出発
簡単なヒントが大量に散らばっているおかげで、カエズの意図は俺にも分かった。
「カエズは北の大地に答えがあると睨んだらしいな」
「そのようですね」
同じ結論に辿り着いていたミシュも相槌を打つ。
「答えって……国王様のお姉様が北の大地に居るってことっすか!?」
「神の言葉が聞けるカエズ達が見つけられないんだ。あり得るのは天が覆われている、スキルが使えないイコール神様の力が届かない場所だと考えるのも妥当だ」
とはいえ、二人の話を聞いた所だと、今のメンツで突撃しても最悪全滅、軽くて一人。しかも殆どの確率で足手まといの俺が退場する。
俺には異世界に渡る際のチートスキル付与なんかされていないし、ましてや主人公補正もない(たまたま駆けつけたアマに助けられた後にほざけることでもないが)。
幸運なんて何度も引き寄せられるものではない。やはり今すべきなのは……。
「「先ずはもう一つの仕事から終わらせ」」「よう」「ましょう」
「うわっ、びっくりしたわ!」
「こっちの台詞ですよ。いきなり被せないで下さい」
「いやいや、被せてきたのはミシュの方だろ。俺の方が少し速かった」
「なーにぬかしてるんですか。私の方がコンマ一秒速かったです」
「本当かあ? 嘘ついてねえだろうなあ?」
「そんな睨みを利かせても事実は怯みませんからね」
「あーそうですか。ならソフィア! 計ってたか!?」
ソフィアがただの空間から現れる。
「もー、二人が話してたから黙ってたのに。……えーと、ミシュの方がコンマ一秒速いわね」
「くっそお……!」
「へへん。私に勝てると思わないことですよ?」
「二人とも何で競ってるのよ。結局は一緒なんだから特に変わらないし」
「姉さん、売られた喧嘩は買わなくちゃいけないんですよ」
「いつ市郎くんが喧嘩売ったのかしら」
「全くその通り! ミシュの方が挑戦者だからな?」
「どっちも違うわ。それに、事情を話さないと変人認定されちゃうわよ?」
「変人? 俺とミシュ、どっちがどうしてそう思われるんだよ」
「いや、当たり前に話しかけてきてるけど、私二人の網膜に映ってるイメージなんだから、当然あそこの二人には見えないじゃないの」
「「……あ」」
「……あの、何してるの?」
不思議そうにアマ達がこっちを見ていた。
「えーとな、これは……。ミシュ、どう説明すれば?」
「……実は、私達の中には神様が宿ってるんですよ」
「え」「神性を殆ど喪っていて力はありませんが、会話ぐらいは出来るんですよ」
おいおいおい、ペテン話し始めちゃったよ。
『しょうがないじゃないですか。人工知能の解説とか過程が長くなるだけですよ』
『ちゃんとテレパシーで会話してくる辺り本気で騙す気なんだな。オーケイオーケイ乗っかります』
「神様って、お二人の世界の神様ってことですか?」
「正確には俺の世界の神様なんだが、まあ解釈としちゃあ曖昧でも問題はないか(嘘だし)」
「曖昧であるが故に私達が器として意識を持ちながら存在している訳ですし(適当ですけど)」
「な、なるほど?」
「とりあえず別の神様が居るってことでいいんすよね?」
「その通り。いい理解力だ」
「あざっす!」
「そういうこと……なのかなあ」
どうにも曖昧過ぎる部分があるのは誤魔化し、そういうものだと納得してもらおう。
「で、もう一つの仕事って何なんすか?」
「俺達の計画、ITプロジェクトを王国と親交のある国に通達することだ」
「……骨の折れる作業だね。確か東、南、西に一国ずつ存在するはず」
「全部渡るまでにどれだけ時間を喰うかっすね……。最低三、四ヶ月はかかりますよ」
「いや、それはアナザーを使えば直ぐに終わる」
「シミュレーション結果ではありますけど移動時間だけなら三日ぐらいで終わります」
「……これって慣れた方が良いの?」
「悪いがその方面で。俺は解説出来るほど理解出来てないし、もし分かってても解説出来る自信がない。気になるなら移動中にミシュに聞いてくれ」
「了解」
「姉さんにだったらこの世の全てを教えます」
「ミシュ、自分の知ってることしか教えられないの知ってるか?」
「知らないものは存在しないと思い込めばこの世の全てを知っているということになります」
