十の石礫(いしつぶて)が雨のように降り注ぐ。


 キスリさんは『水流』で礫の進路をずらし、クアリは『隆起』による防壁での防御で凌ぐ。ユンクォさん、ケルイさん、ドキウさんは、多少の被弾はあれど軽傷で回避した。こうして不意の攻撃に対する反応は成功する。対応が一瞬遅れたミアを除いて。


「……ァ」


 右肩を、腹を、左足を、右目を、左の脇腹を。体の至る所に裂傷と貫通痕が増えていく。


「……! …………、……!!」

 

 喉が潰されて言葉にならない叫びは、肉体を切り裂き貫かれる痛みを発散しようと暴れ、霧散する。心臓の位置に礫か刺さる頃には残った肉の方が少なくなり、肉塊は小さく横たわって息絶えた。


「――っ、くそ!」


 ケルイさんは結局救えなかった命を前に苦悶の表情を隠せない。


「ケルイ! 焦るんじゃ……」「分かってる!」

「……大丈夫だ、ドキウ。……大丈夫です」


 ドキウさんの心配を振り払って叫ぶ彼の目が、まだ冷静さを保っていることに僕は気が付いた。覚悟はしていたのだろう。


「ならいい! それより、今の魔法の使い手を……」


 途中まで話していたドキウさんが何かに気付く。彼の見上げた先に、未だ魔方陣が展開されたままだった。だが、五つではない。六、七、八と数を増やしていく。


「物陰に隠れて下さい!」


 クアリが『隆起』で更に厚い防壁を建てながら声を荒げる。ケルイさんとユンクォさんはクアリの防壁へ、キスリさんとドキウさんは近くの樹木の裏に回る。間もなく魔法陣が輝きだし、再び石の雨が降り出す。さっきよりも遥かに増えた物量、大きさとなった礫は触れた部分全てを削り抉る。僕と共に隠れていた『北洋道』団員が焦り始めた。


「まずいです! あんなもの何度もぶち込まれたら辺り一辺が更地になりますよ!」

「どうすれば……」


 こうしている間にも僕らの隠れている樹木は削られ、幅が狭くなっている。


 ――考えろ。突破口はある筈だ。熊は動けない為、脅威としては一旦除去出来る。問題はどうやってこの魔法を止めるかだ。


 効果的なのは術者の魔法使いを叩くこと。展開されている魔法陣はここから見える範囲でも十三あり、今も拳サイズの細石を生成し続けていることから魔法系統は地、展開された数から複数人が仕掛けていると考えられる。なら、『海坊主』の何人かが容疑者に挙げられるが、地魔法を扱えるドワーフは数人どころか一人も見かけていない。外部者の犯行? いや、ここで奇襲を仕掛ける意味が分からない。あのタイミングでの魔法は熊の首輪への攻撃、巨熊への危害を邪魔する目的があったと考えられる。何故邪魔をしたのか?


「……自衛のため?」


 数珠繋ぎのように突如浮かび上がった答えに僕は強く噛み締める。そこから、ありったけの声で叫んだ。


「奴はただの熊じゃない! 魔法を使う魔物です!」


 樹木で防ぎきれなかった小石が左腕を掠る。だが、石礫はこれを最後に降ってこなかった。どうやらインターバルがあるようで、魔法陣は展開されたままでうんともすんとも言わない。僕は走ってクアリの防壁へと駆け込む。同じ事を考えていた様で、キスリさんとユンクォさんも防壁の裏に居た。魔法陣が光りだし、石の雨は再び猛威を振るう。


「ニト、大丈夫?」


 クアリは参っていた僕の心配をしているらしい。僕視点では、あれを見て参っていないクアリの方が心配ではある。


「もう大丈夫。それよりも、あれの対処をしなくちゃならない」

「ニト、あの熊が魔物だってのはマジかよ?」

「考えていくと、その方が納得がいくんです」

「石礫の魔法をどうにかするには、あのデカ熊を倒すのが手っ取り早いってことね」

「しかし、どうするんです? クアリさんの壁で防げても……」


 小さなクレーターは数を増していき、森は元の姿を失っていく。


「攻めに出てしまったら、最悪、ミアの二の舞に……」

「一応のインターバルも出来て一行動しかないわ。もし熊に致命傷を与えられても、相打ちになってしまう可能性が高い」

「一体どうすれば……きゃっ⁉」

「何だ⁉」


 急に大きな物音が響く。視線を向けると、石礫によって根本を折られた木がだんだんと倒れ、また別の木に寄りかかっていた。幸い人は隠れていなかったが、他の木も限界は近い。


「やべえな、このペースじゃ『海坊主』の奴らを抱えての撤退が間に合わねえ。『海坊主』が犠牲になるか巻き込まれるかになっちまう」

「……ユンクォさん」

「どうした、クアリ」

「ブルビースなんですよね? 私達は知らなかったですけど」

「……それは悪かったと思っている」

「今は良いんですよ。ただ、ブルビースなら()()が使えるんじゃないかと思って」

「あれ?」


 僕はブルビースについてあまり詳しくない為分からないが、ブルビース特有の魔術でもあるのか。当のユンクォさんは明らかに困っている。珍しい表情なのでまじまじと見つめてしまった。


「奥義を使うのは構わないが、死に際の抵抗が少し怖いな」

「私がフォローします」

「……分かった。次のインターバルに動こう」

「えっと……悪いけど、何をするつもりかは共有してくれる?」


 勝手に話を進める二人にキスリさんが割り入る。

 

「ああ、すみません。ブルビースの奥義を使えば行けるんじゃないかと思って」

「その奥義? ってのがあまり分からないんだけど……」

「聞いたことありませんか。ブルビース特有の技で、生物としての本能を……」「キスリ、すまない。クアリ、もうすぐインターバルが来るから準備を」

「え、ちょ」


 無茶して欲しくないのであろうキスリさんの制止は届かず、二人は防壁の端へと寄る。適当に追って二人の策を妨害することになってはいけないので、単純に追駆をすることはいけない。命を投げ棄てるような行為かもしれなくても、このまま待っていれば全ての命が落ちる可能性がある。


 何より、僕には二人の行動が、僕への仕返しのように思えてならなかった。






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