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待機

 剥き出しだったコックピットが再び胸部に格納、液体で満たされる。アマ達は咄嗟に顔を上げるが、縦横無尽に機内を動く液体からは逃れられない。呼吸が出来ていることに驚嘆しているのが目に見えて分かった。


「これも魔法じゃないって、異世界どうなってるの……」

「慣れればひんやりとして気持ちいいぞ」

「流石に適応力がずば抜けてると思うんすけど……」


 明らかに二人よりも乗っているんだ。適応もそれなりには済んでいる。背中をなぞられている感覚に襲われている二人は座りがぎこちなかった。


 WITHから届けられた大量のステータスで風景が(勿論全体ではないが)隠される。システム上、WITHを着けていない二人にこの情報は見えないのでまだ景色が展望出来ている筈だ。


 俺の視点では複雑且つ膨大な情報量で模様にしか見えないが、ミシュは軽々と処理していく。まあ、実際はソフィアも協力しているのでミシュだけの力ではないっちゃない。


「何度も見てる筈なんだが全く意味が分からないな。任せっきりになっちまう」

「その点で言えば、市郎も操作はやっておいた方が良いですよ。万が一、私もソフィア姉さんも運転が出来ない事態になったら、次点で名前が上がるのは市郎ですからね」

「やあ……ミシュが居ない時ならともかく、ソフィアが居なくなる時があったらどちらにしろアナザーには乗れないんじゃないか?」

「WITHが故障する可能性はありますから。一応、象に踏まれても絶対に破損しない強度にはなってますけど」

「そのキャッチコピーが付いてるなら大丈夫だろ。俺寝てるわ」

「信頼しすぎでは?」

「看板に偽りなし。だろ?」

「まあ、否定はしません」

「ゾウ? 初めて聞く名前だね。二人の世界の生き物?」

「そう。鼻が長いのが特徴で、人間の数倍は大きい動物だな。一般的に動物と言えばで思いつくランキング四位ぐらいには入るんじゃないか」

「メタファーとしても使われますよね。ほら、えっと……」

「サーカスの象か。トラウマの例え話でよく使われる」

「そうそう、それです」

「サーカスの象ってどういう話なんすか? 前提としてサーカスが分からないっすけど」

「サーカスは火吹きとかロープの上でのバランスとか、普通は出来ない見せ物をやる曲芸師の集団のことだと思えばいい」


 セウは深く頷く。


「で、曲芸の中に象を使ったものもあるんだよ。別に芸自体は悪くないんだが、演技する以前、象を何処かに置いておく必要がある。それで、逃げられても困るから逃げないように拘束するんだが、ここで使うのは細い鎖なんだ」

「細い鎖……あれ、さっきゾウは人間の数倍は大きいとか言ってなかったっけ」

「ああ。この鎖は象のパワーがあれば余裕で破壊できる代物だ。だが、象は逃げない。何故かっていったら……」「小さい頃から同じ方法で拘束されているからですね」


 ……いきなり横から台詞を取られてしまったが、言いたいことは一緒だ。しかし、頭をくしゃくしゃにする権利は貰ったと考えておく。


「えっと、どうして子供の時から小さい鎖で捕まえておいたら逃げなくなるの? 結局意味が掴めてないんだけど」

「姉さん、さっきもイチロウさん達が言ってたじゃないか。トラウマのメタファーだ、って。要は、ゾウは昔のトラウマに囚われて逃げないんすよね?」

「その調子だと、解説しなくても分かりそうだな」

「お二人の話が分かりやすいんすよ」


 相手が当然知らない話をしただけなのに優越感に満たされる。こっちがセウの素なのだろうか。だとすれば、とんでもなく人をおだてるのが得意だと思った。一方、膝上に乗っかった相棒は未だに?マークを頭上に浮かべている。見かねたセウが口を開く。


「あのな、姉さん。子供の頃に大した理由もなく鎖で繋がれたらどうする?」

「え、抵抗するよ。鎖が取れたらやった奴をボッコボコにする」


 アマの腕力で襲われると考えると、身震いが抑えられない。

 

「じゃあ、どうやっても鎖が取れなかったら?」

「いや、どうにかして……」「全力を発揮しても、身を削っても、道具を使っても、あれもこれもして、それでも壊れる様子が無かったら?」


 アマは理不尽な状況に隠さず嫌そうな顔をする。


「もう諦めるしかないじゃん」

「姉さん、正解」

「え?」


 セウはこっちに『後は任せた』とアイコンタクトを飛ばす。美味しい所はくれるらしい。やはりこいつはおだて上手だ。

 

「……正解って言うと努力を否定するような形になるが、まあクイズとしては正解なのは間違いないしいいか」


 御託は置いといて、結論への補足をする。

 

「セウの誘導でアマが導いた結果と同じく、象はその鎖で繋がれたら諦めてしまう。自分の足に巻き付けられたこれからは逃れられないと学んじゃうんだよ」

「……あー……あ! はいはいなるほど!」


 少しずつ上がったトーンが頂上に届き、合点がいったようで、何度も頷いていた。この二人が居たらセールスマンの安い商売より(やす)い商売に引っ掛かりそうだなと深く思った。






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