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再会






 ……突風が吹いた。本能はつい目を開いた。

  

「命を司る神よあの馬鹿の身を案じ黒金(くろがね)の如き肉体を与えたまえ『鋼鉄(セツーレ)』ぇ!」

「ぶべらっ!」


 男が横に吹き飛ぶ。お笑いと間違われても仕方がない情けない声が聞こえたような、それか腰が四十五度近く曲がったように見えたが、はっきりとは認識できなかった。速すぎて、綺麗には見届けられなかったのだ。


 似たような出来事を俺は体で覚えている。人を吹き飛ばす膂力(りょりょく)、移動したことに気付けない程の速度。


「市郎! 大丈夫ですか!?」


 魂が抜けたようにへたり込む俺を見て心配してくれているらしい。彼女に無事の意を伝えようとしたが、自分が思っているよりも硬直していたことで体内から空気を上手く吐き出せていなかった。軽い過呼吸で返事してしまっていた。少しすれば直ぐに落ち着く筈。

 

 ――いやしかし、こんな芸当が出来る人物は思い当たる内ではあいつ一人だ。男が消えていった方向へ目を向けると、想像していた人物が男を馬乗りになる形で組み伏せていた。


「いってえ……。姉さん! 一体何のまねを……」

「それはこっちのセリフよ! 宿に帰ったら居なくて、主人に話を聞いたら『巨人が出たって部分だけ聞いて飛び出した』って聞いた時どんだけ驚いたと思ってんの!」

「巨人なんて聞いたら留まっていられないだろ!」

「ちゃんと話を聞きなさい! あんたが寝てる間に王国に飛んできたのよ!」

「飛んできたってことは何処かから来たってことになる! だから俺は……」「王国に現れたのは巨人じゃないの! 確かに巨躯で人の形を保っていたけれど、あんたが言ってる巨人は目撃すらされてない!」


 気圧差で飛び出した魚の目と比べても遜色のない驚き具合に、やはりこいつはギャグの世界の住人なんじゃないかと疑ってしまう。

 

「で、でも、実際居たじゃないか!」


 若干押され気味な男がアナザーを指して必死に抗議をする。口答えしながらも気持ち腰が低い言い争いは、二人をあたかも姉弟(きょうだい)のように幻視させた。

 

「……はあ」


 心底呆れていることをよく表している溜息の後、疲れが隠しきれていない声色で。


「あれ、巨人じゃないよ」

「…………へ?」


          ◆◆◆◆

 

「誠に、申し訳ございませんでした!」


 俺とミシュの前に(うずくま)る男。ミシュは初めて会った時と同じゴミを見るような目で見下していた。喰らった経験しかなかったので、横から見ると新鮮で少し面白い。


 男の頭を地面に押し付けているのは、手の内にいる人物への怒りとこちら側への謝意が含まれた複雑な表情で腰を曲げる女性、アマ。


「自分の勘違いで杖を向けてしまったこと、本当に取り返しのつかないことをしたと思ってます! どうぞなんなりと!」


 男が涙でくぐもった声でそう述べた。

 

「いや、別に怪我をしたとかじゃないから大丈夫なんだけど……」

「なーに言ってるんですか市郎! アマ姉さんが来てくれなかったら頭吹き飛んでたんですよ!? 同じ目に合うべきです!」

「姉さん? やけに(うやうや)しい態度じゃないか」

「私の右腕を助けてくれたんですよ!? むしろ命の恩人本人であるあなたの方が(うやま)うべきでしょう。アマ大・先・生と!」

「えっと、流石に小恥ずかしいから止めてくれないかな」

「分かりました姉さん! 市郎、そのままで!」

「……何か色々助かったよ。ありがとう、アマ」

「いやいや。私はこの馬鹿を止めに来ただけだから」

「すいませんでしたあ……」

「身内の愚行を身を(てい)して止めるお姿、美しいったらありゃしませんよ!」


 ミシュ、お前そんなキャラだったっけ。態度が気持ち悪いし、アマへの信頼度が限界突破している。

 

「というか、私人逮捕で刑罰まで勝手に決めるな」

「権利はあります!」

「権利云々関係なく人は人を殺めることが出来るだろ。とにかく止めといた方が良い。そろそろこいつが可哀想になってきた」


 自分の判決がさらりと仮決定されている恐怖から蹲っている体がふるふると戦慄(わなな)いている。


「さっきの俺と似たような思いをしてるみたいだしな。俺が許すからミシュは何も言うな」


 男の顔が随分明るくなる。

 