「今直ぐソクラテスと押し問答してこいや」
「知らないので無視します」
「無敵かよ……てか絶対知ってるだろ」
「褒めてくれて嬉しいですよ。――では、三人とも、アナザーに乗りましょう」
ミシュはアナザーへと指を指す。習うより慣れろで行くつもりらしい。
「待て、アナザーに乗ること自体は賛成だ。けど、どうするんだ? アナザーには席が二つしかないじゃないか。また増やすのか?」
元々一席だったコックピットは、席が増設されたが最大数は二。四人が座るスペースは無い。
「席数をこれ以上増やすにはアナザーのスペースが足りなくて、もし増設するならアナザー自体を改修する必要が出てきます」
「今は無理な相談なんだな。じゃあ、どうするんだ」
「考えがあります。私の指示に従ってください」
ミシュは俺らに指示を出しながら、アナザーを乗り込み待機状態にするようソフィアに伝える。
「先ずは市郎とセウが乗り込んでください」
言われたままに実行する。
「ここに座ればいいんすか?」
「ミシュが言うにはな」
押し出された背もたれに体重を預けると、セウは感動を小さな息と共に吐き出す。
「ベッド以外にここまで快適な物があるなんて……」
俺の感覚では、この座り心地はほど良いと言えるものだが、セウからすれば大分高級品に思えたらしい。クッションとか持ってきたら売れそうだな。
「ミシュ、次は何をするんだ」
「市郎達はもう何もしなくても大丈夫です。次は私達が乗ります」
「え? いやだから、何処に乗るのかが問題じゃ……」
俺の疑問を聞き流し、当然のように満席の空間に寄ってきて、また当然のように俺の太股の上に腰を据えた。頭の天辺が良く見える。彼女は首をくるりと向け、またもや当然だと主張する。
「ほら、これでアマ姉さんがセウの上に乗れば全員乗れます」
「……いやいやいや! 問題ないのかこれ!?」
「システム上で問題はありませんよ。飛行は可能です」
「物理的な所は良いんだ! 精神的な所だ。お前が俺に密着するのが怖くて仕方がない!」
「それどういう意味ですか」
やっばい、本気トーンだ。
「か、勘違いするな! 決して俺はお前がこうすることに抵抗を覚えていないことに戦慄し嘆いた訳ではなく、お前のツッコミ攻撃を避けることがほぼ不可能なことにビビりまくっているだけだ!」
「……怒ってませんから、必死に意味の分からない弁明をしないでください。――嫌われるようなことをしたとは思いますが、これ程とは……」
「嫌ってるとかじゃないんだって! 本当に! むしろ逆! ミシュがここまで俺に心を許してるとは思わなくて」
「……もう、三年以上の付き合いで信頼が無い訳ないじゃないですか」
――やはりおかしい。唐突に信頼度が最高潮まで達している。出発前のミシュでは考えられない立ち回り、言動で、俺からすればびっくり箱かお化け屋敷と変わらなかった。返事の仕方が本気で分からない。
「え、ああ、おう」
当然、あやふやな答えをお返ししてしまった。
「……煮え切らない返事ですね」
これ以上追求するつもりはなかったのか、一言だけで感想は終わった。が、少なくとも嬉しそうな表情は見えない。
どうしようかどうしようか、と付け加えるべき事項を考えているうちに、話題は乗り方の問題へ。
「さあ、アマ姉さんも乗ってください」
「いや、ミシュちゃんぐらい小柄なら良いかもしれないけど、私とセウじゃきついんじゃ……」
「そうっすよ。姉さんが乗ってきたら俺の脚がぼろぼろにっ!」
セウがまた失言を言い切る前に、アマが尻から跳ねるようにして乗り込む。相手の安全を考えない速度で腹部に命中し、えずく声が周りに微かに響く。
真後ろで小刻みに震える男をただの座席シートとみなして扱いながら、荷物のリュックを置き、口を開く。
「何処から行くの? 先ずは東?」
「……いや、西から行きましょう。一番距離が短いルートですから」
ミシュは『セウを無視する』を選択。まだセウを許していない節があるので違和感はない。かといって、擁護できるポイントは俺の視点からも確認できないため、暖かそうな席だなと思うことにした。
「「了解」」




