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第二話 沿岸の国にて⑨ ~再び地上にて~

 あれからもう少し遊んだ後、子供達と一度別れることにした。今日のうちに二回も彼らの顔を曇らせてしまったが、楽しかったという部分の方が大きくあったようで、別れを惜しんでくれた。


「また来てくれませんか!? まだ借りを返せてません!」

「もちろん。必ず帰ってくるよ」


 イヌクとはどのゲームでもいい勝負をした(細かくは覚えていないが、勝敗でいえば半々ぐらい)。


「皆も、またな」

「またね」

「ばいばーい!」「また遊ぼ!」「……今度はもっと遊びたい」「二人とも元気でね!」

「また会いましょう! お二人とも!」


 軽くやりとりが行われて、僕とキスリさんは地上へと上がった。


「ありがとうございます」

「随分と唐突ね」

「子供達に会わせてくれたお礼です。最近はあんな経験していなかったので楽しませてもらいました」

「それはこっちもよ。あの子達は本当にいい経験をしたと思うわ」

「……」

「? どうしたのかしら?」

「……彼らのことについて、少し気になることがあったんです」


 キスリさんは納得した様子を見せた。

 

「なら、歩きながらにしましょ」

「分かりました」


 ここまでの道程と変わらず、キスリさんの後ろについていく形で帰りの道を隙間を縫うように進み始めた。


「……キスリさんの言っていたことは本当でした」

「おぞましい景色、と言ったかしらね」

「はい」


 この世界に生きる同じ人間の筈なのに、何処か違う。が、そうとはいえないぐらいの小さな違和感。確かな解は既に出ている。恐らくキスリさんの頭の中でも出来上がってきている筈だ。


「あの子達には何かしたら必ずハグをする癖がある。人の暖かさを味わいたいからだとか思っていたけれど、ニト君の善意を避けてるって話から別の可能性が出てきた」

「ヒントはティルがくれました。彼らの癖には必要性がある。条件が引っ掛かっている。その条件の話でいったら、キスリさんが考えていた理由も間違いじゃないと思います」

「……温もりが欲しいという共通認識があるから、でしょ」


 僕は同意する。

 

 「あの子達だけの狭い社会では共通認識が簡単に常識になる。常識は基準になるわ」

「例えば、――対価とか」

「……繋がってきたわ。必ずハグをする理由はつまるところ、お(れい)の報酬だから、よね?」

「僕も同じ考えです。しかし、問題はそこではない」

「ええ。何故必ずハグする理由になるか、の方が大事よ」


 キスリさんは当然のように僕の言葉の先を紡ぐ。

 

「皆、何かをされたら何かを返すのが当たり前になっているのでしょうね。まあ、この港国(くに)だからなのもあるでしょうけど」


 それもあるだろうが、思い浮かぶ理由がもう一つある。

 

 「無償の愛を受ける機会が無かった。ティルやフォア、イヌクも。全員がそうなのでしょう。だから、彼らの中には()()()()()()()()()()

「……パッと見じゃ気付けない。会話をしてても気付けない。それぐらいには表面上は普通なのよね」

「盗みをする生活で、表面を繕うのは自然にしてしまう体が出来たんだと思います」


 善意だけを知らない子供達はとても歪で、一種の恐ろしさを感じてしまう。


「……どうするべきでしょうか」

「どうするって……、あの子達を助けるってこと?」

「はい。お金の問題だけでなく、彼ら自身の問題が出てきてしまいましたから。どうすれば善意を教えられるのか、実際に教えて善意として扱えるのか分からないので保険として補う案が必要だと思います」


 キスリさんは困ったような、迷っているような曖昧な顔で噛み砕く。彼女自身に夢物語だと諭された考えを今更持ち掛けたのだ。納得はする。


「……難しい話ね。私が提案してどうにかなるような部分じゃないわ」


 その上で、彼女は否定せず乗ってくれた。道理よりも机上の空論を優先した。僕にとっては嬉しい心境の変化だが、現実を変えた訳じゃない。手詰まりなのは何も変わらなかった。


 思い付くことは出してみたが、やはり厳しいものが多い。一つ案が流れてきても、拾うデメリットがあったり、遠すぎて届かなかったり。


 このまま二人で話していても堂々巡りだ。全く別の刺激が、第三者の意見が欲しい。


 ……ふと、ある人物の顔が浮かぶ。


 もしかしたら、彼女なら思い付くかもしれない。僕よりもよく出来た人間で、真面目な彼女なら。

 

 あまりこういうことには巻き込みたくなかったが、ユンクォさんに聞くよりかは良い選択肢だと思う。お気に入り以外はぞんざいにしがちで有名(ユンクォさん本人談)なあの人にこの手の話題は向かない。やはり、知恵を借りてみるのが得策だ。

 

「……あいつに話してみようと思います」

「あいつ……昨日、ニト君といたキルニって子?」

「いえ、金髪ではありますけど別の人ですよ」

「……金髪が好みなのかしら」

「選り好んではいませんよ。偶然です」


 からかいまではいかない、単純な疑問らしきものをぶつけられた。意識から抜けていた項目なのでそっけなく返す。


「まあ、本当に金髪好きだったら私とは関わろうとはしないでしょうしね」

「タイプかどうかで関係を全て管理しているとしたら、自己中心的にも程がありませんか」

「……大物商人の息子だと実際居たりするから覚えておくといいわよ」


 目をそらしながら話す姿は、内容が実体験からのものだと主張していたので肝に銘じておくことにした。


 直後、僕は目をしばたたかせる。真上からの日光が強制的にさせてきたのだ。五秒あるかぐらいで復帰した視界には、迷い込む前の大道が広がっていた。

 

「脱線してしまったけど、戻ってきたみたいね。それで? (くだん)の人は誰なのかしら」

「――クアリ。村で一番の真面目で、今は一緒に冒険している僕の一個上の幼馴染です」


 そう答えた時。


「やーっと見つけた! 何してんの!」


 横から耳をつんざく大音声が響く。


「朝ごはん買いに行ったかと思ったのに、もう昼だよ! もうお腹ぺっこぺこ!」

「い、いやいや! 自分で勝手に食べろよ!」

「待ってたの! 別の用事かもって一応朝食も買って! いつもの置き手紙無いし!」


 ……。

 そういえば、朝ごはんを買いに行くだけのつもりだったから忘れていた。

 怒り心頭の顔を寄せて詰められ、たじろいでしまう。


「ほら、ほっつき歩いてないで宿に戻るよ!」

「ちょ、ちょっと待って! こうなったのは深い事情があって……」


 キスリさんが止めに入ったことにより女遊びをしてたのかとあらぬ勘違いをされ、結果、クアリにことの顛末を語るのは少し先になるのだった。






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