「あ、ありがとうございます!」

「ただし、人の心臓握ったくらいの仕事はしろよ?」

「はい!」

「……意外ですね。市郎はもうちょっとしつこいものかと」

「俺を油汚れと間違えてないか?」

「いいえ、そんなまさか。定期券で乗った電車のアナウンスくらいにしか思ってませんよ」

「……ちょっとしつこいけどどうでもいいくらい?」

「はい」

「……」


 まあ、正直に言えばさっさと終わらせたかった。謝られる側はあまり気分が良くない。いや、謝る側が楽とか思っているわけではなくて、正義のヒーローみたいな面をするのが嫌ってだけだが。


「……イチロウさん、神様ぐらい心が広いんだね」

「ん、皮肉をここで言うのは変じゃないか?」


 全く知らない話を振られた顔をしたアマを見て、初めて世間一般の意味で発されたことだと気付いた。まずい、ええ格好しい奴だと思われてしまう。


 ミシュはなんとなく意図を分かってくれたようだが、支持はしてくれなさそうな顔をしていたので自分で話を逸らす。


「と、ところで、まだ名前を聞いてなかったな。アマの仲間なんだろ?」


 自己紹介を頼むと、急いで立ち上がった。

 

「はい、俺はセウっす! アマ姉さんと一緒に冒険してます! 得意なのは水系統の魔法っす!」


 想像していた口調とは打って変わった後輩口調に困惑してしまったが、単純に疑問を浮かべて流してみる。

 

「水系統ってのは?」

「あ、そういえば魔法についてはあまり知らないんでしたっけ。人によって使いやすい魔法が違うんすよ」

「なるほど。アマにもあるのか?」

「あるにはあるけど……。私はあんまり使わない」

「姉さんは脳筋ですから。メインはスキルでっ」


 セウが頭に拳を下ろされる。重く体に響く音がしたので中々の威力だったと思う。


「脳筋はやめて。格闘タイプならいいって言ったでしょ」

「わ、分かったよ。――ともかく、魔法は人によるって話です」

「はあ」


 セウの知識はためになったが気になることが増えた。どうせならまとめて聞くのがいいだろう。


「なあ、セウ」

「はい?」

「魔法とスキルについて詳しく教えてくれないか?」

「はい、いいですよ」


 初めて起動したゲームのチュートリアルを聞いた気分であった。




 魔法とスキルは大体似たようなものであって、これらを分ける大きなファクターは神様を介すかどうかという部分だそう。


 スキルは神様にやって欲しいことを頼んで発動する仕組みで、頼みを言葉にした詠唱が必要。魔法は詠唱は必要ないが、自身の魔力を変換するための魔方陣を組む必要がある。


 スキルはある程度改変が可能で、アマは自身が最も得意とするスキル、『抜刀(タケ・クレ)』を抜刀する構えから高速化する部分を応用し、高速移動(アジリティー)として応用、先程も使っていた肉体を鉄のようにするスキル、『鋼鉄』も対象をセウに替えて発動することでダメージを軽減していた、らしい。

 

 魔方陣は組める形には本人の肉体の性質が関係し、組みやすいものとしにくいものがどうしてもあるらしい。これが魔法の得意系統として現れてくる。大方種族に依存するものと考えられているようだ。因みに組む速さ、規模は慣れとのこと。


 セウはこの手の話題になると止まらないタイプらしく、矢継ぎ早に情報をもたらしてくれた。


「……てなもんで。魔法を理論的にまとめる考え方がポピュラーになったのは意外と近年で、――といっても三百年程前なんですが、フィーリングやイメージからの発想が苦手な人でも魔法が使いやすくなったんすよ」

「へえ」


 学校で習ったのだろうか。彼は魔法の歴史についても詳しかった。ミシュも食い入るように耳を傾けている。


「とまあ、俺が知ってるのはこんくらいすかね」

「ありがとう。今後も頼む」

「いえいえ。またのご利用を……って今後?」

「……ああ、セウにはまだ言ってなかったね」


 アマが説明を引き受けてくれた。


「ほら、国王様から依頼が来たって話。あれ」

「……あれって嘘じゃなかったんだ。光栄なことだけど、じゃあ依頼内容は?」

「異世界から来た彼ら二人、イチロウさんとカイヤ・ミシュールさんを手伝いなさい、だって」

「……へ?」


 ……勿論、直ぐに受け入れられる訳はなかった。






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